第6話 幼馴染登場
「というわけで、僕は見事春風さんに跨ってもらうことに成功したわけだ。まあ、僕が椅子を隠した場所を教えて欲しければ、一度僕に跨ってくれという条件を出したわけだからね。春風さんとしては、僕に跨る以外に方法は無かったわけだ。いやぁ、朝早くに学校に来て、椅子を隠した甲斐があったよ。要は、僕の作戦勝ちだね」
「どうでもいいが、なんでお前は当然のようにオレ達と行動を共にしているんだ? お前と友達になった覚えはねえぞ、馬場」
一限後の休み時間。
春樹と征太が雑談しているところに、突然秋人がやってきて、朝の異常な光景についての説明をし始めた。聞いてもないのに。
朝。朝礼前の話だ。春樹が教室に入ってきた時、何故か秋人が四つん這いになっており、その上を非常に不服そうに、かつ恥ずかしそうな顔をしながら心愛が座っているという異常な光景が広がっていた。
どうしてそんな状況になっているのか疑問には思ったものの、これ以上彼らと関わりを持ちたくなかったので、春樹は無視をした。
だというのに、一限終了後、秋人の方から春樹と征太の元に近づいてきて、事の経緯を嬉々として語り始めた。
「っていうかそれって、下手したら先生とか警察とかに訴えられても文句言えない案件だよね? 紐パンSM女王さんが優しい人で良かったね……」
そう語ったのは征太だ。彼の言う通り、椅子を隠すといった行為は見方によってはいじめと捉えられかねない行為であり、人によっては教師や警察に訴えられても文句は言えないだろう。良い子は絶対に真似しないように。
「春風の野郎が優しいのか、それとも、アイツも意外と楽しんでやっているのか……。意外に後者だったりして――って、いってぇ!?」
春樹が考察を述べていると、突然どこかから消しゴムが飛んできて、彼の頭に命中した。消しゴムを拾い、それが飛んできた方を見やると、鬼の形相をした心愛がこちらを睨んでいた。
「楽しんでるわけないでしょ‼」
「なんでオレたちの会話聞いてんだよ怖いよ!」
春樹たちの席と心愛の席はそこそこ離れており、普通ならば会話が聞こえるような位置関係ではない。だというのに、会話が聞かれていたことに春樹は驚いた。
しかも、投げた消しゴムを春樹の頭に的確に当てるそのコントロール。恐るべし、春風心愛……。
春樹はシュッと消しゴムを心愛の方に投げるが、それは明後日の方向に飛んでいく。
「下手くそ‼」
「うるせえお前のコントロールが異常なんだよ‼」
と、その後何事もなかったかのように春樹たちは会話を再開する。
「紐パン泥棒に、ドM変態男……。ボクの友達変なヤツしかいないな」
征太が嘆くようにそう呟いた。
「お前も充分変だぞ性欲魔人」
「誰が性欲魔人だ! ボクは今や、夏美さんのおっぱい以外には興味がない超健全な男子高校生だぞ‼」
「おかしいよ。やっぱこいつもおかしいよ……」
自分の周りに変なヤツしかいないことに気付き、落胆する春樹。
「それよりも、僕はまだ語り足りないぞ! 今朝の、春風さんのあの柔らかなお尻の感触……! 是非、君たちにその感触の良さを語らせてほしい‼」
今朝のことをどうしても語りたいのか、秋人が興奮ぎみにそう言ってくる。
「興味ねえ……」
「それ、夏美さんのおっぱいより良い感触だったって言いきれる?」
興味がないと切り捨てた春樹に反して、征太は秋人と張り合うように夏美のおっぱいを引き合いに出す。
「僕はその夏美さんとやらのおっぱいを揉んだことがないので、それより良いかどうかは比べられないが……気になるなら、征太も彼女に跨ってもらえばいい。そうすれば、彼女のお尻の良さが君にもわかってもらえるだろう」
「いや、ボク夏美さんのおっぱいにしか興味ないので」
「ツッコミどころそこじゃねえだろ。なんでツッコミ役がオレしかいねえんだよ」
春樹は嘆息しながら、秋人の方を見る。
やはり、改めて見ても、秋人の顔は非常に整っており、イケメンそのものだった。
