第10話 相席カフェ編、開幕

 そして、あっという間に週末はやってくる。


 その日、心愛はいつも以上にオシャレしていた。


 まず、髪型からして気合の入れ方が違う。普段はただのボブカットだが、今日はサイドに編み込みを入れるアレンジを施している。


 服装は、白のブラウスに薄いピンクのスカートと、可愛い系を意識した。白馬の王子様とのデートを妄想して、春休み中に購入した勝負服だ。


(服装も、メイクも、髪型もばっちり! 今日はこれで、白馬の王子様と運命の恋を……!)


 未だ姿を見せない白馬の王子様に想いを馳せながら、心愛は待ち合わせ場所の駅前に立っていた。


 今日があまりにも楽しみ過ぎて、ついつい集合時間の三十分前に到着してしまった。


 ちなみに、駅前に着いてから二十分ほど経ったが、その間ナンパをされたりはしなかった。


(いや、別にいいけどね? ナンパしてくるような軽薄な男、こっちから願い下げだけどね? でもさ、でもさ、一人くらい誰かナンパしてくれてもよくない!?)


 そんな葛藤を抱えながら、心愛は夏美と恋叶を待っていた。すると、


「おー。めちゃくちゃ気合入ってるわね、心愛」


 心愛の目の前に、大人びた恰好をした綺麗系女子が現れた。


 浅羽夏美だ。


 白のオフショルダーに、デニムパンツを合わせたそのコーデは、これでもかってくらいスタイルの良さが強調されている。自分のスタイルの良さに自信がないと、中々挑戦できないコーデだ。それをいともたやすく着こなしているのだから、やはり夏美のプロポーションは抜群ということなのだろう。


 オフショルダーからチラリと見せている谷間には、女性の心愛ですらエロスを感じた。


「夏美ぃ‼ 裏切ったな‼」


「なんで最初の挨拶がそれなのよ。裏切ったってなに?」


「だって、夏美はショタにしか興味がないんじゃなかったの!? その服装、完全に男を落としにきてるよね!?」


「落としにきてないわよ。まあ、ショタは落としに来てるけど。ショタなんて谷間見せとけばイチコロでしょ?」


「一応、今から行くのは中高生限定の相席カフェだから、マジなショタはいないはずなんだけど……」


「子連れがいるかもしれないじゃない‼」


「学生なのに子連れ!?」


 服装はいつもより大人びている夏美だけど、中身は相変わらずただのショタコンだった。


「それより心愛も、いつも遊びに行く時より気合入ってるじゃない。髪型もアレンジしちゃって」


「わたし、今日は白馬の王子様にお持ち帰りされる予定なので」


「あんた……まさかとは思うけど……下着は……?」


「もちろん紐パンだよ! 今日こそ紐パンの真価を発揮するとき‼」


「それでいいのか、紐パン少女……」


「紐パン少女言うなぁ!」


「ああ、ごめんごめん。今は紐パンSM女王だったわね」


「その呼び方はもっとダメだからね!? カフェでそんな呼び方絶対にしないでよ!?」


「流石にしないわよ……」


 そして、それから数分。


 集合時間丁度くらいに、もう一人の少女が姿を見せた。


「やっほー! 早いね、二人とも!」


 今回の企画提案者、冬野恋叶だ。


 彼女も彼女で、かなりオシャレな出で立ちだった。


 丈の短い水色のトップスに、黒のパンツを合わせている。トップスは丈が短いため、おへそがチラリと見えていて色気がある。


 さらに、首元にネックレスをしているのもオシャレポイントだ。


 他にも、学校では爪に薄くネイルを塗っていたが、今日は校則を気にしなくていいためか、ばっちり水色のネイルが塗られていた。恐らく、トップスの色に合わせて、水色にしたのだろう。


 全体的に恋叶からはモテる女子オーラが溢れ出ており、オシャレ慣れしている印象が際立っていた。


 高校デビューのために即興で準備した心愛のなんちゃってオシャレコーデとは全く違う、本物のオシャレコーデだった。


 恋叶の服装を見て、心愛は圧倒的敗北感を味わっていた。


「オシャレ陽キャ女子だぁ……。怖いよぉ……」


 心愛は夏美の背後に隠れ、ぶるぶると小動物のように震えていた。


「また心愛が陰キャ発動してる……」


「わたし、やっぱり帰ろうかな……。どうせカフェなんて行ったって、わたしだけ楽しく会話出来ずにお持ち帰りしてもらえないオチが見えてるし……。気合入れて紐パン穿いてきたのがバカみたい……」


「こらこら、ここまで来たんだから、今さら帰るなんて言うんじゃないわよ」


 宥めるように、夏美が言う。


「でもわたし、絶対この中で一番モテないし……」


「なんで行く前からそんなネガティブなのよあんたは……。そもそも、相席カフェのコンセプトは楽しくお話することなんだから、お持ち帰りされないのが当たり前くらいに思っておいた方がいいわよ」


「そんなこと言って、どうせ夏美もヤリチン男子に持ち帰られるくせにぃ!」


「いや私持ち帰られる気ないから。中学生男子も高校生男子も興味ないし。ショタは丁重に持ち帰るけど」


「絶対!? 嘘だったら一生恨むよ!?」


「嘘じゃないわよ。だから安心しなさい」


「そうだよ、安心しなよ心愛っち! 心愛っちもバリオシャレじゃん!」


 と、恋叶が二人の会話に割って入り、心愛を元気づけるように言った。


「そうかな? わたし、ちゃんとオシャレ出来てる……?」


 もじもじしながら、心愛が訊ねる。


「うん! 心愛っち、超オシャレだよ! 男子にモテモテ間違いなしって感じ!」


 まずは心愛に自信をつけてもらおうという算段なのか、恋叶は彼女を褒めまくる。すると、案の定心愛は調子に乗って、


「えへへ。そっかぁ。今日のわたし、モテモテかぁ……。白馬の王子様、わたしに惚れちゃうかな?」


「絶対惚れる! 白馬の王子様は心愛っちに夢中だよ!」


「えへ。えへへ。もう、早く相席カフェ行こうよ、恋叶ちゃん! わたし、楽しみで仕方ないよ‼」


「こいつチョロ過ぎね、マジで」


 呆れてそう呟いたのは夏美だ。


「まあまあ、まずは自分に自信を持つことが大切じゃん?」


「それにしたって、恋叶にちょっと褒められただけでこれじゃあ……先が思いやられるわね……」


「その時は、アタシ達が心愛っちを守ってあげればいいだけじゃん?」


「なんで私たちが心愛のナイトにならないといけないのよ……」


 夏美と恋叶が話している横で、心愛はうきうきと身体を揺らしている。そんなお気楽な様子の心愛を見て、夏美は深い深いため息を吐く。


 もはや、夏美は自分が保護者になった気分だった。

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