第4章 冤罪①
明けて、日曜。夕方。
どこか誇らしげな凛子――シトラスを中心に、俺たち《月光》の主要メンバーはギルドハウスのミーティングルーム――というか、いつものリビングだが――に集まっていた。
「それじゃあ陣営ミーティングの報告、始めるね」
そう宣言するシトラスの機嫌は良さそうだ。このギルドミーティングの前に済ませてきた陣営ミーティングで他ギルドの反応が良かったんだろう。
「まずはみんなも知っての通り、今回の《
「皆さん、よく頑張ってくれました。ありがとうございます」
シトラスの言葉に、隣に立つラース様が柔和な笑顔でそう添える。わぁー、と手を叩くシトラスに、メンバーたちもパチパチと拍手する。
「――《月光》がメイン防衛してきた回の中では一番ぐらいの激戦だったし、私自身魔女の間から出る暇ないくらいの猛攻は始めてだったけど、守り切れてよかったよね。中心メンバーのみんなが
「いやあ、それほどでも」
シトラスの言葉に照れた様子で答えたのは、俺ではなく――なぜかいるマイトだった。
「今更だけど――なんでお前がいんの?」
「シトラスさんに呼ばれたから?」
俺の隣を陣取っているマイトに尋ねると、小首を傾げて答えるマイト。やめろやめろ、スポーツマンです、みたいなアバターでそんな仕草するな。
「だってロックのノーデス魔女殺し手伝ってくれたんだもん、報告一緒に聞いてもらう権利あるでしょ? それに――」
「――あー、待て待て、その前に」
俺は何か言おうとするシトラスを止めて、そしてシトラスだけでなく、ロキ、アンク、ナオさんに対し、
「今回俺、実は事前にノーデス魔女殺しをシトラスに宣言しててさ」
「おう」
「知ってるよ、有言実行――さすがやね」
「ま、ほんとにやり切るからロックくんって感じだよね」
ロキ、アンク、ナオさんが次々に言う。
「え、なんで知ってるの?」
「お前、《
ロキがそう尋ねてくる。
「話した……いや、ギルドは知らなかったけど。彼は《トネリコ》だったのか」
確かにモンクの彼は『ギルマスにゲームを投げるのはまだ早いと伝える』と言っていた。
――《トネリコ》はラース陣営でも大手ギルドの一つだ。あそこの士気をあげられたんなら、まあ言ってよかっただろう。
「それが《トネリコ》のギルマスから開始直前のミーティングで全ギルドのギルマスに伝わって……昨日、《
「まあ、それでも《トネリコ》さんと《親衛隊》さん以外のギルドは最初モチベ低くてねー。そこに開始早々グラトニー撃破のアナウンスでしょ? あれで持ち直したって感じやね」
「せや。普段から思ぅとるけどジブンのそうゆうトコさすがや思うで。ここぞってときにちゃんとキメよる」
二人がそう言ってうんうんと頷く。ジト目で俺を睨んでくるのはカイだ。
「……ロックさーん、自分で吹聴するなら内緒で僕だけに手伝わせた意味ってないんじゃないかなぁ?」
「や、事前には内緒にしときたいじゃん――それにやり切ったらちゃんと話をするって言ってあったろ? 直前に他ギルドに話したのは、低い士気を上げようと思ってな? 実際効果あったなら――」
「――手伝いって?」
俺がカイに弁明していると、シトラスが話を割って尋ねてくる。
「ああ――お前にノーデス宣言したろ? さすがに俺もまともにやって報復キルから逃げ切るのは運要素がデカすぎると思ってさ」
「うん」
「お前に話した後にログインし直して、カイに頼んでこのところ夜中にレベリング手伝ってもらってたんだ」
「ミラージュブリンガーあげただろって言われちゃってさ」
俺の言葉に、カイが肩を竦めてそう添える。
「あぁん?」
ぴくりと、ロキが片眉を上げる。
「そのミラブリはそういうことかー。ジブン、ミラブリ貰ったんならそのくらい気持ちよく手伝ったらええやん」
「ええ? 僕の睡眠時間は?」
「二日三日徹夜でレアドロップ確定すると思ったら安いものや。ロックくん、僕片手剣か盾がええなぁ」
「俺はレア槍くれたら一週間は付き合ぅたるで」
「味方がいない……」
悲しそうに呟くカイ。一方で、マイトがなるほどーと顎先に指を添えて言う。
「――それで《撃震脚》を?」
「おう……コソレベリングで取得してな!」
俺はもう開き直ってそう宣言する。
「というわけで、まあ……ノーデス魔女殺しを達成できたのも三分の一はレベリング手伝ってくれたカイのお陰だ。《撃震脚》がなきゃ脱出は無理だった。サンキューな」
「三分の一~?」
不満そうなカイ。
「半分ぐらいは貢献してない?」
「マイトにも助けられたからな。カイだけで半分はない。マイトも三分の一ぐらい貢献してくれた。ありがとな」
俺がそう言うと、マイトが驚いた様子で声を上げる。
「あ、あ――……俺? いや俺、魔女の間で転がってたし……つーか起こしてもらったし、実質足引っ張ってたような?」
「昨日もちらっと言ったけど《
「あ、気づいてた? いやあ、ロックさんの活躍に比べたら誇れるスコアじゃないし」
「――そんなことないよ! 初動の突撃で魔女の間まで踏み込んで防衛プレイヤー二人落としてくるなんて、十分な活躍だから!」
謙遜するマイトにシトラスが言う。
「カイくんも、マイトも、ふたりともロックを助けてくれてありがとうね!」
――うん? 俺はシトラスが笑顔で言ったその言葉にちらっと疑問を覚える。俺以外を呼び捨てにするのは珍しいな……それも男を。
これはもしかして――……いや、何言ってんだ俺は。俺とシトラス――凛子は幼馴染だ。恋人じゃない。凛子が誰を呼び捨てにしたって構わないじゃないか。
俺だって中学ん時は凛子の知らないやつからチョコいっぱいもらったことあるしな! ……VRゲームの中でだけど。
「――で、残った三分の一は誰の力なの?」
そんな風に尋ねてくるナオさんに、俺は胸を張って答える。
「そりゃ俺でしょ。俺のプレイヤースキルでしょ。今回ウチのメンバーにノーデス何人かいるけど、魔女殺しキメてノーデスは凄くない?」
魔女を固める防衛役だったからこそ、その中心となったロキ、アンク、カイ、ナオさん、それに指揮をしていたシトラスもノーデスだ。ここらへんが崩れたらそもそも防衛を突破され負けていた。
しかし――
「いやー、なんかロックさんならそれぐらいやってくれないと、って感じあるよね」
俺の言葉に即座にカイが切り替えしてくる。それな、と賛同する面々。
あ、あれ……? 自分で言うのもなんだが結構たいへんだと思うぞ、ノーデス魔女殺し……
「――大丈夫、私はすごいと思うよ! 本当に!」
「《
シトラスとマイトが俺の肩を叩いてそう言う。なんでそこそこ偉業を成し遂げたのに慰められるテイになってんだ……?
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