第1章 《公認チーター》⑦
「はああ?」
俺に遅れること数分――フレンド登録しているシトラスがオンラインになったので個人チャットを送ってことの次第を告げると、即座に俺の目の前に《
「俺につっかかるなよな」
「わかってる、運営にムカついてるの! 普通チートなんて運営側が対策するもんでしょ? それをチートの疑いがあるから確認させろだなんて、碧のこと馬鹿にしてる!」
「落ち着けよ……逆にチート対策が万全のつもりだったから、魔法スキルなしのソロで討伐できる想定じゃないミラドラを討伐した俺が、検知できないチートを使ってるんじゃないかと思ってるのかも」
うっかり俺を本名のほうで言うシトラスを宥めつつそう言うが。
「結局碧を疑ってるわけじゃん! 碧はどんなゲームだって絶対ズルなんかしないのに! っていうか碧はこんなこと言われて悔しくないの!?」
シトラスが眉間に力を込めて俺を睨み上げる。うわぁ、改めて思うけど《ワルプルギス・オンライン》ってすげーゲームだな……こんなに細かく表情再現するんだもんな。
「どうなの!?」
完全に怒りが俺に向いてるな。俺被害者ぞ? でも正直、自分より怒ってる人間見てるとなんというかこう、逆に落ち着いてくるというか……
「まあ、弁明しないとなぁとは思ってる。こんなことでアカウント停止されたらたまらん」
「返事はなんて!?」
「いや、メール呼んですぐお前がログインしてきたからメッセ送って――ゲームマスターにはまだ返事してねえよ」
「よし」
そう言うとシトラスはシステムメニューから仮想キーボードを立ち上げ、猛然とタイピングを始める。
「お、おい――」
「こんなことになったのも半分は私のせいだし。ちゃんと決着つけてあげるわよ」
決意めいたことを言って――そしてシトラスは叩きつけるような勢いで仮想キーボードを叩く。しかしそれもすぐに終わり、そして――
俺の視界に、ゲーム内のボイスチャットのコールウィンドウが表示される。参加者の欄にあるプレイヤーネームはシトラスと……ゲームマスター?
「おいぃ!?」
突然のボイスチャット――こいつ、運営にクレーム入れたのか?
「――大丈夫、私がちゃんと話すから。碧は聞いててくれればいいよ」
「……チャット中は本名だすなよ」
「ん」
シトラスは自分の視界に映っているであろうチャットウィンドウを睨みながら頷く。ホントに大丈夫なんだろうな……?
不安半分、戸惑い半分でチャットへの参加ボタンをタップする。同時に怒りを隠しきれないシトラスのバストアップが映るウィンドウと、見知らぬ――おそらくゲームマスターなんだろう、青年風の男アバターのバストアップが表示される。
そして、チャットが繋がるや否や――ウィンドウの中の青年が口元を引き締めてお辞儀した。
「――はじめまして、ロック様、シトラス様。私は株式会社フォースフェニックスの《ワルプルギス・オンライン》運営スタッフの黒間と申します」
フォースフェニックとは、彼がそう口にしたように《ワルプルギス・オンライン》の開発運営会社で、のみならず多くの名作VRゲーを制作する老舗ゲームメーカーだ。
メーカーと本名と思われる名前を口にしたからには、この人は社員かアルバイトかは知らないが、ともかく運営スタッフで間違いないだろう。
「――先にメールでお伝えしたように、この度はロック様にプレイ内容について確認させていただきたいことがあり、コンタクトを取らせていただきました。早速のご連絡ありがとうございます」
折り目正しくそう言うゲームマスター。
「つまり、ロックがチートしてるって思ってるんでしょ?」
俺が返事をする前にシトラスが喧嘩腰で言う。全然『ちゃんと』じゃねえじゃねえか。
しかし、そんなシトラスの口調にも、ゲームマスターは表情を変えずに――
「――シトラス様がご自身のSNSにアップした動画の撮影者でお間違いないでしょうか?」
「ええ。ロックがまっとうにミラドラ討伐してたのをちゃんと見てたわよ」
「誤解があるようですが――我々もシトラス様がアップされた動画を拝見させていただき、これはもうすごいの一言に尽きるなと。同時にロック様の幻魔竜ミラージュドラゴンの戦闘ログを確認させていただいたのですが」
ゲームマスターはそこで一旦口を閉じると、言葉を選ぶように――
「――その、ミラージュドラゴンが《
――チートを疑っているのはそこか。なるほど、チートを疑う運営の気持ちはわかる。
幻魔竜は何度も《
猶予2F――二ミリ秒の受付時間を、それもソロの戦闘ではおおよそ必要のないヘイト管理スキルでキャンセル――それを100%成功させている上、アルティメットムーブの瞳の発光も
人間の限界反射反応速度を軽く凌駕するタイミングで敵ユニットの特定の行動・反応に対して反応しているわけだ。運営としては特定の状況下で、自動でコマンドを入力するアルゴリズム系のチートと考えたくなるだろう。
「レーザーブレスを含む魔法系攻撃スキルを近接スキルの《パリィ》で無効化できるのは想定内の仕様でして――開発陣もブレスや魔法の処理に当たり判定を残すことで、そういったいわゆるスーパープレイが可能、という設計にしたのですが……《
「――だからチートって言いたいわけですか?」
噛みつくような勢いのシトラスに、ゲームマスターも居心地が悪そうな表情で、
「システムの検知にかからないので不正はない、はずなのですが……」
「だったら問題ないじゃない」
「先程申し上げましたように、《
「ロックにはそれができるのよ! やられて困るなら最初からキャンセルできない仕様にしとけばいいじゃない」
「――それじゃゲームとして面白くないだろ」
表情再現システムのせいで鬼の形相になりつつあるシトラス。俺の代わりに怒ってくれるのはありがたいが、どうやら『ちゃんと』話はできないようなので口を挟む。
「それで? どうすれば俺の嫌疑は晴れるんですか? こっちは痛くない腹を探られた挙げ句、
ゲームマスターに問いかけると、彼は申し訳無さそうな顔を見せ、
「ご理解いただきありがとうございます。もし良ければ、幻魔竜攻略に立ち会わせていただければと思っております」
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