第1章 《公認チーター》⑧
「――監視下で同じことやってみせろってこと!? いくらなんでもプレイヤーをバカにし過ぎじゃ――」
一瞬でアツくなるシトラスを制し、俺は口を開く。
「いいよ。むしろ立ち会って潔白を証明してもらったほうがいいだろ。どうせこれからもエクストラボスをソロで討伐してくんだ。その度にチート疑われるよりここで『できる』って証明したほうがいいだろ」
「そうかもしれないけど……」
――それに、下校中に確認したが、どうやら《ワルプルギス・オンライン》プレイヤー界隈で、切り抜き動画から俺がチーターだという話で盛り上がっている連中もいるらしい。
そういった連中から嫌がらせを受ける前に、運営の手をかりて潔癖であることを証明するのは悪いことじゃない。
一度踏破したクエストはいつでも再挑戦できる。つまり幻魔竜との再戦はいつでもできるのだ。加えてもうアルティメットムーブは『見た』――何度やり直しても、幻魔竜には勝てる。
ゲームマスターの提案に乗るのは悪い手じゃない。
「それで、マスター――幻魔竜との再戦はいつやれば? 今から?」
「いえ――弊社には特殊な管理ツールがありまして……プレイヤーの通信状況の観測と、デバイスのメモリを解析して外部ツールのアクセスを検知するシステムなのですが……」
「管理ツールね……それってメモリハックじゃないの?」
シトラスが嫌味を言う。
「デバック用です」
ゲームマスターとしてはそう言うしかないだろう。プレイヤーのメモリハックははっきりと不正アクセスだ。もっとも、俺が許可をすれば不正じゃないわけだが。
「ミラージュドラゴンとの戦闘中、このツールをロック様に使わせていただきたいのです」
「いいすよ。それで俺の潔白は証明されるんすよね?」
「はい――許可をいただいて、不正がないことを確認できればその旨を運営の公式アナウンスとして発表させてもらいます」
「はぁ!? なんでわざわざそんなことすんのよ!」
シトラスの怒号に、ゲームマスターは気圧されたように困った顔をして――
「――パーティ前提のエクストラボスをソロ攻略した動画のプレイヤーはチーターなんじゃないか、という通報が相次いでいるのです。そういった事情もあり、運営としては調査をしたという実績が必要でして」
「~~~~っ」
原因が自分であること――そのことを突きつけられ、シトラスが唇を噛む。
「――で、いつやれば?」
あまりこのことをシトラスに考え込んで欲しくない。目先を変えるためにもゲームマスタ―に尋ねる。
「ツールをロック様に適用するのに時間が――二時間もあれば十分なので、それ以降ならいつでも大丈夫です。あと、ロック様がご使用になられている回線の通信ポートをお教えいただきたく」
二時間後――システムクロックで時刻を確認する。十六時すぎ――学校から帰ってきてすぐだからこんなもんか。十八時から――だと半端な時間だな。
「二十時でどうすか。場所は――まあミラドラ戦だから当然ここで。ポートはメールしときますよ」
「ありがとうございます。時間も大丈夫です」
俺の提案にゲームマスターが頷く。よし、これで話はまとまったかな。
「そんじゃ、また後ほど」
「はい。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言い残してゲームマスターはチャットから抜けていった。残されたのは、悔しそうな顔のシトラスと、俺――
シトラスが申し訳無さそうに切り出す。
「……ごめん、碧。私が動画アップしたいなんて言ったからこんなことに」
「あー……まあ、お前が言い出さなくても遅かれ早かれって感じじゃね? 月末恒例のギルドイベントでも『魔法スキルをパリィするプレイヤーがいる』って話題になりつつあったから、《ワルプル》続けてりゃいつかこういう日が来たろうさ。それが今日だったってだけだ」
そう言ってやるが、シトラスは目を合わさず、俯いたまま。下向いたって溶岩が固まった地面しか見えねえだろうに。せっかく超リアルなVR世界なんだから、地面ばっか見てんじゃねえよ。
「――まあ、なんつーか。お前も見に来るだろ?」
そう問いかけると、シトラスはようやく顔を上げて俺を見る。驚いたように――
「……いいの?」
「いいも悪いも――気になるだろ? 大丈夫、昨日みたいな長丁場にしねえからよ。昨日がソロ攻略なら、今日はミラドラ攻略ソロ
俺がそう言うと、シトラスは目を丸くする。
「半分ん? 四人パーティでだいたいそんなもんだよ。ソロで二時間でもすごいことなのに、それを一時間でって――」
絶句するシトラスだが、
「時間置いたら無理かも。でも今日なら狙える。昨日の今日だからミラドラのモーションばっちり覚えてるし、それに昨日ミラドラ倒してレベル上がったんだ。スキルポイント増えたから、新しいスキル取ろうと思ってるんだよ。ほら、気になってきたろ?」
「新しいスキルって……もうアサシンは《デッドリーアサルト》取ってるし……え、なに?」
「それを知りたきゃ見に来いよ」
俺はそう伝えながらシステムメニューを開き、スキルポイントを確認する――よし、取得は問題ない。
「……八時までどうするの?」
メニューを眺めているトシトラスが尋ねてくる。
「ああ。いつもは二十一時頃からゲーム始めるけど……今日は早めにログインしなきゃいけなくなったろ? 話の向きじゃ長くなるかもしれないし――一回落ちて先に学校の課題済ませようかな」
「ん、わかった――私もそうする」
「おう、じゃあまた後でな」
俺はそう告げてそのままシステムメニューからログアウトボタン呼び出す。
それをタップしようとし――シトラスが申し訳無さそうな顔をしているのが目に入った。
こりゃあ二度目の幻魔竜戦はサクッと終わらせてなんでもないことだって分からせてやんねえとな――下手な慰めよりそっちのほうが効果的だろう。
俺は気合を入れつつ――しかし今日の課題の多さを思い出してげんなりもしつつ、ログアウトボタンをタップした。
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