第3章 《魔女たちの夜》⑦
他ギルドとの最終確認が終わったらしいシトラスが号を発する。他ギルドも同様で、ホールの中でギルドごとにマスターから作戦が伝えられるというわけだ。
俺も《月光》メンバーが集結する一画に移動して――
「――今回、《月光》は《銀翼騎士団》《†黒猫にゃー†》の両ギルドと協力して砦の防衛を担当します。《銀翼》さんと《黒猫》さんが砦の外に防衛陣を敷いてくれるので、私たちはラース様の護衛が主な担当です」
シトラスがギルドメンバーに説明する。陣営リーダーを務めるギルドとしてはごく普通の担当だ。
……しかしまあ、《月光》なんて名前のウチが言えることじゃないかもだが、いつの時代もギルド名ってやつは。
「――いつものように前衛アタッカーはロキさんの指示で前面に展開、後衛職はナオさんの指示で後方に、タンクのみんなはアンクさんとカイくんの指示でそれぞれ前衛と後衛の護衛をお願いします」
これもまあ普段通りの展開だ。ラース様を落とそうと徒党を組んで攻め込んでくる敵勢力に対し、タンクが受け止めてアタッカーが撃破する。
この防衛方法が基本で、真っ当な方法だ。他にも敢えて守りを薄くして、その分全力で敵陣営に突っ込んで開幕初動でどこかを攻め落とすという戦法もあるが、他の陣営にバレるとその隙に攻め落とされるので滅多に使われない。
……というか、今回は他の六陣営がうちに対してそれをやってくる可能性もあるんだよな。背中を刺されないようにどこも防衛を極端に薄くすることはないだろうが――
「で、実は他のギルマスから、六陣営が同盟組んで
――と、シトラスが俺に発言を求めてくる。俺もただただ他のギルドの顔見知りと雑談していたわけじゃない。
――荒野エリアが俺たちラース陣営。
時計回りに隣接する沼地エリアには暴食の魔女・グラトニーの陣営が割り振られた。最大SPに補正がかかる陣営だ。SP残量を気にせずスキルを乱発する戦法はエリアを選ばないが、攻める側としては障害物の多いエリアの方がやりやすい。
その向こうの廃墟エリアは傲慢の魔女・プライドの陣営だ。プライド陣営はキャストタイムに補正がかかる。ゲリラ戦向きのエリアで高速キャストからの魔法スキルの狙撃は強力だ。
次の草原エリアは怠惰の魔女スロースの陣営。魔法の属性を問わず、範囲魔法が広く、強くなるという補正を持つ。荒野と同じく敵の侵攻を察知しやすい草原では範囲魔法での迎撃が輝くはず。
森林エリアを引いたのは嫉妬の魔女・エンヴィーの陣営だ。エンヴィー陣営は闇魔法に補正がかかる。生い茂る植物にまぎれて闇魔法の不意打ちを食らわないように気をつけないと。
遺跡エリアは強欲の魔女・グリード。グリード陣営はアイテムドロップとアイテム補正だ。あまりエリアとのシナジーはないはずだが……
そして沼地エリアの逆隣となる火山エリアは色欲の魔女・ラストの陣営。幻惑系の魔法に補正がかかる。気をつけるべきは、幻惑魔法で足止めされた挙げ句噴火に巻き込まれることだ。
――というわけで、とりあえずエリアと各陣営については頭に入っている。
「俺も聞いた。SNSで一部のプレイヤーが『#ラース包囲網』なんてハッシュタグ使ってるんだってな」
「――それでね、あんまりモチベ上がらないギルドもいるんだけど《月光》は今回勝ちに行くつもりだって言ったら強く賛同してくれるギルドもいて……《親衛隊》さんなんだけど」
なるほど? たしか正式名称は《ラース様親衛隊》で――さっきの魔法使いとプリーストが所属していたはずの、《
「《親衛隊》さんがハイレベルのパーティをロックに随伴させたいって」
――ほう?
「あそこのギルドは魔女落としてラース様に褒めてもらうってのをモチベに《
「それより、徒党を組んでラース様を狙うってのが面白くないみたい」
「ラース様、っつうか他ギルドの狙いは俺がメインだと思うけどな」
プロの連中は俺からキルとって、ついでに言えば他のプロがそのあと俺を撃破しないようにそのままラース陣営を《
で、俺にアタックをかけるのは多分早いもの勝ちだ。
「《親衛隊》さん的には、状況的に敵陣営の思惑を潰すにはロックの戦力補強が一番じゃないかって。それでも役割的に《月光》でそこを担うには大変だろうからってことらしいんだけど」
「――話はわかった。とりあえず《親衛隊》の方に合流して、あとは適宜連絡取り合って――ってことでいいか?」
「うん――大丈夫? ロックなりにプランあったよね?」
「なんとかするさ。初動どうするか決めたら連絡するよ。じゃあ俺、《親衛隊》に合流するわ」
そう言って踵を返す――と、
「ロックさん!」
背中に声がかかる。振り返ると、ギルドメンバーの何人かが俺に寄ってきた。
正直名前と顔が一致するわけじゃないが――
しかし全員顔は覚えている。彼らが初心者としてウチに加入してきた時に、プレイのコツや対人戦、《
「おう、なに?」
「俺ら、ロックさんリスペクトなんで――ロックさんならプロゲーマーにだって負けねえっすよね?」
「一対一なら負けねえよ?」
「――マジかっけえっす!」
そう言って先頭にいた少年風のアバターの彼がストレージからアイテムを取り出し、俺に押し付けるように手渡してきた。
それは、回復アイテムだった。ただのポーションではない、HPとSPを完全回復するエリクサー――そこそこ稼げる俺やシトラスクラスのプレイヤーにとってはそうでもないが、彼らにとってはそれなりに高価なアイテムのはずだ。
「マジでただの気持ちでしかねーんすけど。つかロックさんならこんなのいくらでも持ってると思うんスけど。でも俺らにはこれぐらいしか支援できなくて。ロックさん、負けないでくださいね!」
「……おう、サンキューな。ピンチのときは使わせてもらうよ」
俺も人の子だ、ここまで言われて『や、十分持ってるから』とは言えない。彼らの気持ちを汲んでありがたく受け取る。
そして改めて踵を返す。凛子――シトラスとの約束以外にも負けられない理由ができたな。
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