1日ヒロイン
ワイワイ
第1話
朝、カーテンから漏れた光で目が覚める。体が気だるい中、目をこすりながらベットから体を起こす。
「おぉ、やっと起きたか。」
何やら女性の声がする。目を開けると女性が目の前に・・・。って言うか誰!
警戒して少し後ずさる。
「だっ、誰ですか。」
恐怖で声が震えてしまう。
「おぉ、面白いほどにびびっておる。だがおかしいのぉ。男は起きた時に目の前に美少女がいたら喜ぶはずなのじゃが。」
目の前の女性が腕をくみ、目を閉じて考え始める。いや結局お前は誰なんだよ。・・・でも本当にヤバい奴なら僕が寝ている間にとっくに何かしているか。そう思うと少し冷静になれた。改めて目の前にいる女性を見てみる事にする。女性というか少女か、座っているから完全には分からないが背丈は大体小学生ぐらいに見える。・・・ただそれだけではなく、ありえない事が二つ。一つは頭にケモ耳が二つ生えている事。もう一つは空中に浮いていること。
・・・こいつは人間じゃないのか?
「おぉ、ようやく冷静になったようじゃの。——では話すとするか、わらわは神じゃ。」
何言ってんだこいつ。
「おぉ、この状況でもまだ疑うのか変な奴じゃの。なら仕方がない、お前の願いを一つ叶えてやろう。ほれ言うてみ。」
まじで意味不明だが、もうなんでもいいや。
「じゃあ百万円下さい。」
「やはり金か、まぁわらわの力を見ておれ。」
神様を名乗る少女が手を叩いた瞬間、目の前に札束が現れた。
「・・・まじでこれ本物?」
「もちろん本物じゃ、心配なら使ってみるが良い。そもそもこんな芸当ができるのはわらわくらいのもんじゃ。」
確かに手を叩いただけで物を出せる人間なんていない。本当に神様なのかも。・・・でもやっぱり信じられない。
「実はこの世界は夢とか?」
「いちいちめんどくさい奴じゃの!頬をつねればわかることじゃ!」
痛い、痛い、痛い!
「分かりました。分かりましたからやめてください!」
そう言うとやっとやめてくれた。
「本当に神様なんですか、悪魔みたいですよ。」
「神は何をしても許されるのものじゃ。」
やっぱり悪魔だ・・・。
「ところでなんで神様が僕の前に?」
「そうじゃ、それを言うのを忘れていた。」
神様がこほんと咳払いをして話し始める。
「お前は選ばれたんじゃよ。全人類の中からたった一人。今日一日だけお前の夢を叶えてやろう。」
・・・何を言ってるんだ。いきなりスケールがでかすぎて理解できない。
「俺の好きなことをしていいって事?」
「そうじゃ、お前が望むならなんでも良い。女でも、金でも、犯罪でも叶えてやろう。」
・・・まじでか。
「な、なんで僕なんですか。」
動揺が隠しきれない。
「そうじゃの、わらわの好意じゃ。」
「僕、何かしましたっけ?」
「まぁ、お前のおかげで人間界に歩を進めることが多くなっただけじゃ。で、でも勘違いしないでよね別にあんたのことが好きってわけじゃないんだから。」
「どうしたんですか、急に・・・。」
「これこれ、ツンデレかよ!ってつっこむ所じゃろ。」
・・・この神様つかめねぇ。
そうか、なんでもしていいのか。だとしたら何にしよう。俺は性欲もあるし、食欲もあるし、金だって欲しい。でも叶うのは一日だけか・・・。そうなると前から叶えてみたい夢があった。
「・・・女の子になってみたいです。」
「ほう、そんなことでいいのか?」
「はい。」
——中学校の時、テレビで初めてラブコメを見た。出てくるヒロイン達をめちゃくちゃに可愛いと思った。輝いていた。引き込まれた。
——なってみたいって思った。
そしてその時からアニメ沼にはまった。その結果、大学生になった今でも漫研に入って同人誌を作りながらオタク活動に勤しんでいる。
「分かった、ではお前のなりたい女はどんなタイプじゃ?」
「なりたいタイプ・・・ダウナー系は最近ハマっちまったんだよな、でも初めて好きになったのは清楚系だし。いやメンヘラ系、元気っ娘もありだなブツブツ・・・。」
「やはり愛に溢れておるな。早口過ぎて途中から聞き取れぬぞ。」
「安心してください。オタク特有の早口です。」
「会話になっておらん。」
悩んだ末に・・・。
「では、まずは清楚系からお願いします!」
「清楚系と言っても色々あるじゃろ。」
「じゃあ、神様が思うやつで。」
「お安いご用じゃ。」
ドキドキする。どんな感じになるんだろうか。
「完成じゃ。鏡でも見てこい。」
緊張と興奮が入れ混じる。鏡を見た瞬間。
——可愛い。これが僕。黒髪のロングヘアに黒い瞳。いつも以上にさらさらしていて、いつも以上にキラキラしている。服装はセーラー服。可愛い!
