第2話話の合う仲。付き合わない選択肢のほうが割合は低い

幼馴染三人で揃って焼肉屋へと向かうと席に案内される。

個室の部屋を予約していた愛海はメニューを開いて全員が見えるようにテーブルの上に広げた。

「景子はお酒飲めるの?」

「えぇ。嗜む程度ですが…」

明らかに昔とは口調が変わっている景子を見て僕らは苦笑のような複雑な表情を浮かべざるを得なかった。

「違う!十年もお嬢様していたから…口調が直らない!」

景子はウザったそうに頭を振ると表情を崩した。

「別にいいじゃないか。大人の女性って感じがするぞ」

慰めの言葉でもなく景子に言って聞かせるが彼女は嫌な顔をして首を振った。

「嫌なのよ!あの堅苦しい日々を思い出すから!」

「そんな壮絶な日々だったのか?」

「まぁね。貴族令嬢だもの。色々と厳しくしつけられたわ」

「そっかぁ〜。大変だったんだな」

僕と愛海の視線は交わると話を合わせることを決めた。

「どんな生活だったんだ?」

「聞いてくれるの!?あのね…!」

そこから景子は異世界での出来事を詳しく話していた。

愛海は店員を呼ぶと勝手に注文を進めているようだった。

「それでその時にね!他国の王子に求婚されたの!」

「へぇ〜。向こうでもモテたんだな」

「それはもちろん!黒い髪の女性は私しかいなかったの!だから宝物のように扱われたわ」

「そうなのか。それじゃあ大変な思いもしたんじゃないか?」

「もちろんよ。私のことを独占しようとした国が人攫いを雇ったり…色々とあったわよ」

「それをどうやって切り抜けてきたんだ?」

「もちろん私は貴重な人材だったから。お付きの騎士が凄腕揃いだったのよ。攫われてもすぐに助けてくれたわ」

「凄腕なのに攫われるのか?」

「それは相手も一筋縄じゃ無かったから。人攫いのプロと言っても過言じゃない犯罪集団で。バレないように攫うのが得意だったのよ」

「ふぅ〜ん。そういう魔法でも使えたってことか?」

「まさに。隠密系のスキルに全振りしていてね。騎士との相性は悪かったわ。純粋に武力のある騎士では攫われてしまうのも仕方がない話だったの」

「そっかそっか。それなのに最後は救ってもらえたんだろ?どうやって?」

「うん。攫った後に送り届ける場所やルートを掴んでいたから。そこに騎士達が先回りして撃退するって戦法だったみたいよ」

「なるほど。初めから隠密スキルが高いメンバーを護衛に揃えておけばよかったのにな」

「私もそう提案したわ。でもね。隠密スキルを手にするには犯罪行為をしないといけないって縛りがあるの。故に貴族令嬢の護衛に犯罪者をつけるわけにもいかないでしょ?」

「あぁ〜。何か縛りとかあるんだな。本格的だ」

「本格的なのよ。だって物語の中じゃなくて…ちゃんとした実体験を話しているんだから」

それに頷いていると生ジョッキが三つとお肉が数種類運ばれてくる。

「とりあえず乾杯しましょう。景子も元気そうで何より。また再会できて嬉しいわ。乾杯」

愛海の合図で僕らは乾杯をすると食事をしながら小学生の頃の話で盛り上がるのであった。



「二人は?付き合っているの?」

食事を終えて会計を済ませた僕らは店の外に出る。

「え?なんで?」

景子の質問に僕は質問で返す。

「だって。ずっと一緒だったんでしょ?付き合うことになっても変じゃないでしょ?」

「景子。私達は何処まで行っても幼馴染だから。この関係だけは崩れない。でもだからこそ慎重に進まないといけないのよ。これまで二人一緒に過ごしてきたけど…私達の中に恋愛感情があるかどうかは…簡単には答えられないのよ」

愛海は景子に諭すような言葉を口にして微笑んだ。

「そういうものなの?私は普通に勝と付き合いたいけど?話も合うし一緒に居て楽しいし和むし。付き合わない選択肢の方が割合的には低いよ」

景子は僕に告白のようなものをしてニッコリと微笑んだ。

「嬉しいけど。それも異世界仕込のテクニックか?」

しかし僕は冗談で返してしまう。

景子もわざとらしく表情を崩すと数回頷いた。

「まぁね〜でも冗談や嘘じゃないからね。それだけは覚えておいて。じゃあ私はこっちだから」

景子は僕らとは反対方面の電車に乗り込む。

二人きりになった僕と愛海の間には少しだけ気まずい雰囲気が流れいていた。

「愛海。ありがとうな」

「何が…」

「いや、大切に思ってくれていて」

「当然でしょ。この関係だけは絶対に崩したくないんだから」

「だよな。同意見だよ」

「でも…さっきは少しだけ焦ったかも」

「何が?」

「景子の爆弾発言に。私もあれぐらい思い切りのある人間だったらって思ったよ」

「愛海はそのままが良いんだろ」

「そうかな…」

「そうだろ」

そうして僕と愛海は同じ電車に乗って同じ帰路に就くのであった。


翌日より物語は進もうとしていた…。

それを今の時点の僕らが知る由もないのだが…。

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