第11話 最悪な出会いPart.2

 恋叶の案内で、心愛たちは中高生限定の相席カフェまでやってきた。


 先頭に立つ恋叶はお店の前で立ち止まると、心愛たちの方を振り返る。


「ここが目的地だよ」


 目の前のお店を指差しながら、彼女は言った。


「ここがそうなんだね! じゃあ、早く入ろうよ‼」


 うっきうきな心愛が、待ちきれないといった様子で恋叶を急かす。が、


「ちょっと待って。お店に入る前に、やっておかなきゃいけないことがあるの」


 お店に入ろうとする心愛に、恋叶が待ったをかけた。


「やっておかなきゃいけないこと?」


 心愛は首を傾げる。


「そう。ここから先は戦場だよ。お店の中では、男と女の様々な思惑が飛び交い、バトルマンガもびっくりな心理戦が日夜繰り広げられている……。そんな場所に、相席カフェ初心者のアタシ達が無策で飛び込むのはあまりに無謀! そんなのは自ら死にに行くと同義‼」


 何やら熱量高く、恋叶が語り始めた。


「――だからこそ、アタシ達はこの戦場に飛び込む前に、三人で作戦を立てておく必要があると思うの!」


「さ、作戦……! たしかに大事かも……!」


 真剣な表情で、心愛は恋叶の言葉に同意した。


「なんでもいいけど、なるべく面倒じゃないのにしなさいよー」


 一方、夏美は心底どうでも良さげに二人を見ていた。


「夏美も真剣に考えてよ‼」


 そんな彼女を責めるように、心愛が詰め寄る。


「私はあんた達の作戦に合わせるわよ。なんでもいいから早くしてよ」


「わかった。じゃあ、とりあえずショタがいたらわたしがその子を貰うね」


「ちょっと待ちなさい、それはおかしいでしょ!? ショタは私のもんでしょ!?」


「なんでもいいって言ったのに……」


「わかったわよ私も真剣に考えればいいんでしょ!?」


 心愛がいつものパターンで夏美を言いくるめ、彼女にも真剣に作戦を考えてもらえるように仕向ける。


「流石は心愛っち。ナツミンを説得する時はそうすればいいのかー」


 その横で、恋叶が感心していた。


「くっ……。これじゃまるで、私がとりあえずショタをネタに脅しとけばなんでも言うこと聞くチョロい女みたいじゃない……!」


「「その認識で何も間違ってないと思うけど……」」


 二人が夏美にジト目を向けていた。


「とにかく……お店に入る前に作戦を立てる必要があると思うの!」


 話を戻すように、恋叶が同じ言葉を繰り返す。


「作戦って、具体的にどういうこと?」


「例えば、好みの男がいた場合の意思疎通の取り方! これを予め考えておく必要があると思う!」


「そうなの?」


「誰がどの人を狙っているのか、それをアタシ達の間で共有出来ていれば、三人で連携を取りやすくなるでしょ? だから、これは重要なことなの!」


 言いながら、恋叶は人差し指をピンと立てる。


「要は、アタシ達だけに伝わるような合図を決めておこうって話! 好みの男を取り合う、みたいな展開を防ぐためにもね!」


 そして、恋叶は心愛と夏美を交互に指差した。


「合図は出来るだけシンプルな方がいいと思うの! だから、アタシが今やったみたいに、好みの男がいた場合、その人を指差すっていうのを合図にしない? もちろん、相手側にはバレないように! テーブルの下で指差しすれば、対面席にいる相手にはバレないはずだから!」


 指差しすることで、お互いの好みの相手を伝え合おうと恋叶は提案する。


「合図の仕方はそれで構わないけれど、もしも好みの男がいなかった場合はどうするの? 必ずしも好みの相手がいるとは限らないわよね?」


 そう問うたのは夏美だ。


「その場合は、自分に指差して合図するの! 自分に指差ししてる場合は、好みの相手がいないってことで!」


「了解。私は十中八九、自分に指を差す展開になりそうね……」


 ショタにしか興味のない夏美が、自分自身のことをそう分析した。彼女にとって、今日の相席カフェは友達付き合いでしかないのだ。


「はい! じゃあ、わたしからも質問!」


 心愛がすっと右手を挙げて、恋叶に対して質問する。


「もしも好みの相手が被った場合は、どうするの?」


 その場合、二人、もしくは全員で一人の相手を取り合うという展開になりかねない。


「そこは平和的にいこう! 好みの相手が被ってしまった場合、二人で一人を取り合うんじゃなくて、二人ともが、その人と仲良くなれるように連携するの! 独り占めはなし! その場合の目標は、二人ともが、その好みの相手と連絡先を交換できるように頑張ろっ!」


