ミシュナ視点2:彼女のことを知らなさ過ぎた
「え?」
「鬼が世界の秩序を破壊し、魔も緩慢な眠りに陥った。世界の秩序は安定せず、現世に留まり続ける人々の魂と怨嗟。それらが求めるものは、人間だ。
特に、300年前に最も強く輝いた人の魂。その魂を継ぐ一族へ宿り、その者と共にあろうとした」
「人の一族……ハンク家?」
「そう。あの魔剣の持ち主はハンク家の者。無辜の存在だった。
…聞こえはいいが、自我が殆どない空っぽの存在だよ、あの少女は。
積もり積もった因果の呪いは、その肉袋へ憑りついた。
一人の自我の確立した女すら血狂いにさせるものが巣食った。
無辜の魂に染みついた呪いは、一人の少女を血狂いへと変えた」
「な……」
血狂い?オルビドは確かにそういった。
気狂いではなく、血狂いと。
そんなバカな。僕は今聞いた話を信じることが出来ない。
(だって……血狂いは。オリヴィエは……)
とっくに死んだ存在。殺戮の果て、娘であるシルヴィア・ハンクに殺されたのだ。
「死して動ける肉体を失おうとも、正気のすべてを使い切り狂気に堕ちた魂は現世に留まり続けた。その上、狂気のそれを治せない。アルエットという空っぽの娘は別の狂戦士となり果てていたのだろう」
(オルビドは知っている……何もかも)
僕はオルビドを凝視することしかできないでいた。
(じゃあ、キリウスのあの戦い方も?)
目の前の災厄の魔女が嘘を言うとは思えないが、彼女が言うこと全てを信じることもできなかった。
動揺しきった僕を見てか、オルビドは目を伏せて話す。
「あの娘は哀れだ。本当の血狂いと化した因果の呪いと戦うために、死出の旅を放棄し現世と死の狭間にさまよい続けている。現存するハンク家の末裔たちを守るため……わが子を守るために戦い続けている」
オルビドの言葉に僕は思わず立ち上がった。
「ど、どういう意味だよ」
「お前は何も知らないのだろう?キリウス・ベルカーはシルヴィア・ハンクの子だ」
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