第10話 ゼルシア領主からの使者

 Ⅰヶ月が過ぎると、砦から過疎地の集落から、徐々にではあるがルッカの町に向かう整備がされ、外見が整った。

 街道沿いには、山賊の出没が消えた。

 たまに、街道を通行する者も現れ、珍しそうに見る。


 あゆみは、時々遠出をして、山賊狩り、盗賊狩りを続けた。

 従属契約をした手下も徐々に増え、また近隣から移住希望者も出た。


 布を織る織機も、曲がりなりに出来て、布製品にこぎ着けた。

 染色の技術はまだ先だが、素晴らしい第一歩だ。

 磁器は温度の調整で、試行錯誤中だ。

 失敗した磁器の破片は、柵周辺の防御に利用した。

 鍛冶屋では、あゆみ考案の武器で、剣、槍、矢のヤジリを制作させた。

 紙の生産も、見栄えは良くないが、文字を書けるようになった。


 軍事訓練も、30人の兵隊から、50人規模に増え、山賊狩りなどで実戦演習をさせた。

 なんとか、山賊稼業から兵隊らしくなった。

 耕地面積も拡大しつづけている。

 まだ、家畜の飼育には及ばない。

 ニワトリとか卵を食べたいものだ。



 いつ来るかと考えていた。

「頭、ゼルシア領主様からの使者が来ました」


 まだ応接室はないので、

 外で会談をする。

 領主側からは、10人程の兵士に囲まれた貴族服らしいのが一人。

「私がゼルシア領主の名代できました」


「それで、用件は?」

 側近のヨシアが尋ねる。

「ここから出て行って欲しい」

 10人に囲まれた貴族に、その倍以上が取り囲む。


「ほう、出て行けと」

 クルルがドスのある声で言う。

「出て行きたくなければ、領主様に年貢を支払ってもらいます」

「ほう、散々治安の悪い街道を、安心させたのは誰だ!」

 ロルナも張り切る。

「ここは、ゼルシア領です。勝手なことは困ります」


「領主とやらに、伝えとけ。これから、こっちに年貢を支払えとな」

 ザエンは述べる。

「それは承諾しかねる。年貢をもらう側だ。勘違いするな」

 名代も鼻息が荒い。



「分かった。2日後に、ゼルシア領主館に伺って、年貢を取り立てに出向く、用意しておけ、以上だ」

 ザエンはその場から離れた。

 

 あゆみの脳裏には、ゼルシア領を浸食し、領土を拡充をと。

 戦いに備える好機到来と。

 まだ、兵士を養うだけの、豊かさがない。

 軍事力と呼べないレベルでは、周辺防衛は無理だ。

 いまうちに、切り取れるなら、切り取って、ユンド国との大戦を想定した。


「頭、本当に領主様の館に行くのですが」

 ヨシアは心配そうだ。

「ああ、兵士50人に、完全武装で向かう」


「ザエン様、ソルラン国に刃向かうのですか」

「もうすぐ、ユンド国に滅ぼされる。その前に兵力を養いたい」

「ここも、戦場になると」

「ああ、領土を切り取られて、滅亡が従属でしかない運命だ」








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