第87話 ユンド帝都

 寂しい皇帝の間

 皇帝の列席があるも知るも

 臣下の列が自然と減る。

 フライゼ=アファル宰相

 ガレゾノ=ミニアロ大将

 は列席をしている。


「皇帝陛下に、報告が来ております」

 下臣が扉を開いて、皇帝の前で、跪く。


「何事か?」

 アファル宰相は問う。


「ベロニア国に隣接するグルフィ都市が攻撃を受けました」


「それで、被害はいかほど?」

 ミニアロ大将は問う。


「城門・城壁が破壊され、防御能力がなくなったと、住民の動揺は大きく、遠方へ避難する者が続出して、廃墟になりつつあります」


「誠か!」

 アファル宰相は驚く。


 すでにルッカ軍にソルラン国と接する広大な地域がルッカ軍に支配されている。

 今度はベロニア国に隣接する都市を落とすのか」

 ミニアロ大将は口を開いた。


「陛下、今すぐでも、チェンアルク国へ出国なさるのが、上策と進言します」

 アファル宰相は陛下の前に出て、進言した。


 皇帝は沈黙する。


 そのまま皇帝は、玉座から姿を消した。



 半月後、皇帝の間に、悲報が届く。


 チェンアルク国に隣接するラカンラ都市が破壊・全員死亡の模様。


 ハルローゼン国に隣接するグビーノ都市は城門・城壁はすべて破壊。


 エルミエ都市も城門・城壁はすべて破壊。


 2都市から住民全員避難、2都市とも廃墟になった模様。

 チェンアルク国方面に行く者。

 帝都を目指す者達で、大混乱していると。



 もう皇帝の間には

 アファル宰相

 ミニアロ大将

 皇帝親族の省長ぐらいだ。

 ユンド国の3分1がルッカ領土になってしまった


 この現実はユンド国周辺の国々にも大きな衝撃となった。




 アゲルゾ国の王都に滞在中の

 エルクト=クレミア外務省長は宮廷から謁見の儀が行われないまま、イライラ。

 ついに、マルミ=クレミア皇太子に帰路を進言する。

 早急に、出立つの準備にかからせ、数時間後には王都を後にした。

 アゲルゾ国に出国を急ぎ、合わすように都市での迎えは全くなく、都市の扱いも、徐々に冷めた雰囲気を漂わせた。

 アゲルゾ国の国境の関所を通過するのに6日は要した。

 歓迎の顔とはうって変わり、敵意が滲んで見られた。

 シュレカ国に入国。

 ソルラン国沿いなら5日は短縮できるが、安全かの不安がある。

 遠回りの行程で、ベロニア国を目指すか。

 シュレカ王都には寄らず、ソルラン国沿いにベロニア国境からユンド帝国に入るかとクレミア外務省長は思案する。

 早い帰国が、一向の安全だ。

 熟慮を重ねて、危険を冒して、シュレカ国とベロニア国境からユンド帝国に進むしかないと判断した。

 野営も覚悟しての行程に、一向の誰もが疲労困憊。

 朝を迎える度に、使用人が少しづつ消えていることが徐々に分かった。

 小規模の町で、なんとか食糧を買い込んだ。

 噂話で、グルフィが襲撃されたらしいく、住民が遠方へ避難が始まったらしい。

 すでに、この地域にルッカ軍が侵攻しているのに、行路を変更する必要にせばまれた。

 皇太子馬車から乗馬をクレミア外務省長は進言した。

 ついに皇太子が切れた。

 周辺の者達にも気にせず、不満をぶちまけた。


 翌朝、また人数が減っていた。


 ユンド国の思惑以上にルッカ軍の動きが速い。

 苦難行路を進み、野宿もしながら、ベロニア国の関所に辿り着いた。

 そこで、関所の通行許可がおりなかった。

 抗議するも、全く相手にせず、王都に問い合わせていると。

 野宿しながら、関所の入国許可を待つ。

 一体どうなっている?

 ユンド帝国の状況が悪化しているのか?

