第3章 《魔女たちの夜》⑤
――凛子にノーデスでの魔女殺しを約束して、数日。
今日はいよいよギルドイベント――《
時刻は十九時半過ぎ――《
「お、逃げんとよう来たな」
「今日の《
「さすがの貫禄やね」
「俺を狙いに来たプロには《ワルプル》がどういうゲームか体感してもらうよ」
「言うねぇ」
「あ、ナオさん――いつもギリギリなのに今日は早いじゃん」
声をかけてくる面々に挨拶代わりの言葉を返し、カイに目を向ける。カイはあくびを噛み殺しつつ、俺と目が合うと――
「や、ロックさん」
「おう」
何事もない風を装って挨拶してくるカイに手を挙げて応え、そしていささか落ち着かない様子のシトラスに声をかける。
「よ、どうした? 緊張してるのか?」
「あ、ロック――うん。例の件は別にしても、やっぱり他陣営にプロがいて
「プロって肩書にビビりすぎだろ」
「でも、プロなら先行投資だってするでしょ? 課金して経験値増加アイテムごりごりに使ってたらレベルだってきっと高めだよ」
MMORPGのレベルはコンシューマ機のそれと比べて遥かにレベルを上げにくい。そして競技タイトル化が発表されて二週間弱――どれだけプロ同士で協力しあってレベリングをしていても、ソロメインの俺に追いつくのさえ難しいだろう――普通なら。
ただシトラスが口にしたように経験値増加アイテムを買って使用していれば話は別だ。
経験値増加アイテムを使って、その上寝る間も惜しんでレベリングしていればシトラスたちはともかく、普段はソロがメインでシトラスたちよりレベルが低い俺には追いついてくるかもしれない。超高効率のレベリングを見つけていれば、もしかして俺よりも――
――まあ、フルダイブMMOで――その上俺には《神眼》がある。多少レベルで上回られたところで問題じゃないけどな。
「レベルより駆け引きとか戦術とかチームワークとか――そういうのを警戒したほうがいいと思うぞ」
「う、うん――今日はロック、アタッカーをやるってことでいいんだよね?」
シトラスが尋ねてくる。
――俺の《
他のギルドが陣営リーダーの場合はまちまちだ。その時々で《月光》に与えられる役割が変わるため、ギルドの一員としてオーダーに従う。
普段はこれがまあ楽しい。ギルド狩りもするし、シトラスの素材集めやクエストを手伝うことはあるが、このゲームはソロで遊ぶことが多いので《
自分で考えて動くよりシトラス、あるいは陣営リーダーの命令に従うのが逆に協力してる感が強くてすごく面白いのだが――
――しかし今日は、いかにシトラスの命令でも従うばかりじゃノーデスで魔女殺しは難しいと思う。シトラスもきっとそれをわかっていての質問だ。
「ああ。悪いけど、今日はマイペースでやらせてくれ」
「うん、わかった」
「もちろん都度報告するし――それにあれだ、お前も
「いいの?」
「おう――開幕即落ちしそうなら魔女殺しもなにもないだろ。そういうときは言ってくれれば防衛に回る。こだわって負けるより、勝ったほうがいいもんな」
「……ありがとね」
そう言ってシトラスは微笑む。多少肩の力が抜けたようだ――というところで、カイから個人チャットが飛んできた。ウィンドウを開くと――
『ロックさーん、僕はノーデス・魔女殺しできなかったら納得しないからね?』
恨み節だ。カイには二日ほど徹夜してもらって付き合わせたからな……
『任せろって。成功したらシトラスにもお前に協力してもらったことちゃんと言うから』
『失敗したら?』
『そんなもん、協力してもらって失敗とかカッコ悪いから何も言わんが?』
仮想キーボードを叩いてそう返すと、怒りマークのスタンプが返ってきた。カイなりの激励だと思っておこう。
さて――《
システムメッセージと言ってもイベントの一貫で、俺たちラース陣営の場合はラース様がアナウンスという名の号を飛ばしてくれる。
――毎回定型文だし、イベントなのでメインシナリオと多少矛盾があるのはご愛嬌だ。
今まで隅に控えていたギルドハウスのマスコット・ラース様がイベント用のシリアス顔で大声を張る。
「みなさん、準備はいいですか――今こそ怨敵である六人の魔女たちを討ち滅ぼす時です!」
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