第5章 証明②
それから昼食を摂りながら《ワルプルギス・オンライン》の話題を中心に他愛もないことを話し――
そして昼食を終え、その場で烏さんと別れた俺は十四時前には帰宅。着替えだけ済ませて《ワルプルギス・オンライン》にログインした。
――ゲーム内の国家の一つに、ゼタシリア王国という国がある。設定上、ラース様の勢力下にある国だ。
その首都、ラースヘイム。元々ゼタシリアの王都は別の街だったのだが、かつてのラース様がここを気に入り拠点としたことで、時の国王がラース様の庇護を受けるべく遷都したという設定がある。
街の設計は至ってシンプルで、王城があり、そこを要として扇状に城下町が展開している。とはいえ、街の設定上本当の中心は王城近くに建てられたラース様の聖堂で、ラース様の眷属であるプレイヤーはこの街の住人にとっては聖騎士団といったところだ。
というわけでラースヘイムはラース陣営にとっての本拠地であり、この街のギルドハウスはラース陣営の中でも一番高く設定されている。他の陣営プレイヤーももちろん出入りできるが、この街で見かけるプレイヤーはそのほとんどがラース陣営だ。
そして、そのラースヘイムのほど近く――初心者を抜けきれない駆け出しプレイヤー向けの森フィールドで、俺は一人敵モンスターと戦っていた。
頭の天辺からつま先まで白を基調とした店売り装備で、だ。
今更俺が初心者丸出しの装備でこんなところにいるのは、他でもない――あの日ギルドで見た抗議文、そしてその後ネットで調べたところ、このフィールドが一番トレインPKの被害者が多いことがわかったからだ。
もちろん俺がちょっと調べて把握できることなど、もう知れ渡っている。
最近じゃちょっと事情を知っているプレイヤーの間ではこのフィールドでのソロプレイは非推奨とされていて、ギルドやそうでなくともコミュニティに所属しているプレイヤーはソロでこのフィールドにはやってこない。
つまり現在このフィールドでソロプレイに興じるプレイヤーはガチのソロプレイヤーか、まだギルドやコミュに所属していない初心者か――トレインPKプレイヤーを釣りたい俺、というわけだ。
しかし――
「ォオオオンッ!」
眼の前のグレイウルフ――狼型のモンスターが遠吠えし、付近にいる仲間を呼ぶ。初心者の頃はこれで仲間を集めさせてひたすら倒しまくるのが効率良かったんだよなぁ――そんなこと思い出す。
ゲーム開始当初の、このグレイウルフを相手にこのゲームのアバター操作の癖を掴んだり、初期のレベリングをしたりしていたころが懐かしい。
ビジュアルの精巧さから本物の飢えた狼のようで最初はこの迫力に慄いたものだが、今となってはそれこそ束になってかかってきたところで――といった相手である。
とは言えあんまり無双しても、俺のことを狙いにきた偽者に見られては元の木阿弥だ。偽装のための真っ白な初心者装備――それと一緒に購入した短剣カテゴリの最弱武器・バタフライナイフを使い、短剣の基本スキル《ダブルスラッシュ》のみで処理していく。
ちなみにこのバタフライナイフだが、装備するだけで格好いいバタフライナイフトリックを使うことができるようになる。まあもたもた両手でブレードを出してたんじゃ『装備している』とは言い難いもんな。
このため、弱武器だが強化してサブアームにしているプレイヤーがそこそこいる。さすがに強化しても攻撃力が低すぎて俺はその限りじゃないが。
だが、実際に装備してトリックをしてみるとこれが結構楽しくて――
――眼の前にいたグレイウルフと、遠吠えに誘われて現れた増援の一匹を倒し、俺は手の中のバタフライナイフをしゃこんしゃこんと振り回してブレートを出したりしまったりしつつ、森フィールドを歩く。
システムクロックが示す時刻は十八時を少し回った頃。もうかれこれ四時間近くこのフィールドで釣りをしているが、今のところ釣果はゼロ――俺の偽者、トレインPKプレイヤーは現れていない。
調べがついた分に限るが、偽者の出現時間に法則性は見られなかった。深夜帯に限られる、となれば明らかに俺のメインプレイタイムから外れるので、偽者も時間を決めずにターゲットを見つけ次第、といったところなんだろう。
というわけで期末テストも終わり、存分にゲームができるようになったこのタイミングで釣りを始めたわけだが……さすがに平日の昼過ぎから夕方では時間が悪かっただろうか。
一旦ログアウトして夕食を済ませ、夜にまた出直そうか――そう考え始めた時、遠くの方で木々をかき分けるように疾駆している――そんな足音が聞こえてきた。
足音はこちらに近づいてきているように思える。そして足音はプレイヤーと思しきものだけではく、獣の足音が複数――そして吠え声。これはグレイウルフか。
いよいよお出ましか。四時間ねばった甲斐があったぜ。さて、俺の偽者――どんな面か拝んでやろうじゃないか。
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