Girl’s/Slash/Egoism 第一幕:【刀銃朗血風譚】・序 鬼狩り鬼斬鬼はひとでなし




   ■■■■■■■ 開幕【刀銃朗血風譚】 座席お間違えなく ■■■■■■■




 或る唄が有る。

 極東が日本の片隅、今や伝える者とて絶えかけた詩に、このような節がある。



 ——鬼狩り鬼斬鬼はひとでなし。

   あやしを殺すもまたあやし。



 その土地には、古より、害なるものが湧いて出た。

 異形の化生けしょう。ただ命に仇なし、幸福を汚す為に生ずるとしか思えぬ魔性。

 人々はその理不尽を【鬼】と名付け、太平が為、それを狩る御役目を定めた。

 つまりは【鬼斬鬼】。名の由来は、人であることを捨てること。


 何故、人を捨てねばならぬのか。

 単純だ。それらと戦う激務の過酷さ、求められる性能は、人の範疇を超えているが為。

 人であるままでは、過酷なる御役目に耐えられぬ為。



 ——鬼狩り鬼斬鬼はひとでなし。

   あやしを殺すもまたあやし。



 千年の昔に始まった御役目は、まず選定者を、世の条理から外すことから始まる。その身を霊魂へと変換し、鬼と戦える素体に……【斬鬼甲冑】へと憑依させるのだ。

 人の世が為に人を捨て、平和が為に安息を捨て。

 鬼斬鬼は千余年、日の下には明かせぬ外道の御技を以てして、湧き出る鬼を狩り続けた。


 繰り返される斬り結び。刀を支えに登る螺旋、呪いが如き使命くなんの継承。

 永劫終わらぬ重荷の継続——そこに、ある時光が見えたのだ。


 西暦が二千を超えた現代に生まれし最新の鬼斬鬼。戦技蓄積されし甲冑と一体と成る故に、鬼斬鬼の資質に男女の別無し。問われるはその魂、適合……鬼と戦う覚悟である。

 その新参は、それを備えていた。

 初陣より戦果抜群、守り難きを守り、救い難きをたすけ、最早担い手現れぬと封されていた斬鬼甲冑武装、巨銃【黄泉転よみころげ】の解放に至り、遂には鬼斬鬼が最上位の称号【刀銃朗】の銘を賜るに至った天賦有り。


 三代目・鬼斬鬼刀銃朗。

 齢六つの着装以来、人生の半分の時間、甲冑を纏い続けた少女。

 その功績は並外れていた。

 それが眩すぎて、同じ鬼斬鬼の者さえ、忘れていた。


  

 ——鬼狩り鬼斬鬼はひとでなし。

   あやしを殺すもまたあやし。



 誰が何と言おうと。どう伝わっていようと。

 その子が、ごく普通の、少女であったなど。


『————う、ううううう』


 暗い、暗い、薄暗いほらに、呻くような声が響く。刀銃朗が、一度として戦場いくさばで漏らさなかった感情がある。


『うあ、ああああああ、ああああああ』


 それは、大詰めの場面であった。

 有り得ない奇跡か、千年続けた人間の執念か。理の一部と認め、防げぬものと認めるしかないと半ば諦められていた鬼の発生……それを閉じられる、唯一の方法。

 ある協力者の手によって、塞ぐべき【鬼脈】の発見が叶ったのだ。


『あああああああ、あああああああああああ』


【鬼】の溜まり場にして、【鬼】の湧き出る通り道。核によって場所を変えつづける領域の観測は万に一つの偶然であり、今を逃せば、万年先に機会があるかもわからない。

 鬼斬鬼はこれこそ千年の悲願の果てであると、全勢力を投入。当代刀銃朗と絆深き【鬼脈】発見の功労者でもある協力者の少年の助けを得て、ついにその最深部へ、刀十朗以下鬼斬鬼衆の精鋭を送り込むことに成功する。

 

 しかし。

 ああ、だがしかし——。


『…………でき、ない。どっちかなんて、選べ、ない——』


 戦いは苛烈を極め、立ち塞がる鬼という鬼を斬り、その手に残る装備も僅か。

 そして、悲願は其処にありながら、三匹の鬼が立ちはだかる。

 三匹はそれぞれが、封じるべき鬼脈を生み出す核と、刀銃朗のかけがえなき恩二人を押さえていた。


「迷うこっちゃない。。お母さんと一緒に帰れ。でなきゃ、何の為に戦って来たんだよ。この人に、自分を娘にしてくれてありがとう、って伝えるためだろ?」

「違う。。元より我ら鬼斬鬼衆の外の者、犠牲にするは是法度……何よりも。鬼無き世をお前が生きるのに必要なのは、こいつみたいな目標だよ」


 二人は共に訴える。刀銃朗が選ぶべき正解、選びようもない二者択一を。


 片や、日向志央。刀銃朗の抱える脆さに気付き、内に秘めた弱さを助けてくれた想い人。

 片や、葉渡椿はわたりつばき。実親から捨てられていた刀銃朗を、強く生きよと拾い育ててくれた義母。


 すなわち、ここが岐路——彼女が、何を切って捨てるのか。

 弾は一発、刀は一本、しかして譲れぬ願いは三つ。

 いかなる技を持とうとも、同時に取れるは、二つまで——

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