第10話 「女神」が出ていた飲み会で知り合った女の小噺
大丈夫? ここで落ち着くまで、少し休んでな。
あんたどうせ未成年でしょ。万が一、急性アル中とかで運ばれたら洒落になんないんだからやめてよね。
飲ませたおやじ達も最悪だけど、あんたも自分で自分の限界を見極めて、ちゃんと自分の身を守んないと。持ち帰られちゃっても知らないよ?
──え、今日初めてお酒飲んだ?
嘘でしょ、それであんなバカスカ飲んだの? 馬鹿なの?
ガチでヤバいってか、あーもーあんた、素人さんか何か?
素人にしても余りにも世間知らずってか。こんな飲み会に、初めてで挑むなんて正気じゃないよ。事務所に所属とかしてないの?
へ? あの大手所属? だけど社長には言わずに独断で参加した?
……なんでそんなことしちゃうの、色々怖すぎなんですけど。関わりたくなさすぎ。
私はアストロノーティア所属。そうそう、X-boyzとかが有名かな。
──直球だね。そう、まぁ仕事が欲しいから参加してるわけ。参加するだけで、ギャラが発生するしね。
私たちみたいなタレントが、ほいほい普通のコンビニや居酒屋で働くわけにはいかないでしょ。熱心なファンに遭遇するかもしれないし、そうでなくても接触することでお金をもらう職業でもあるんだから、接客業のバイトは禁止なわけ。
かといって充分に食べて行けるほどの収入もないしどうしようかなって思ってたら、ここに流れ着いた。
ここに限らず、夜は色んな飲み会に顔を出してるよ。タク代もらえるだけでも、歩いて帰れば丸々自分のものになるしね。
飲み会にもランクがあって、ランクが高い飲み会は気前がいいんだよね。
まあでも、ランクが高い飲み会って言っても、飲み方が綺麗で品が良いってわけじゃないから、そこは気をつけなね。
人が死んでニュース沙汰になっても、未だにテキーライッキがまかり通る世界だし。
ああ、それもなんのことかわからないのか……。
ったく、何も知らないくせに、なんでこんな飲み会参加したのよ。頭おかしいんじゃないの?
仕事が欲しかったのか知らないけど、ただ飲んで騒いで仕事がもらえるなら、ここの飲み会にくる女の子の全員が売れっ子になってるわよ。
あんた、間違いなく次からは呼ばれないだろうし。
当たり前でしょ、飛び抜けてビジュアルが良いわけでも、トークで場を盛り上げられるわけでもない、挙げ句の果てには卓ゲロしそうになって離脱でしょ?
可哀想だから、まだ引き返せるうちにハッキリ言っておいてあげるけど。
あんた程度のビジュアル、芸能界には腐るほどいるから。
この世界で生きていくのは諦めて、普通に進学して、普通に就職した方がいいんじゃない? そしたら可愛い可愛いってチヤホヤしてもらえるよ。
芸能界ってのはね、あんた以上の可愛い子が、それだけじゃ目立てないからって他の武器を探してしのぎを削ってる過酷な場所なの。
こういう飲み会の人脈をアテにする子もいるけど、よっぽどベッタリ誰かの愛人になるとか気に入られるとかしないと難しいよ。
枕したところで、端役もらって終わりとか、一回だけ起用されて終わりとかよくある話だもん。
……え、女神? 誰それ。
ああ、あの子のこと?
飲んだことあるよ。あの子はここの常連だったから、私が呼ばれた時は大抵あの子もいたかな。中心の特等席にいて、いつもニコニコ笑ってた。
あの子は別格だったよ。おやじ達がメロメロで、ありゃあ売れるわって感じ。
どこまで計算なのか、どこからが素なのか全然わかんなくて──いや、こんな飲み会で素なんて絶対見せないだろうから、素っぽく見せるのがうまかったのか。
とにかく賢かったんだと思う。
自分が何をするとどう他人に受け取られるかみたいなのを熟知してて、完璧に自分の印象をコントロールすることで、場も支配していく感じ。
世の中には、合コンさしすせそじゃないけど、こう言われたらこう返せばいいみたいなノウハウが溢れてるじゃない?
あの子の場合はそんな単純に真似できるものじゃなくて、表情、仕草、セリフ、全てが緻密に正解を叩き出してた。
周りの子たちとはプロ根性も何もかもが違ったんだろうね。
私だってこれは仕事だって意識だったけど、心のどこかで、適当にお酒飲んでその場を盛り上げて、おじさんをあしらってればいいみたいな気持ちでいた。他の女の子も大体がそうだったんじゃないかな。
でも、あの子だけは隙がなかった。
だからあの子が売れるのは納得できる。
枕営業?
さあ、知らないけど。あの子とヤりたい男は多かった……ってか、ほとんどがそうでしょ。あの子をちやほやするのは、結局のところ、全て下心からなんだから。
こんな下品な飲み会で、下心以外の何かが生じると思う?
すぐ女の子に飲ませようとするし、ゲスい下ネタで溢れてるし、酔うと誰彼構わず抱かせろって迫る俳優とかもいるし。
誰とヤっててもおかしくないとは思うよ、別に。
酒の勢いでとかはなさそうだけどね。あの子、どれだけ飲んでもケロッとしてたから。
一回、あの子を酔い潰そうとテキーライッキ勝負をしかけて、まんまと負けた男がいたよ。
最近ブレイクしてきた俳優の男の子。よりによって、あんなか弱そうな女の子に飲み勝負で負けて大恥かいたのに、それでも諦めず、ずっとあの子にアタックし続けてたって噂。
まあそんな感じだったから、枕営業してようが誰の愛人やってようが私は驚かないけど……ああ、ただ心当たりがあるとすればあれよ、今日真ん中にいた男いたでしょ。
あれは元広告代理店で、最近独立した超有名プロデューサーなんだけど、やけに親密そうだったから、あいつとは一回くらいは寝てるんじゃないのかな。
あいつ、私にも一回誘いをかけてきたから、女癖悪いのも確定だし。
誘いに乗るかどうか迷ったけど、私がヤらなかったのは、彼の愛人が怖かったから。
その人有名な女優さんでさ、目をつけられたら仕事がやりづらくなるとかいう噂もあったから。目をつけられないに越したことはないでしょ。
まぁ、その後しばらくして破局しちゃったらしいんだけどね。
それもプロデューサーがあの子に心変わりしたからじゃないかって、裏でまことしやかに囁かれてた。
あの子も、虫も殺さぬような可憐な顔してるけど、節操なさそうというか、好きになったら相手がいるとか関係なく奪っちゃうタイプって感じするしね。
むしろ、奪う方が燃えるタイプなんじゃないの?
あれだけの数の男達から欲望を向けられておいて、あんな風に無邪気な天使みたいに振る舞える女って並大抵のメンタルじゃないから。
え、自殺の理由?
私が分かるはずないじゃない。単なる飲み会メンバーの私が。
最近は仕事が忙しいのか、飲み会にも顔を出さなくなってたしね。
でも、自殺するタイプには見えなかったけどなあ。
自分に自信があって相当強かだったと思うし、痴情のもつれで殺された方がまだしっくりくるかな。
あの子を好きな男の中で、誰か一人ぐらい頭のおかしいのがいたって不思議じゃないと思わない?
オーバードーズなんて、どうにかしたら偽装できそうだしねぇ。
さ、そろそろ落ち着いた?
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