第12話 交渉

 あゆみ達は、ゼルシア領深く、進行した。

 途中、農民達は珍しそうに、物陰からご一行を見ていた。

 この地域でも、これほどの軍隊を見た者がいないに違いない。

 乗馬が4頭、兵隊は50人の完全武装。

 荷馬車は二台。

 これほど大がかりな行軍は珍しい筈。

 道は荷馬車が一台通れる程度の幅。

 豊かさがない光景。

 墨汁の世界に見える。

 

 領主館へはルッカから3時間ぐらいの場所にあった。

 館といっても、コルム中尉のいた砦よりずっと小さい。


 2日前に来た男が領主館より、前方で待機していた。

 一応兵士らしき15人もいた。


 あゆみは兵士達に、館を取り囲ませた。

「どういうつもりですか」

 男は狼狽した。

「年貢を受け取りに来たと言ったろう」

 あゆみの代わりに、クルル第1番隊長が言う。


「館の中で、話し合いたいのですが」

「無用だ!」

 あゆみの兵士達は威嚇を始める。

 館を囲んで、あちこちで実戦訓練も始めた。

「なんの真似ですが」

「早く、年貢を寄こせ。待ち時間が無駄だ!」

 かなり男達は狼狽した様子で、館に戻っていった。


「これから、どうでやすかですぜ?」

 ロルナ第3番隊長は興味津々。


 館を囲まれた威圧感。

 どこの者とも分からない集団。

 ユンド国の工作部隊と思っても不思議ではない。

 

 一向に出てこない。



 早めに、荷馬車から、昼飯の準備を始めさせる。

 遠くから、この光景はどう映るか。

 集団で昼飯を準備する光景。

 館を囲まれた状況で、どう理解する。


 昼飯はできるだけ豪華にと、

 数種類の肉料理の効果で、

 周辺にはいい匂いを漂わせる。


 遠くで、様子を見ていた領民達は、

 肉の匂いに釣られて、こっちに来る。


 多めに肉を用意したので、領民にお裾分けさせた。

 それを目撃したほかの領民達は大喜びで、

 次から次へと集まってきた。

 レクレンら女連中からよそってくるので、より安心する。


 にわとりの飼育をしている者。

 鍛冶屋をしている者。

 衣服を織っている者。

 磁器を制作する者もいた。



 どれだけ原始社会なのか。

 なんだか、貧乏山賊の姿のような領民が多い。



 領主からの年貢は無理かと考える。

 代案でしかないか。

 領主領の割譲しかないと。


 できれば家畜の飼育者も。

 磁器の職人も。

 織物を織る者も

 鍛冶屋職人も

 ついでに確保をしたい。


 

 館を囲んでいる兵士達にも、肉料理を配る。



 昼飯の後片付けをしたが、

 まだ、出てこない。

 兵士達に、大声を出させる。



 やっと、玄関が開き、さっき名代の男が出てきた。

「大変。申し訳ないです」

「それで、年貢の支払いは?」



「ソルラン国と戦争をしたいのですか?」

「ほう、戦力もないソルラン国と」


「知らないのですね。1ヶ月前、我が国とユンド国と戦争で、大勝利したことを」

 名代の男は自信満々でいた。


 名代の男の話だと、ゲルシオ中佐という人物の指揮で、二回もユンド国軍を破って大勝利したとか。

 あゆみの知っている2名の名は出てこない。


「我がソルラン国と戦えますか」


「ほう、面白い。その前に、お前達を血祭りあげるがよいか」


「へぇ!・・・」



「・・・・・・」



「支払える物がありません。土地をお渡しします」


「領民もか?」


「はい」


「いま構えている周辺の地域と、新たにカムール国境まで」

 クルルの元縄張りからロルナの元縄張りまでのようだ。


「街道の両側は、こちらの支配下におくが」


「それは困ります」


「元々、山賊達で利用できなかった街道ではないか」

 強気で、ヨシア第2番隊長が言う。


「また、山賊が出没したら、お前らでは、警備できないだろう」

 ロルナ第3番隊長が突っ込む。

 散々山賊稼業で、通りすがりの行商人らに財産を奪った連中に言われている。



 当初のあゆみの割譲案の通りになった。



 あゆみの予感では、割譲案も、ソルラン国軍英雄ゲルシオ中佐派遣までの時間稼ぎとみた。

 その時、ゼルシア側から反古にするつもりだろう。


 それでも今は大きな前進だ。


 ゼルシア領主を見ることはなかった。


 でも、割譲契約書は締結された。


 

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