 全く情報がない。

 やっと入国許可が王都から届いたが、王都への立ち入りは禁止された。

 そんざいな扱い。

 うって変わった状況が掴めない。

 王都を避け、ユンド帝国の国境を急ぐ。

 3日かかって、ユンド国境が見えた。

 関所で、異様な光景を目にする。

 ユンド人が多数、ベロニア国入国の許可を求めて殺到していた。

 ベロニア兵も沢山警護にしている。

 クレミア外務省長は兵士に、

「どうして、こんなにユンド人が入国を許可しているのか?」


 遠方のチェンアルク国と隣接する都市が落とされたという。

 信じられない情報だ。


 クレミア外務省長らは出国の許可を求め、通過した。


 やっとユンド帝国に戻ったという安心が湧いた。


「静まれ、誇り高きユンド人が情けない。

 自国の奮闘に立つべきではないのか」

 マルミ=クレミア皇太子は立派な皇太子専用馬車から姿を出した。


「お前達が、ユンド国をメチャメチャしたんじゃなのか!」

 一部の群衆が言う。


「無礼者!。皇太子殿下に対して、不敬だぞ」

 皇太子の護衛騎士らが剣を構える。


 皇太子一向を取り囲むように、ユンド人群衆が迫る。


「これ以上、近づくな!」

 騎士は剣を抜く。


「今度は、ユンド人を殺すのか」

 何処からとなく、言いのける。


 向こう側には関所の兵士がいるが、こちら側には門番も兵士もいない。


 沢山のユンド人に取り囲まれ、身動きすら難しい。

 誰かが皇太子の脇腹を刺した。

 皇太子が刺されたことも、無頓着で、群衆は騒ぎ立てた。

 暫くして、クレミア外務省長も背中から刺された。

 騎士も殺され、血が吹雪いた時、群衆は後退し出した。


 皇太子馬車から後退した群衆。

 馬車を囲むように、20人程が地面に倒れこんでいた。


 群衆は荷馬車から貴族馬車からと略奪を始めた。

 金品になる品々を奪いあい。殴り合いと。

 地面に伏せる遺体には無頓着に、奪い合いになった。

 ここまで辿り着いた下男下女らは荷馬車から逃げるように出て行った。


 国境側のベロニアの兵士らは、ただ状況を見るしかなかった。

 そう、殺されるのを傍観するしかなかった。


 ユンド側の騒動が一段落すると、再びベロニア国の関所に許可を求めユンド人が殺到した。




 宮廷の一室で、

 フライゼ=アファル宰相とガレゾノ=ミニアロ大将は密談をしていた。


「いよいよ、ユンド帝国も崩壊に向かっている。

 そちは、いつ帝都を離れる?」

 アファル宰相は聞く。


「はぁ。できるだけ早い出立を考え始めています」


「そうだな。

 隣国が入国許可がある内に、こしたことはない」



「アファル宰相様は、いつ出立を?」


「ワシは歳を取りすぎた。

 このまま帝都の滅亡を見届けようとおもっておる」


「御家族は?」


「できるだけ、亡命をさせたが、・・・・。

 後談になるが、ルッカ軍がユンド帝国を制圧後、周辺に亡命したユンド帝国の身柄要求もあると考えておる。どうした。もんかな・・・・」


「閣下は、ルッカ軍が周辺国を威圧するとでも、お考えあるのですね」


「ああ、余りにもソルラン人を奴隷狩りし過ぎた。そのしっぺ返しは強烈だと思っておる」


「はぁ・・・・」


「あのユンド人の殺し方を聞き及ぶのに、相当にユンド人を根に持った所業だ。

 公衆面前でどんな殺され方をするかと、思うと身の毛もよだつ」


「そうですね。殺害された方は、尋常ではありません」


「人間が人間を狩って、狩った人間を奴隷と称して、売買はあってはならない悪業だったのだ。

 誰も陛下には異を唱えることができなかった。

 奴隷に反対した都市には、監視と食糧援助の打ち切りで、人口減を図った。

 そのしっぺ返しも受けている」

 アファル宰相はしみじみ言う。


「私は奴隷狩りを実行した元締め。どんな裁きはこれから受けるか知りませんが、帝国を支えた武人として、最後まで陛下と共に、行こうかと」


「でも亡命で、将来のユンド国再建に必要な人材は残してほしいが」

  アファル宰相は、重たくいう。


「閣下、失礼と存じますが。すでに帝国は詰んでいます。

 ユンド国の再建が難しいと。

 聞くところに寄りますと、2都市を弾圧し続けたハルローゼン国沿いの都市の再建をルッカ軍が支援している模様です。

 そのユンド人を労働力にして、横断道路を建設中とか。

 2都市に食糧支援を実施しているようです。

 唯一、ユンド人が生き残れる地域だと考えます」


「そうじゃな。大将の言う通りだ。2都市を弾圧した反動が、ユンド人を生かす道になったのじゃな」


「はぁ。敵ながら、活かす道を選ばすとは、一方で奴隷狩りに加担した都市には、激しい制裁を実行してます。

 本当に、憎悪の集団が、こうもアメとムチを実行できるものでしょうか?」


「アメは2都市だけじゃろう。後は破壊と殺戮だろうな」

  すでに、アファル宰相は死を覚悟している。

 自殺か他殺だけの選択だけ。



 皇帝の亡命先候補が次から次へと周辺諸国から拒否された。

 

 皇帝の皇妃の里チェンアルク国からも男系は拒否。

 皇女・皇孫女までだと回答がきている。




 ユンド国境の都市ラカンラの陥落後、チェンアルク国からも同胞を探す捜索隊が来ていた。

 すぐチェンアルク人と判る服装をしているが、惨たらしい殺害方法で、目を疑った。

 憎悪の満ちた殺害。首・両手両足と、口を剣で刺された遺体も見つかった。

 2百人近くはいただろうチェンアルク人はすべて虐殺された。

 その衝撃は、本国に報告された。

 ルッカ軍の次の標的がチェンアルク国と、誰でもがそう感じた。

 すでにルッカ軍と対峙する国境線になった恐怖。

 ユンド帝国から奴隷を買い続けた末路を、より凄惨に近い形で、虐殺の連鎖を想像した。


 チェンアルク国の重要な労働力奴隷を手放す等、考えたくもない。

 全奴隷は無理でも一部返還して、ルッカ軍と不戦条約を締結できるだろうか。

 ユンド帝国を崩壊まで向かわせたルッカ軍。

 各国が足並み揃えて10万規模で、一斉に人海戦術で、ルッカ軍を倒せないか。

 

 すでにカムール国とシュレカ国で基幹道路を計画とか。

 ハルローゼン国からルッカへの基幹道路が進んでいるとか。



 チェンアルク国は皇帝男系親族の入国拒否。

 ユンド人の入国も禁止させた。






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