第2話? ■■の××について<Ⅱ>


 ――――失礼! 話を戻そう。

 

 うちのお偉いさんがた、洋墨と紙の無駄遣いにはうるさいんだ。

 

 報告書を日記代わりにするなと言うのなら、最初から書式を用意してくればいいのに。

 

 そのほうがよっぽど効率的で合理的だと思わないか?

 

 ……まあ、これはあとで直接抗議してくるとして。


 ええと、主題は……『■■を見かけたら、耳を塞げ』という言い伝えの過程だったな。うん、そうだ。


(『発声』という単語の上には打ち消し線が引かれ、その横に『』と崩れ気味の字で綴られている)

 

 確か『美しい声を持つこと』を■■のいちばんの特徴として挙げたところか。


 一応、聞いておくが、僕がそうした理由がわかるか?

 

 僕たちが■■と接触する際には、が最大の脅威になりうると考えているからだ。


 『美しい声を聴くと、気もそぞろになってしまうせいですか?』って?


 はははっ! そんなもので済めば、まだかわいいほうだ。

 

 …………本当に、僕たちを魅了する程度であったなら、共生の道もあっただろうにな。


 ああ、そう深刻に受け取ることはない。悲観論者の戯言だ。


 ただ、いまぼやいたのにも訳がある。


 これは、この何年かのあいだに発覚したことなんだが――――■■の××には、強いがあるらしい。

 

 どういう状態か、軽く説明を挟んでおいたほうがいいか?


 ……そうだな。僕たちのいう催眠作用が、君の見知ったものと異なっている可能性も低くないし、無益な行き違いを起こさないためにも、定義付けは必要な作業のひとつだ。


 というわけで、催眠作用について、少し。


 ここでいう『催眠作用』というのは、対象を眠らせるだけの無害なものではない。


 結果として眠気を催すことはあるだろうし、強制的に引き起こされる眠気も、厄介といえば厄介だ。

 

 しかし、本当に恐ろしいのは、そこではない。


 ――――そんな生易しいものではないんだ。彼らの××は。


 君は、醜いものを見て、不快になったことはないか?


 ……あるだろう。誰にだって。


 その性根こそが醜いのだと承知していても、特殊な嗜好の持ち主でもなければ、醜いものは忌避するように刷り込まれているはずだ。


 ――――正直な回答、感謝する。


 では、その逆はどうだ?


 美しいものに遇って、甘美な恍惚を享受した経験は?


 ……こちらについても、一度や二度ならずあるはずだ。


 なんせ、僕たちは美しいものにどうしようもなく惹かれ、それらを狂おしいほど愛してしまうように作られている。


 ――――抗いがたい、本能として。


 次の項では、具体例もまじえて、話を進めていこうじゃあないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る