第9話 白馬の王子様を探しに行こう!
「――それで、出会いが欲しいなら協力してあげるってどういうこと?」
夏美が恋叶にそう問い、心愛はハッとした。
そうだ。元々恋叶が話しかけてきた理由は、それだった。
協力とやらの内容を、聞いておく必要があるだろう。
「そうだね。友達にもなったことだし、そろそろその話をしようか。簡単なことだよ。二人が出会いを求めてるっていうなら、出会える場を、アタシがセッティングしてあげる」
「いや、出会いを求めてるのは心愛だけよ。私は求めてないから」
そこだけは否定しておこうと、真っ先に夏美が口を挟んだ。
「ちょっと夏美!? わたしが出会い厨みたいな言い方しないで!?」
「暇さえあれば白馬の王子様に会いたいとか言ってる人が出会い厨じゃないと?」
「違うよ! わたしは本気の恋しかしないから‼ 出会い厨の人と一緒にしないで!?」
「でも心愛、男子のこと性的な目で見てるわよね?」
「言い方!? 言い方に語弊がありまくりだよ!?」
「否定はしない……っと。ちょっと恋叶さん。この人、男子のこと性的な目で見てるらしいわよ? いやらしいわねー」
「ホントこれだから紐パンSM痴女は……」
「そこぉ! わたしを差し置いてこそこそ話しないで!? あと紐パンとか痴女とか聞こえてるからぁ‼ わたし痴女じゃないからぁ‼」
「「紐パンではあると……」」
「紐パンじゃないですけどぉ!? それもうわたし人間ですらないよね!?」
「「人間卒業おめでとう! 今日から君は、紐パンだ!」」
「全く嬉しくないぃいいいいいいいいいい‼」
心愛が頭を抱えて叫ぶと、夏美はくすくすと控えめに笑い、恋叶はけらけらと豪快に笑った。
笑い終えると、夏美が、
「しまった……。つい心愛をいじる方向に舵を切ってしまった。これじゃ話が進まないわ‼ 恋叶、具体的に、出会いの場はどうやってセッティングするつもりなのかしら?」
かなり無理やりな感じで、夏美が話を進める。
「よくぞ聞いてくれたね! 出会いの場……それはズバリ、相席カフェだよ‼」
バーン!と効果音が鳴りそうな勢いで、恋叶が言い放つ。
「相席カフェって……なに?」
そう疑問を示したのは心愛だ。彼女の疑問に、恋叶は嬉々として答える。
「相席カフェっていうのはね、お店に訪れた初対面の男女が相席して、楽しくお話しようってコンセプトのカフェのことだよ! そして、あわよくば連絡先を交換したり……友達以上の関係になっちゃったり……なんてことも起きちゃう! 正に出会いを求める人たちに持って来いのお店なんだよ!」
「え、なにそれ怖い……」
なんだか陽キャの雰囲気を感じて、心愛は萎縮してしまった。
「怖くなんてないよ! 楽しくお話するだけなんだから!」
「え、だって初対面だよね? 初対面の人と楽しくお話とか無理では? しかも、そのカフェに来る人って、出会いを求めてくるわけだよね? それってもうヤリチンしかいないの確定じゃん! わたしの白馬の王子様はヤリチンじゃない‼」
「心愛、あんた陰キャ発動してるわよ。あとヤリチンとか言うのやめなさい」
怯える心愛を、夏美が宥める。
「こわい……。陽キャこわい……」
「あんた中学までの陰キャ卒業するために、高校ではコンタクトにしたり色々努力したんじゃないの? 見た目だけじゃなくて中身も変えないと、白馬の王子様なんてやってこないわよ?」
「わたしもう高校デビュー失敗してるもん! もうどうでもいいもん‼」
うわーん、と今にも泣き出す勢いで、心愛は机に突っ伏した。
「あーあ、ヘラっちゃった」
やれやれ、と夏美が肩を竦める。