「神様、可愛いです!」
声も綺麗だ、興奮してるせいか通常(?)よりも高そう?
「そうじゃろ!お前分かっとるな。あと学校のカバンじゃ。ほれ持ってみろ。」
「わぁ!すごい完璧ですよ!」
憧れだったその姿。喜びからだろうか、衝動的に動きたくなる。
「神様ちょっと出かけてきます。」
「ほれ、行ってらっしゃい。」
外に出て歩くと、いつもよりワクワク感がある。街のあらゆる物に核を感じる。心を感じる。今、周りの人は僕をどう思っているのだろうか。それすらも楽しい。しばらく家の近くを歩いてまわる事にした。
「神様ただいま戻りました。」
「うん、おはえり。」
家に帰ると神様がポテチを食べていた。もうこの家に馴染んでいるようだ。
「どうじゃった。」
「楽しかったです!次、お願いします!」
「分かっておる、そう慌てるでない。それで次はどうしたい?」
「そうですね、じゃあクール系でお願いします。」
「任せておけ。——よしできたぞ。」
また鏡の前に立ち、確認する。
銀髪のミディアムヘア、瞳は透き通っていて心の深くを見通すことができそうな感じだ。表情をあまり変えないでいると、本当にミステリアスでクールだ。服装がさっきと同じままなので違いがより鮮明に分かる。——ここまで変わる物なのか。
「・・・」
「どうじゃ、可愛いじゃろう。」
「可愛いですね。さっきまでと全然違います。」
「それだけ、わらわの術が完璧ということじゃ。それで、また外に出るか?」
「そうですね・・・せっかくの休みだし、家でゴロゴロしようかな。」
「そうか、ならば服装も変えておこう。」
——なるほど、パジャマがピンク色で可愛い系だ。クール系とのギャップが最高だな!
「最高ですね!」
「最高じゃろ!」
神様と意気投合したところでゴロゴロタイム。平日は忙しいから、休日ぐらいは休みまくろう。お菓子とコーラ、ゲームに漫画を手が届く範囲に設置。最高の休日を堪能する。美少女姿でこれをやるのが背徳的で、いつもより刺激的な楽しさをしている。一度家でゴロゴロすると抜け出すのが難しい物で、ずっと家にいてしまう。せっかく神様がいるので、いつもやらない協力型のゲームをやってみたり。アニメについて二人で語ったりして楽しい時間を過ごした。美少女になっていつもより楽しいのは間違いない、だけど何かが違う気がしていた。
気がつけば夜になっていた。
「そういえばお前、もう他の女の姿にはならなくてよいのか?」
「・・・そうですね、楽しいんですけど何か違うんですよね。」
「ほう、わらわの好みに対して少し不満か?」
「そうじゃないんですけど、何か違うと言うか。可愛くなれて楽しいし嬉しいんですけど・・・なんか違うんですよ。」
「ほう変な奴じゃの?」
「あぁ、分からない!」
分からなくて、分からなくてじっとしてられない。
「神様、今から同人誌作ります。手伝って下さい。」
「ほう急じゃな、どうしたのか?」
「女の子の絵を描いたら落ち着くかなって、せっかく神様もいるしいつもより良いのが描けそうなので。」
「・・・面白そうじゃな!賛成じゃ。残りの時間もわらわを楽しませてみろ。」
「そうですね、楽しませてみせます。ところで神様はなんでそんなにオタクなんですか?」
「お前の作品のせいじゃ。」
「それって僕のファンって事ですか。」
「そういうことじゃな。」
「・・・急に恥ずかしい。」
1日ヒロイン ワイワイ @18RD
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