 取り合うのではなく、どちらも損しない展開に持って行く。それが恋叶の提案だった。


「わかった! わたしも女子同士でギスギスするのは嫌だし、それでいいよ!」


「ちなみに、好みの相手が誰も被らなかった場合は、お互いがお互いの好みの相手と上手くいくように連携、協力するってことで!」


 恋叶が望むのは、とにかくお互いがちゃんと協力するということ。裏切ったり、取りあったりといった展開は彼女の望むところではなかった。


「三人とも好みの相手がいなかった場合は?」


 その可能性も考慮すべきだと、夏美が言った。


「その場合は仕方ないね。今日は縁がなかったってことで、また次の機会に期待しよう!」


「次があるかもしれないのね……」


 夏美は深くため息をついた。


「作戦はこんなものかな! くれぐれも合図は忘れずに! それじゃ、さっそく入店しよう!」


「はーい!」


 そうして、恋叶を先頭にして、心愛たちは相席カフェに入店する。


 お店に入ると、まずは店員から学生証の提示を求められた。中高生限定のカフェなのに、中学生や高校生以外の人に入店されるのを防ぐためだろう。


 それから、心愛たちが初めての入店であることを伝えると、このカフェは会員登録が必須であることを伝えられた。


 会員登録自体は男女共に無料で出来るらしいので、心愛たちはさっそく新規会員登録の手続きを行う。


 この会員登録を経ることで、年齢詐称などによるトラブルを未然に防いでいるようだ。会員でいられる期限は高校卒業までで、高校を卒業すると、自動的に会員から除外されるシステムになっているらしい。そして、一度会員から除外されると、二度と会員にはなれず、お店にも入れないという徹底ぶり。


 とにかく、ここは中高生限定のお店であるという点に、深くこだわりがあるようだった。


 意外にもお店のシステムがちゃんとしていたことに、心愛は安堵した。正直、中高生限定とは言いつつも、普通に学生以外のお客さんがいたりするのではないかという不安があったため、その点が解消されたのは大きい。


 相席する相手が確実に自分たちと同年代であるというだけで、少しだけ気が楽になる。


 諸々の手続きを済ませると、さっそく店員からの案内がある。


「それでは、さっそくお席にご案内いたします。既に三人組の男性がお待ちですので、そちらの席にご案内します」


 どうやら、心愛たちと同じ三人組の男性が、既に来店しているようだ。


 いよいよか……と、心愛の身体に緊張が走る。


「それと、会員登録の際にも説明しましたが、お店のシステム上、相席が始まってから三十分間はお相手のチェンジが出来ませんので、そこはご了承ください」


 つまり、仮に好みの相手が一人もいなくとも、三十分はその人達とお話しなければならないということだ。まあ、そこに関してはある程度仕方ないと受け入れている。


「では、ご案内します」


 そうして、店員による案内で、心愛たちはとある個室の前に案内された。


 ――そう。個室、なのだ。


 普通、カフェで個室に案内されることなど滅多にない。しかし、この相席カフェは初対面の異性とお話するというコンセプト上、周りの声や視線を気にせず、ゆっくりお話できるよう配慮されており、全席個室となっている。


 席へ案内されると、店員は去って行き、心愛たちだけが個室前に残される。


「それじゃ、行くよ二人とも」


 恋叶のその掛け声に、心愛と夏美は頷く。


 そして、三人で一緒に個室の中へと足を踏み入れると、そこには――。




 ――紐パン泥棒たち(春樹、征太、秋人)が、いた。




「…………………………は?」


 その三人組を見た瞬間、心愛の顔が思いっ切り引き攣る。


「は………………?」


 しかし、それは男性側も同じだったようで……。相手の男たちも、心愛と同じく顔が思いっ切り引き攣っていた。


「ちぇ、チェンジで……」


「どうしたの心愛っち!? まだお互いの顔見ただけなんだけど!?」


 恐らく彼らのことをあまり知らない恋叶だけが、心愛のその反応にツッコんでいた。


「あの、チェンジでお願いします……。ここにわたしの白馬の王子様はいない……」


「諦めなさい、心愛。店員さんが言ってたでしょ。三十分はチェンジ出来ないのよ」


「うわぁああああああああああああん‼」


 心愛が顔を覆って、この惨状に涙していた。


「と、とりあえず、席に着こうよ。ね?」


 恋叶がそう提案したので、女子三人は渋々ながら席に着くことになった。

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