第3章 《魔女たちの夜》⑩
――ところで、《
味方以外のユニットに接触したとき。プレイヤーに限定しないのは、モンスターや敵NPC、街の中立NPCも同様だからだ。
そして自分から敵性ユニットをターゲットに攻撃を仕掛けようとしたとき。物理スキルであればほぼほぼ当たると同時に姿が見える、みたいな感じだが、魔法スキルとなるとターゲットを指定して詠唱を開始した時点で《
魔法使いスキルの《
そして、ダメージを受けたとき。さっきの盾職がミラドラ戦での俺のように《ウォークライ》を使わなかったのは条件が違うからだ。《ウォークライ》は当たり判定はあるもののダメージは発生しない。だからさっきの彼は当てずっぽうで攻撃スキルを振り回したのだ。実際、姿は見えなくても普通に音は聞かれてしまうので割と効果的だったりする。
逆に言うと、これらに当てはまらなければ《
――グラトニー陣営の砦が迫る。防衛の連中に聞かれる前にマイトに指示を出す。
「強行突破な! 防衛の連中は相手にしない――砦に入ってグラトニー落とすぞ!」
「ええ? さすがにこの人数に
「先に撃たせるんだよ、こういう時は――その隙に走り抜ける」
走りながら小声で言葉を交わすと――
「――斥候から連絡! ハイドアタック! 接敵位置からラース陣営濃厚!」
向かう先の砦の出入り口で、防衛しているプレイヤーの誰かが声を張る。
「《公認チーター》!?」
「未確認だって!」
「ちぃ――
にわかに騒ぎ出すグラトニー陣営。このタイミングでの連絡――浮足立ってる今の状態ならやりやすいぜ!
俺は予め用意しておいた、今日日初心者でも使わないような店売りの安い剣をストレージから取り出し、足を止めないまま振りかぶって、投げる。
狙いは砦周りの石畳――連中の注意が向いていない辺りだ。俺の手から離れた剣はすぐに可視化するが、誰かに気づかれるより早く石畳に当たってガチャっと音が鳴る。
そしてこれは、あくまで不要なアイテムを捨てただけ――《
「そこか――《サンダーフォール》!」
「《アースブラスト》!」
「くそ、ひっかからない――」
「まだだ、もっとばら撒け――《アイスクラスター》!」
防衛プレイヤーたちが音に反応して反射的に
しかし剣を投げ捨てたあたりにばらまかれる範囲攻撃(AoE)の脇を抜け、俺とマイトは防衛陣の裏を取り、労せず砦への侵入に成功する。
「えっぐ……あんな誘導あり?」
砦の中を進みながら、マイトが小声で尋ねてくる。
「ありだろ? 誰もタゲってないし、誰もダメージを受けてない。俺は勢い強めにアイテム捨てただけだもん」
「うわー……この戦法、《親衛隊》に持ち帰っていい?」
「いいけど今日で広まるだろうから必殺じゃなくなるぞ?」
「ああ、そうかー……」
マイトが頭を抱えて呻く。
「おい、油断すんなよ。もう本陣に俺らのことだって伝わってるはず――」
言いながら上層に向かう階段に差し掛かったとき、上からプレイヤーが駆け下りてくる音が聞こえてくる。
慌てて足を止める俺とマイト。三人のプレイヤーが階段を降りてきて、階段前で盾を構えて人の壁を作る。
「よし、ここで防ぐぞ! 階段固めりゃ登れねえ!」
「いきなり攻撃スキル飛んでくることもあるぞ、気をつけろ!」
プレイヤーたちが互いに声を掛け合う。甘えよ! この程度突破できずに魔女殺しなんて宣言するか!
「――肩を踏み台にして飛び越える。《
マイトに耳打ち――黙って頷き返してくるマイト。
それを確認し、二人で何歩か後ろに下がって――
そして、助走をつけて跳ぶ。腰を低くして盾を構えるなんて、踏み台にしてくれと言わんばかりだ。
「――ぐっ!?」
「なにぃ!?」
俺とマイトの踏み台にされたプレイヤーが膝を着く。背後で振り返る気配がするが、俺もマイトも敵プレイヤーとの接触で《
「くそっ、追うぞ!」
「魔女の守りを固めろ!」
背後から怒号と追ってくる気配――俺は階段を駆け上がると同時、そのまま進もうとしたマイトの手を引き、階段脇の死角に引き込んだ。
「――!?」
目を白黒させるマイトだが、俺は口の前で人差し指を立て、体を低くする。
「くそ、いねえ!」
「バカ、《
「急ぐぞ!」
敵プレイヤーたちが俺たちを追って階段を登って、そして駆け足で奥へと――魔女グラトニーがいるであろう砦の最奥・魔女の間に向かっていく。このあたり、砦の構造は共通なので迷うことはないが――
「――なんで飛び越えたのにわざわざ先に行かせるのさ」
ささやくような声でマイトが尋ねてくる。
「これで俺たちが追いかければ、後ろから範囲攻撃(AoE)仕掛けられることはないだろ? 他の防衛の目を欺くこともできるし」
即答。マイトは目を瞬かせて、
「――ロックさん、本当に頭いいなぁ」
「ま、メリットそれだけじゃないけどな」
「え?」
「あとで分かる――それよか先行させ過ぎたら損だ。追うぞ」
そう告げて立ち上がり、先の三人のプレイヤーを追う。陣営補正が乗った《
――案の定、連中が魔女の間に着く前に追いつく。三人が半ば押し入るように扉を開けると、その奥に複数のプレイヤーに守られた魔女・グラトニーの姿が見えた。
暴食の魔女・グラトニー。その容姿はワンショルダーのカットソーにフリルスカートとゴツいブーツのゴシックパンクな童女だ。
陣営マスコットとしては食いしん坊キャラでプレイヤー人気も高いが、敵対すれば凶悪な敵意を向けてくる。
「――っ!!」
開け放たれた扉に、すわ襲撃者かと身構える防衛プレイヤーたち。闖入者が自分たちの仲間であると気づき、
「――どうした、侵入者は?」
「!? まだ来てない!?」
「俺たち、階段で飛び越えられて――なんで!?」
「――今到着だよ!」
俺は敵プレイヤーたちの会話に割って入り、俺たちの前を行った三人のプレイヤー――そのうちの一人の背中を蹴り殺す勢いで蹴り飛ばす。無防備だった盾職のプレイヤーは思いっきり吹っ飛び、グラトニーの護衛たちを巻き込んで倒れた。
隣では俺の意図に気づいたマイトが、ドロップキックで残る二人をまとめて中へと蹴飛ばす。
そうしてグラトニーまでの道が開く。《
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