「馬場、お前顔はイケメンなんだから、黙ってればモテるだろ……。喋んない方がいいぞ、お前」
「それは無理な相談だな。僕には春風さんのお尻の良さを皆に伝えるという大事な使命がある」
「ねえよそんな使命。とっととやめちまえ」
「――そうだよ! シュウトは黙ってればイケメンなんだから、そのドM趣味は捨てるべきなんだよ‼」
「へ?」
突然後ろから女性の声が聞こえてきて、春樹はそちらに振り返る。
するとそこには、なんと物凄い美少女がいた。
赤髪をポニーテールで纏めた彼女の、ぱっちりと開いたエメラルドのような翠眼がこちらを見つめている。
モデルのようにスタイルが良く、短く折られたスカートからは弾力のありそうな白い肌がすらりと伸びている。
「なんだ、みのり。僕は今、彼らと大事な話をしているんだが」
「大事な話ぃ? またバカな話してるだけだよね? 中学の頃はそのドM趣味のせいで友達いなかったのに、懲りないねホント! また友達出来なくなるよ?」
みのりと呼ばれたその少女は、秋人を咎めるようにむくっと頬を膨れさせた。
突然の美少女の乱入に、春樹と征太は困惑していた。
「あの……どちら様で?」
春樹が問うと、その少女は慌てたようにこちらに向き直った。
「あ、自己紹介もせずに会話に混ざってごめんね! ワタシの名前は
ニコッと天使のように微笑むみのり。その笑顔に、春樹は少しだけときめいた。
「オレは成瀬春樹。よろしく」
「ボクは夏峰征太」
「うん、よろしくね! シュウトってばドMの変態だけど、出来れば仲良くしてあげてほしいな。シュウト、友達少ないからさ」
「余計なお世話だ。僕は別に友達が欲しいわけじゃない」
「強がっちゃって……。ホントは同志が欲しくて、成瀬くんに勇気出して話しかけたってこと、ワタシ知ってるんだから! 入学初日から紐パン泥棒なんていう呼び名がついた成瀬くんに親近感を抱いて、話しかけるタイミング窺ってたんでしょ?」
「勝手な憶測で僕を友達欲しいキャラに仕立て上げるな。そんなこと一言も言ってないだろう」
「言われなくてもわかるもん! 何年の付き合いだと思ってんの!」
「あー全く、これだから幼馴染というのは面倒臭い」
心底面倒そうに、秋人はみのりを突っぱねる。
二人の間から醸し出る熟年夫婦感に、春樹と征太はかつてない敗北感を味わっていた。
「マジでこいつら幼馴染なのかよ……」
幼馴染の美少女とかいうラブコメでしか見ないような属性に、春樹は激しく嫉妬していた。控えめに言って、かなり羨ましい!
「それで、急に会話に入ってきて何の用だ」
用件があるなら早く言えと、秋人が急かす。
「よ、用ってほどのものじゃないけど……。まあ、用と言えば用かな……」
「なんだ、早く言え。休み時間が終わってしまうだろう」
「わ、わかったよ。その……」
途端にみのりはもじもじとしだし、両手の人差し指をつんつんしながら、頬を赤く染める。
「どうした、早く言え」
「わ、わかってるよ!
なんだかとても言いにくそうに、みのりはチラチラと秋人に視線を送っている。
そんなみのりの姿を見て、春樹は思う。
(な、なんなんだこの告白前みたいな雰囲気は……。まさか、秋月さんはこのドM変態男に惚れているとでもいうのか……? いや、そんなことはあってはならない! 可愛い幼馴染に好かれるなんてラブコメみたいな展開、このオレが許さねえ‼ オレはまだラブコメ的展開に出くわしてないのに、ずるい‼)
しかし、この状況で口を挟むわけにもいかず、春樹は黙って状況を見守るしかなかった。
「あ、あのね……シュウト」
「なんだ?」
やがて意を決したように、みのりは顔を真っ赤にさせながら叫んだ。
「今日、シュウトのためにお弁当作ってきたから、二人で一緒に食べない!?」
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