一方通行の商店街
ええ、この商店街にはルールがあります。
簡単です、一方通行。あと、真ん中は避けて歩いてください。真ん中の方を見ても駄目です。。。変ですよね、あぁいや、私は至って健康ですし、なにかあなたに危害を加えようとたくらんでもいません、これは親切ですよ。タダほど怖いものはない、とも言いますがね。でも大丈夫ですより私の言葉をあなたがどう受け取ろうとも、通りに入ったらわかりますから、感覚で。あなたは私の言ったとおりに動くでしょう、その感覚は間違いじゃない。ただそれを伝えたかったのです。それでは。
私はホラー雑誌の記者だ。そして、件の通りの前にいる。記事のため、生活のために。これは、合理的である。
さて、どうしようか。街の人に話も十分に聞いた、聞いたがどうにもわからない。記事にする上ではどうしても通らざるを得ない、「一方通行の商店街」。一方通行というからには、入口と出口があるのだろうか。出口とされる方から入ろうとすればどうなるのか。反対側から周ろうともしたが、どうにも道路の構造的にいけない。気になったが、まずは、入口から素直に入ろうと思う。そしたらわかることもあるだろう。
入口(仮)には、取材や噂通りの内容と遜色ない通りのルールが書かれた立て札ーー由来やらと共に公共物としての体で置かれている。手作り感はないーーを横目に、誰もこちら側に向かってこようとしていない事に気づく。通り自体は、2車線ほどだろうか。私の視界には、買い物客らの後ろ姿、そして途中の店に入る一瞬の横顔が見えるばかりだ。そして、綺麗に通りの真ん中がすっぽりと抜けている。
いや、いや確かに異様と言われればそうだが、そこまでではないだろう。どこにでもある至極普通の商店街と大差はないじゃないか。身構えすぎたと少しばかり安堵し、ホッと息を吐きながら入り口をくぐる。そして、
後悔した。
なぜ、くぐってしまったのだろうか。外からはあんなにも明るく見えた商店街の活気が、今はこんなにも世界から血の気が抜けて見える。誰も通りにいない。深夜のシャッター街と見間違えるほどに、私以外の人間がスルスルと姿を隠す。私に向けられる視線は徐々に増えていく。
物が地面に落ちるように、空気がそこにあるように、それの通り道なのだと私は理解してしまった。
この通りを抜けてはまずい
しかし、振り返ってもまずい
そうこう悩んで立ちすくんでいたら、後ろに張り付いている声にすすめ、という趣旨のことを囁かれているのがわかる。
歩みを止めたらどうなるかわからない
出口に近づくにつれて、向こう側に何があるのか、そして私がなんなのかを理解した。
私は生贄だった。
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