第3章 《魔女たちの夜》④
「正直、魔女殺しの方はそんなに難しくないと思うんだよ。俺一人でもタイミングさえ合えば突撃してそのまま殺しきれると思うんだけど」
「まあ、ロックさんのプレイングならね……でも普通に考えたら生還できないよね。陣営魔女が死んだら敗退確定だけど、Gvマップからすぐに追い出されるわけじゃない。リスポーンできなくなるだけで死ぬまではマップにいられるから報復キルは間違いないよね。Gv中はテレポ系の魔法とアイテム使えないし」
「それよ。こっちは魔女殺してるわけだから、普通に考えたら死に戻りで十分なんだけどさ」
回避系や撹乱系のスキルでゴリ押せばおそらく護衛チームを突破して魔女にアタックすることはできる。
ただ、一番守りの固い砦の最奥まで侵入し、魔女を殺して生還というのは普通に考えたら無理筋だ。
「魔女に触れれば確実に落とせる?」
尋ねてくるカイ。その言葉に俺は応と答える。
「間合いに入ったら《ファントムドライヴ》からの《カオスディザスター》でバフ剥がしてボコる」
《魔女たちの夜》での魔女ユニットはシナリオで戦うときほどHPは多くない。それを守るために護衛を配置したりバフで守ったりするわけだ。
「あー……《カオスディザスター》なら《
「まあな」
カイの言葉に頷く。近接系スキルは使用の際に武器種を限られるものがある。ローグやアサシンの攻撃スキルはその殆どが短剣か片手剣で――例を挙げるとカイ愛用の両手剣では《ソニックスラッシュ》を使用できない。
他にはモンクスキルの《金剛体》やバフ系スキルは武器種を限られないが、攻撃系は素手、あるいはナックル系でないと使用できない、などだ。先日カイが使った《クロスフローター》も片手剣・両手剣で使用可能で、短剣メインの俺は使えないため取得していない。
「いやあ、僕は両手剣って決めてるから」
カイはそう言ってミラージュブリンガーを担ぐ。
「でさ、話を戻すけど――魔女殺しに自信があるなら二、三体落とすってことでノーデスは取り消したら?」
「――話の中で『俺はすごくすごいゲーマーだ』ってイキってんだよ。ノーデスのほうがハードル高いのにやっぱなしで、はカッコ悪すぎるじゃん」
「すごくすごいゲーマー笑」
「笑ってんじゃねえよ」
わざわざ爆笑エモートを出すカイ。その辺から石を拾って投げつけるが、カイはそれをひらりと避けた。
「結局ロックさんはどうしたいのさ」
カイが核心に触れる。俺はカイにアイにきた本懐を告げる。
「欲しいスキルがあるんだよ。レベリング付き合って」
――カイはすごく面倒くさそうな顔をした。
「ええ……すごく面倒なんだけど」
「頼むよ。レベルカンストしたときにトータルで火力落ちるから取るつもりなかったスキルなんだけどさ……今回ノーデスで《
「ギルド狩り中にレベル上がったって言ってたじゃん。足りないの?」
「それは《カオスディザスター》取って使っちゃった」
俺がそう言うとカイはなんとも言えない顔をする。
「なんで後先考えずにポイント使い切っちゃうのさ。アプデでメイン火力にしてるスキルが
「まさか《
「計画性……!」
カイは眉間を抑えて呻くように言う。その表情からは『面倒くさい』以外のメッセージが読み取れない。
「そんな顔するなよな。
「今、生まれて初めてタダより高いものはないって言葉を実感してるよ……や、まさか二人でってことはないよね? ロキさんやアンクさんは?」
「あの二人はお前の百倍煽ってきそうだから頼みたくない」
「ナオさんは?」
「あの人に言ったらシトラスに筒抜けじゃん」
「……こんなことなら僕もさっさとログアウトしとけば良かったよ」
「そこをなんとか。友達だろ?」
「今急速にロックさんとの友情が失われつつある」
「そうかー、残念だよ……とても残念だ。あーあ、俺がノーデス失敗したらシトラスが落ち込むだろうなぁ」
「――ロックさんて実はすごくいい性格してるよね!」
俺の言葉にとうとうカイが音を上げた。
「いいよ、協力するよ。まあ、僕もシトラスさんのテンションは気になってたからね。これでシトラスさんが元気になるなら安いもんだと思っておくことにするよ」
不承不承と言った様子でうなずくカイ。
「持つべきものは友達だぜ!」
「軽いなぁ、もう……確認しておくけどさ、魔女殺しの後の生還だけじゃなくて、普通にプロゲーマーのパーティに狙われると思うけど――そっちは大丈夫なわけ? そっちに負けるんじゃ意味ないと思うけど?」
「報復キルみたいに囲まれるわけじゃないだろ? プロだってそこまでして勝っても誇れないもんな。だったらどうにでもするさ」
「ホントにぃ?」
「俺の対人戦の強さはカイも知ってるだろ? にわかプロなんかに遅れは取らねえって」
「全くもう……絶対どっかで借り返してもらうからね」
「OKOK、任せとけよ」
ジト目のカイにそう言ってやると、カイは諦めたように肩を竦めた。
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