第4章 夕べの調べ

■■に関する報告

第1話? ■■の××について<Ⅰ>


 『■■を見かけたら、耳を塞げ』――――というのは、この地域に残っている言い伝えのひとつだ。


 『上半身はヒトと見分けがつかないが、魚類に呑まれてしまったかのような下半身を持つ生きもの』――――。


 そんなふうに説明すれば、大抵の人間は■■のことを言っているのだと承知してくれるはずだ。

 

 ■■と呼ばれる彼らは、幻想的な容貌に見合った、美しい声を持っているらしい。

 

 寡黙な人間のほうが美しい声であり続けることが多いように、彼らは●のなかでは基本的に声帯を使ってはいないのだろう。


 ――――では、彼らは平素、どのようにして意思の疎通を図っているのか?


 答えを導く鍵は多々あれど、いまの僕にすべてを語るための時間はない。

 

 あえて主語を大きくしておくが、研究者というものは、時間があればあるだけ、すべてを研究に注ぎ込んでしまうものだ。

 

 空きができたとて即座にそれを埋めてしまう、そういう生きものだ。

 

 よって、大部分は割愛させていただこう。

 

 君が再び僕の研究書を開いてくれる保証もないが、次回があればまた次回、お会いしたいものだ。


 『まだ本題を話してもいないうちから、お別れのような雰囲気を醸し出すな』?


 あはは、それは失礼。


 そういえば、似たようなことを四人連続で言われた。いや、五人だったか……。十人だったかもしれない。


 それがきっかけになったかどうかは確かめようもないが、みんな僕の元を去っていった。


 もちろんみんな美しい女性だったよ。僕にはもったいないくらいにね。


 『種族は?』だって?


 …………さあね。


 一人くらいは■■だったかもしれないし、全員がだったかもしれないが、あいにくと僕は、相手の種族で付き合うかどうか、愛するか否かを決定しているわけではない。


 満点の回答ができず、申し訳ないが、君ももう少し多方面を慮った質問ができるよう、努力が必要だと思われる。


 ……ああ、そうそう。


 ここで二点、追加事項を書き込むとしたら――――。


 『逃した魚は大きかった』。


 『釣った魚にも、適度に餌はやったほうがいい』。


 そんなところだろう。

 

 …………いや、なに。ものの喩えだよ、君。



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『第3章 第16話? 全▲▲■■化計画・概要書』https://kakuyomu.jp/works/16818023212349346950/episodes/16818093075214960209(※伏せ字は上記と対応しております。)

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