第15話 順調な滑り出し

 最初の二週間ほどで、千紗は、するすると三キロ体重を落とすことに成功した。

「ちょっと努力すれば、たちまちこれだ」

半裸で体重計から降りながら、千紗は、上機嫌で鼻をこすった。

 この調子でいけば、そんなに時間がかからずに、鮎川さやかのように、ほっそりした女の子になれるかもしれない。ほっそりして、子鹿のように歩く自分を想像するだけで、千紗は、胸がドキドキした。もしあたしがそうなったら、菊池はあたしをどう思うだろう。


 実は千紗、ちょっと、なんて言っているけど、この二週間、かなり頑張って、ダイエットをしたのだ。

 何しろ、いまの千紗は、四六時中お腹を空かせているといってもよい。朝食をしっかり食べても、お昼になればもうお腹ペコペコだし、お昼に大きなお弁当を平らげても、学校から帰ったら空腹で、夕食までに、かなりのおやつをお腹に詰め込まないといられない。それでいて、晩御飯も、もりもり食べられる。大きな声ではいえないけれど、夕食後、夜食として、さらに何か食べる日もかなりあった。


 その千紗が、ダイエットを始めてから、お腹がぐうぐうの状態で学校から帰っても、水や砂糖の入らない紅茶などをがぶ飲みして、歯を食いしばっておやつを我慢した。そうやってやっとの思いで迎えた晩御飯だって、なるべく汁物やサラダでお腹を膨らませ、ご飯はお茶碗にたった半分しか食べない。もちろん、夜食も食べない。お腹がすけば、ひたすら水でうめる。これは千紗にとって、やはり血のにじむような努力だったといっても、いいだろう。


 そんなだから、結果はすぐについてきた訳だ。そうなると、千紗は、体重計に乗るのが、楽しくて仕方がない。

 朝起きては量り、トイレに行っては量り、ちょっと体操してみては量る。

 伸行が、

「そんなにしょっちゅう量ったって、変わるもんか」

と、憎まれ口を叩いたって、気にならない。

「だって、ちゃーんと減ってるもーん」

と、余裕でかますことができる。

「るんるんるーん」

千紗の上機嫌は、止まるところを知らない。


 しかし、そんな千紗のるんるん気分も、ある時から続かなくなった。なんとなれば、三キロ半減ったところで、体重が、ぴたりと動かなくなってしまったのだ。相変わらず、年がら年中ぐうぐうぐうと、それはもう、うるさいほどお腹は鳴り続けているというのに。


 千紗のダイエットは、停滞期に入ってしまったのだ。体重というのは、ダイエットし始めの最初の三、四キロはするすると減るのだが、その後、同じように努力をしていても、体重が減らない時期が、しばらく続く。これが停滞期だ。

 そこを辛抱して、ダイエットを続けると、また減りだすのだが、この停滞期と言うやつは、人間の意志や決意を粉々にする、ダイエットの魔物だ。たとえ停滞期だと分かっていても、ここで挫折して、ダイエットを失敗する人は、とても多い。


 ところで、ダイエット初心者である千紗に、停滞期なんて知識はもちろんなく、とにかく、いくら水をラッパ飲みしてお腹を満たそうが、忌々しく減らない体重に、あまつさえ微増すらしだしている体重に、日々、苛々はたまる一方である。

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