第3章 《魔女たちの夜》⑧
「お、ロックさん」
ギルド《ラース様親衛隊》が集まっている一画に近づくと、俺に気がついたギルマスが手を振ってここだとアピールしてくれる。近くに行くと、その彼が右手を差し出してきた。
俺は迷わず握り返す。
「ども。ウチのギルマスに聞いたけど、パーティ貸してくれるって?」
「うん、いつもどおりロックさんは一人だろ? 今回敵陣営が同盟組んでるっぽいからさ、護衛代わりにウチの連中連れてってよ」
にこにことした笑顔でギルドマスタ―。つーかみんな俺の名前知ってるな……俺、顔しか憶えてねえよ。
口調とは裏腹にイカツイ見た目のアバターのギルマスがそう言って仲間に声をかける。すると、四人のプレイヤーが俺に近づいてきた。
――そのうち二人は、さっき言葉を交わした魔法使いとプリーストだった。
「よっ、《公認チーター》」
「縁があったみたいだね」
にこにこと、二人。うーん、こうして見ると目を三角にして敵陣営にゾンビアタックを仕掛ける
――ともかく、俺は俺なりの考えを伝えなければならない。
「ウチでもそれなりにハイレベルな連中でバランスいいパーティ組んでみた。こいつらなら露払いくらい――」
「あー、それなんだけどさ、ギルマスさん」
「うん?」
「俺、初動で隣の沼地エリアにハイドアタック仕掛けようと思ってたんだよね」
「――ハイドアタックか」
ギルマスがむむむ、と腕を組む。つまり、沼地エリアの障害物を利用しつつ、《
「だから随伴だと目立つって言うか、困るって言うか……」
「勝算は?」
「一応。魔女の間まで行ければ殺しきれると思う」
「ミラドラ戦をソロ撃破できる火力があるんだから当然あるよね――となると確かに随伴は邪魔かも。ウチら的にも初動で敵陣営一つ消えてくれたらだいぶ楽になる――……そいつらは囮に連れてって、ロックさんが突っ込む時に使うのはどうかな?」
「囮見せたら防衛厚くなりそうだなぁ。ハイドアタックやめてそっちと足並み揃えてもいいけど、ゾンビアタック前提なら、俺はあんま役に立てないかもだし……」
俺とギルマスが話していると、じゃあ俺がとプリーストが名乗り出る。
「そしたら隊長、俺がソロでロックさんに随伴するのは? 俺、《
「え? あんた装備からしてメインジョブはプリーストだろ? 《
「《ラース様親衛隊》のプリーストだよ? 俺、殴りプリなんだ」
驚いて尋ねると、そのプリはニカッと笑ってそう言った。
本来支援や回復を主とするプリーストはSPや魔法力に関わる
本来自前で支援と回復をできることで敵の攻撃に耐えつつ相手を殴る、というビルドで、他のゲームじゃ見かけないこともないビルドだが――
――このゲームはサブジョブを入れ替えることでほぼ全てのジョブのスキルを取得できる。というわけでメインをプリーストに据える『殴りプリ』の旨味はあまりないのだが――
「プリで前衛かー……なんかこだわりあんの?」
装備だってプリーストより他のジョブの方が火力も防御も盛れる。だからこのゲームでは殴りプリはかなりマニアックなビルドのはずだ。そう思って尋ねてみると――
「ラース様がプリだから!」
いい笑顔で彼が言う。
「ゲーム楽しんでるなぁ。好きだぜ、そういうの」
「ありがとう! ……俺さ、ビルド的に魔法スキル少な目なんだ。近接多めで――だから近接で固めてるロックさんとはいつか一緒に遊んでみたいと思ってたんだ。二人でハイドアタックなんて楽しそうだ。で、どう?」
「《
「ウチとしちゃあラース陣営を舐めてる連中に一泡吹かせたいわけでさ。それには現状ロックさんに協力するのが一番だってわけで。だからロックさんがパーティより一人のほうが使いやすいってんならそれでウチは問題ないよ」
善意の提案を遠回しに蹴ったのに、それでもギルマスはにこやかにそう言ってくれる。
「よし、じゃあ決まり――たしかちゃんと名乗ったことはないよね? マイトってプレイヤーネームで遊んでる。よろしく、ロックさん」
「ああ、よろしくな」
殴りプリ・マイトが差し出した手を握り返してそう告げる。と、視界にシステムメッセージが流れる――『《
「よし、じゃあ行こうか。ギルマスさん、協力サンキューな」
「いつも《
挨拶を交わすとギルマスさんはギルドの初動確認のため、ギルドメンバーとの打ち合わせに戻っていく。
それを見送った俺は仮想キーボードでシトラスに『初動・沼地エリアのグラトニー陣営にハイドアタック。《親衛隊》から一人随伴』とメッセージを送る。
よし、後は備えるだけだ。
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