「心愛っち、相席カフェは怖くないよ? それに、アタシも一緒に行ってあげるから。もし悪い男がいても、アタシが守ってあげるから。ね?」
励ますように、恋叶が心愛の背中を撫でた。
「え……。わたしの白馬の王子様は恋叶ちゃんだったの……?」
「ナツミン、この子すごくチョロいね。悪い男に騙されそう」
「そりゃ、白馬の王子様を本気で信じてる子がチョロくないわけないでしょ。チョロすぎてヤリチンもびっくりよ」
「やっぱりアタシが守らないと……!」
何かの決意を固めたように、恋叶は拳をぐっと握り締めた。
「アタシね、良い相席カフェを知ってるの。そこは中高生限定の相席カフェだから、相手は絶対に中学生か高校生で、悪い大人とかはいない。値段も抑えめで、女子は追加メニューとかを頼まなければ料金無料なんだよ! 何より、悪質なお客さんは店員さんがちゃんと取り締まってくれるから、安心して。きっとそこなら、心愛っちも白馬の王子様と出会えるよ!」
「なにそのカフェめっちゃ良いね! よし行こう! 白馬の王子様探しに行こう‼」
「即効で洗脳されたわねこいつ。やっぱりチョロい……」
あまりの切り替えの早さに、夏美は呆れていた。
「ちなみに何を隠そう、アタシはそこで出会った人と恋人になりました!」
実績を自慢するように、恋叶がドヤ顔で胸を張った。
「え!? じゃあ恋叶ちゃんは彼氏いるの!? 羨ましい‼ 流石恋叶ちゃん‼ 略してさすれん‼」
「いや、その彼氏とはすぐ別れたけど……」
ずーん、と一気に空気が重くなった。
「そ、そうなんだ。どうして別れちゃったの……?」
「バカ心愛! それは地雷――!」
夏美が注意するも、時すでに遅し。恋叶はぐすっと涙ぐんだ。
「ふん! 悪いのはあの男なんだから! 全部アイツが悪いんだから‼ ああ、もう‼ イケメン彼氏作って絶対見返してやる! 別れたこと後悔させてやるぅー‼」
「うん。原因はわからないけれど、これ振られたパターンね。恋叶は彼のこと好きだったのに、彼から突然振られたパターンね」
夏美が冷静な分析をする横で、恋叶は涙が零れないように必死に耐えていた。
「とにかく! 出会いが欲しいなら、相席カフェが一番手っ取り早いんだって! マッチングアプリみたいに、加工詐欺とかもないし! 女子は値段も安くてお手軽だし‼」
「わかったよ恋叶ちゃん! わたし、恋叶ちゃんと一緒に相席カフェ行くよ! そして一緒に、最高の彼氏作ろう‼」
「心愛っちってばわかってるじゃん! よぉーし! それならさっそく今度の週末、一緒に相席カフェに行こう‼」
「二人とも頑張ってね。良い出会いがあることを祈ってるわ」
夏美が二人を激励する。
「何言ってるの夏美! 夏美も行くんだよ!」
「そうだよ! ナツミンもアタシたちと一緒に行くに決まってるじゃん!?」
「え……。いや私はそういうの興味な――」
「ショタっぽい見た目の子もいるかもよ? ワンチャンお持ち帰りもできるかも?」
誘惑するように、心愛がぼそぼそと夏美に耳打ちする。と、
「ぐ……! い、行けばいいんでしょ!? わかったわよ行くわよ!」
「夏美も夏美で、ショタのことになるとチョロいなぁ……」
「か、勘違いしないでよ!? 決してショタに釣られたわけでは……!」
「あ、あんなところにショタが……」
「どこぉ!? ショタどこぉ!? ぐへへ、お姉さんと一緒に楽しいことシよ?」
「思いっ切り釣られてるんだよなぁ……」
あまりにも簡単に罠にハマった夏美に、心愛はジト目を向けた。
とにもかくにも、今度の週末は女子三人で中高生限定相席カフェに行くことになったのだった。
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