第16話 痩せるどころかリバウンド?

 そんなある晩のこと。

 体重計から乱暴に下りながら、千紗は思わず舌打ちをした。なんと二キロも体重が増えていたのだ。あと一キロちょっとで、元の体重ではないか。

(原因は、ポテトサラダだ)

 千紗は、夕食の食卓に並んでいた、サラダボールにたっぷりと盛り付けられたポテトサラダのことを、苦々しく思い出した。ポテトサラダは、千紗の大好物だ。狼のような空腹に負けて、あとちょっと、あとちょっと、と、おかわりをし続け、結局はかなりの量を食べてしまったのだ。その結果がこれだ。


 千紗は、体重計を前に、思わず座り込んだ。

 最近、ちっとも減らない体重を前に、初めの頃の決意が、少しずつ、ぐすぐすと崩れ始めているのは、自分でも感じていた。いくら大量の水で埋めたって、結局はその場限りで、いつまでたっても、満たされない食欲。減るどころか、ずるずると増え始めてさえいる体重。それらは千紗を、失望させ、苛立たせ、更なる食欲を刺激した。


 正直な話、千紗はもう、食べたいものを我慢し続けることに、うんざりしていた。そもそも、大食らいで食いしん坊な千紗は、もっとお腹にどっしりと食べ物を詰め込み、パンパンに膨らんだお腹をなでながら、おいしかったぁとげっぷのひとつもしないと、食べた気がしないのだ。


 けれど、そんなことをやっていたら、体重百キロのデブになる日も、そう遠くはないだろう。大体、かつては自慢だった、元気で怪力で、大食らいがとりえの自分なんか、今の千紗には、ちっとも良いと思えない。いや、むしろ嫌でたまらない。

 千紗は、もっと、ほっそりとしなやかで、華奢な女の子になりたいのだ。それと引きかえに、ちょっとくらい元気がなくなっても、かまわない。だから、ますます自分を追い込まざるをえない。


 ほっそりとなった自分を懸命にイメージし、千紗は、決意を新たにした。よし決めた。明日からは、朝ごはんもぬかそう。そして、ポテトサラダとか、マカロニサラダみたいな、マヨネーズをたっぷり使った、太りそうなサラダは、お皿に半分で我慢することにする。いや、た、食べないことにする。そうだ。お母さんに頼んで、そういう太りそうなものは、当分、作らないでもらう。


 そう決めた瞬間、ちょっと気持ちが明るくなった。失敗は取り戻せる。まだ、やり直せるんだ。ただし、決めたことを全部守れば。と、そこまで思って、もう気持ちがぐらつき始めた。なぜなら、そうなると、明日の朝は、大好きなバターやジャムをそえたトーストも、ミルクティーもチーズも、一切食べられないことを思い出したからだ。あたしのパン、あたしの紅茶、あたしの輝く朝ごはん。みんなみんな、手の届かない遠いものになってしまうんだ。


 決心するだけなら簡単だなぁ。千紗はほろ苦く思った。でも、それを実行するのは、なんてつらいことだろう。ダイエットって、まるでゴールの見えない険しい山道を、延々と登ってゆくような辛さだ。そんなこと、あたしにやり通せるのだろうか。

 明日から新たに始まる空腹の日々を思い、何だか急に悲しくなって、千紗は、涙が出そうになるのだった。



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