第3章 《魔女たちの夜》⑬
――今回の《
我らがラース陣営はこのときまでなんとかラース様を守り、防衛の間隙にカウンターを仕掛けて三陣営を落としたが、しかし今は残る他の二陣営に攻め込まれている。
攻撃部隊が残るエンヴィー陣営、プライド陣営のどちらかを落としてくれれば楽な状況になるのだが――相手方もそれをわかっていて、こちらに余力がでないよう波状攻撃をしかけてきている。
心配していたラース陣営のモチベーションだったが、俺が初動でグラトニーを落としたことで、むしろ今までにないほど士気は高まっていた。
そんな中で――
「ロック! 外の《黒猫》さんが突破されそうだって! 増援はキツい! ここはなんとかするから、ヘルプに行ってもらってもいい!?」
魔女の間で《月光》メンバーとともにラース様の防衛をしていた俺に、この場で指揮を取っているシトラスから声がかかる。
「了解!」
俺は魔女の間まで侵入を許してしまったエンヴィー陣営のプレイヤーたち――そのうちの何人かと対峙しつつ、応える。
「行かせっかよ、《公認チーター》!」
その対峙していたプレイヤーたちの一人が、俺に踊りかかってくる。肩に担いだロンソを振り下ろす――剣士スキル《ヘッドスプリッター》――いわゆる唐竹割りだ。
当然見えている。そいつの動きも、周りも。《パリィ》でいなすまでもなく、横から現れたカイが肩からその盾持ちの剣士にチャージする。スキルモーションの無防備なところを狙われて、盾持ち剣士は成すすべもなく仲間を巻き込んで倒れる。
「ロックさんだけが《月光》じゃないよ、エンヴィーさん――《公認チーター》の前に僕の相手をしてもらいたいな」
地面に転がった盾持ち剣士と巻き込まれたその仲間にそう言いながら、カイが『行って』と言わんばかりに手を振る。
「サンキュ、カイ――マイト!」
「オーライ!」
カイに礼を告げて駆ける。声をかけたマイトは嬉々として俺と自分に《
「――すごいなぁ」
魔女の間まで押し込まれて砦の中に哨戒を出す余裕もない――しかし今のところ後続はなく、無人の砦を駆け抜けながらマイトが呟いた。
「なにが?」
「《月光》さんのチームワークもだけど、ロックさんのストッピングパワーがエグすぎて。常に一人で三、四人相手してるでしょ? それで全然
……おー、なんかこういう言われ方は新鮮だな。《月光》のみんなは俺がこれくらいできるってことを普通に知ってるからなー。
「褒められて悪い気はしないけど、気ぃ抜くなよ。残る二陣営、どっちか落とせれば十分ウチに勝ち目あるぞ」
そう言って気が緩んでいるように見えるマイトに釘を刺す。
「《
「先にプライド陣営落としたいな……今は防衛戦だからアレだけど、一対一の総力戦になったらプライド陣営の
――と、話しながら砦を駆けていると、出口に差し掛かったところで三人のプレイヤーが踏み入ってきた。反射的に《ソニックスラッシュ》を発動――いくらかあった間合いを潰し、相手が反応する前に《アビスインパクト》へと繋げる。
衝撃波のエフェクト音が響き、そして《アビスインパクト》のダメージでHP を全損させて吹っ飛ぶプレイヤー――その向こうにいた片手剣のプレイヤーと目が合う。
「――! やっと会えたな、《公認チーター》! 動画で観たぜ、お前がそうだろ!?」
嬉しそうに叫ぶプレイヤー――こいつ、俺狙いのプロゲーマーの一人か!
スキル硬直開けにジャストで仕掛けるには微妙な距離だ――足を止めて身構えると、槍を持った戦士らしいそのプレイヤーと、随伴する魔法使いっぽいプレイヤーも身構える。
今回の《
「勝負してくれよ、《公認チーター》。俺は――」
槍使いが名乗ろうとするが――知ったこっちゃない。俺は槍使いが一瞬下げた穂先を思い切り踏みつけて、そいつの喉元にスターグラディウスを突きこむ。スキルでもなんでもない、ただの通常攻撃だ。
それでも血飛沫エフェクトを出しながら槍使いがたたらを踏む。
「おい、汚えぞ! こっちはライブ配信してんだよ!」
「知るか! Gv中に『やあやあ我こそは』なんて言う気か? あとGv中のライブ配信は
本当にライブ配信をしてるなら、今頃視聴者に『ド正論(笑)』などと言われているだろう――Gv中に名乗りを聞いてやる義理なんてこっちにはないんだからな。
「クソ、不意打ち野郎が!」
見当違いな恨み言とともに槍使いが反撃してくるが、俺は即座にローグスキルの《エスケープ》を発動――回避ステップに完全無敵を乗せ、槍使いの反撃を掻い潜る。
そして、アサシンの数少ない範囲攻撃スキル《アサシンダンス》で反撃――範囲こそ狭いものの、自分を中心に範囲内にいる敵プレイヤーに八回の剣撃を見舞う回転攻撃だ。
「ぐあっ――」
「くっ――」
槍使いはこれでHP全損――先に吹っ飛ばしたプレイヤーの後を追うように倒れる。
魔法職の方はいくらかHPが残ったが、俺が追撃するまでもなくマイトが蹴り倒した。回し蹴りからの飛び回し蹴り――《アクセルキック》。熟練の空手家のような動きだ。スキルモーションが絶妙に格好いい。
三人のプレイヤーが死に戻って行く。後続はなさそうだ。なんとか迎撃が間に合ってよかった――
「やー、急造コンビだけどなかなか息合ってきたかな?」
三人のプレイヤーが消え、そんなことを言うマイト。
「――まだまだだな。さっきの
「や、そんな《月光》の中心メンバーと比べられても」
苦笑いするマイトに、俺は『そうな』と頷き、
「とりあえず後続なさそうだし、《黒猫》さんがリスポーンして戻ってくるまで
「オーライ。ってかさっきの槍使い、配信中だって。プロかな?」
「そうかもな。でも《ワルプル》は始めたばっかの素人か、配信系のプロだ。Gv中に敵プレイヤーに名乗ろうとするとか普通にないわ。《黒猫》さんを突破したならそこそこ戦えるはずなんだけどな……」
「確かに。自分から話し始めて『汚い』とか。オンゲ触ってりゃ会敵して会話しようとなんてしないはずだけど……それだけ《公認チーター》に絡みたかったのかな」
くつくつとマイトが笑う。
「知らねえよ――ってか気を抜くなよ。この状況なら《
「わかってるって――だから表に出ないで入り口死守なんでしょ」
「ならいいけど……攻撃しようとして眼の前で《
「ロックさん並の反応求められても困るからね!?」
お互い外の様子を警戒しながら俺たちは砦の入り口を固める。
――それから五分ほどして。
防衛部隊の《黒猫》さんたちが復帰して俺とマイトが魔女の間に戻ろうとしたとき、《親衛隊》を始めとする攻撃部隊がそれぞれエンヴィーとプライドをほぼ同時に落とし、システムメッセージによりラース陣営の勝利がアナウンスされた。
俺たち《月光》は砦の最奥・魔女の間での防衛だったのでノーデスのプレイヤーが何人かいたが――初動の後は魔女の間と表のヘルプを行ったり来たりしていた俺も、そのノーデスプレイヤーの一人となった。
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