8:極限まで高めた拳しかないんだよ

「ミシュナー」

霧の向こうから、小柄な女の子が走ってきた。

いや、人間ではないね。原種の魔人か……珍しい。確かアヌベスちゃんと言ったはずだよ。この娘。

「キリウス、いた?」

「え、あ。うん」

「……?どこ?」

(おや、私のことを見抜いているね)

とりあえず、ミシュナの死角から自身の口元に人差し指を当てると、暫し沈黙したのち魔人の娘は頷いた。

「キリウス、いた。でも、まだダメか」

魔人の娘はぎこちなくこちらに話しかける。

「早く逃げたいところだけどねえ」

私は、剣をアヌベスの鼻先に突き出す。

「あ……」

「この剣は悪いものが巣食っている。祓わなければ古き異形が何度もこの町を襲うわ」

適当に放置もできやしない。その地が穢れることに変わりない。

私の言葉にミシュナが唸る。

「これだけ規模の大きい瘴気をまき散らすなら、魔傘を使っても一時しのぎにもならない……。

町を捨てろとしか……」

「あら、古代魔法は使えないんじゃないの?」

「この魔傘自体は古代魔法そのものだから、外敵から隠して覆うくらいなら。だけど、剣が活性状態だと無理」

(これは……)

ミシュナが。半人前の魔法使いが怪異を追える理由。

(万が一の事態を解決できる者がいるね、これ)

「隠して覆った後は?宛があるの?」

「ユイは引っ張られかねないから、気は引けるけど…。………僕の…実母に頼って亜空間に廃棄してもらう。

連絡を取らないといけないから、五日は掛かるから無理d」

「その案で行こうか。この町の住人が町を捨てる必要もないからね」

(災厄の魔女オルビドの系譜なら、そこらの魔法使いより安心できる)

私はミシュナとアヌベスの間に割って入る。

「いや、無理だって。この町を捨てなきゃ。瘴気まみれの不毛の土地になるんだよ?」

「全治五日にすればいいさね」

「……どういうこと?」

私がニカッと笑いかけると、ミシュナ少年は眉を顰める。

私は己の拳をゴキゴキと鳴らして言った。

「器を壊さず、中身を無力化する。呪いだけをボコボコにぶん殴って大人しくさせればいいのよ」

「どんな力業!?」

ミシュナ少年の驚きを余所に、私は魔剣を大地へ突き立てて対峙する。

「さあて、気張っていこうじゃないの」

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