ゴミスキルだと罵られパーティーを追放されたので勇者を殺しました

空木閨

第1話

「お前、犯人だろ」

 は…?


 長年旅を共にしてきたパーティーの仲間たちが、俺に不審者を見るような視線を向けてきていた。理不尽だ。


「おいおい、何言ってるんだ?俺たち仲間だろう?十五歳で故郷を旅立ってから七年間ずっと一緒に旅してきたじゃないか。なんで俺を疑うんだよ?」


 俺は情けなくぶるぶると震えていた。仲間だと思っていたのに。なぜこんなにもあからさまに疑われて犯人扱いされなくてはいけないのか。


「それを言うなら、なんで俺が大事な仲間を殺さなきゃいけないんだよ、と言う方が自然な釈明に聞こえるな。なぜお前は自分が疑われる事に怯えているんだ?」


 武闘派で兄貴分のモリオンはそう聞き返してきた。揚げ足をとるような物言いに腹が立ったものの、上手く言い返す言葉が思いつかなかった。俺はこいつに口喧嘩で勝てたことがない……腕力で勝ったこともないけど。


「というかユウリはここまで一緒に旅してきた大切な仲間ではあるけれど、厳密にはパーティーメンバーではないというか、ついこの間クビになったというか……」


 おっとりとしたお姉さんキャラのルルゥにもそう言われてしまった。彼女はいつもオブラートに包んだような遠回しな言い方をする。つまり彼女は俺には殺人の動機があるかもしれないと言いたいのだろう。


「いや正直あれは引いたわー。いきなりクビにされてユウリまじでかわいそうだったんもんね。こんな辺境まで旅してきて、一人でどうやって帰れっつーの」

 

 ムードメーカーのオルカはそう言った。彼女は割合俺の味方でいてくれるが、以前告白したらフラれたのでまともに目を見て話せなくなってしまった。


「それは仕方ないだろう。ユウリの授かったユニークスキルがあれじゃあ、この先の戦いにはついてこれない。ユウリのためにも置いていくのがいいんだ。それにどんなスキルを授かるかは完全にランダム。ゴミスキル……おっと、ごめんな。戦闘向きでないスキルだったらパーティーを抜けるのは村を出る時の約束だったろう?」


 モリオンの言い分は全くもって正しかったので、誰も何を言い返せず、俺は無言で泣きじゃくっていた。村を出て七年、ひたすら北を目指して歩き続けた。そうしてやっと辿り着いた天啓の塔で、俺はゴミスキルを授かってしまったのだ……。


 まさかここまでやってきて何の役にも立たないスキルを授かるとは思わなかった。別にこれまでの道中で足手まといだった訳ではないんだ。確かに五人パーティーで器用貧乏な盗賊ポジで勇者とは若干役割が被っていたけれど、無能ではなかったんだ。


 でもそれは誰にもどうすることもできない神のいたずらだ。旅に出て、何年もかけて歩き続けて、そうして辿り着いた天啓の塔で授かるスキルによってすべてが決まったしまうのだ。勇者の剣が勇者にしか引き抜けないように。そういう仕組みなんだ。


 だから俺も、凄くショックで、どうかしちゃってたんだと思う……。


「……まあ、だからな、言い難いんだが動機があるとしたらユウリなんだ」


「でもさあ殺されたのってボック……つまり勇者様だよ?個人的な感情は抜きにしても、明日から世界どうすんの?これって犯人にとっても自殺行為だよ?」


 一同はベッドの上で息を引き取っている勇者の骸に目を向けた。返事がない。ただの屍のようだ。


「だから……犯人は半ば自暴自棄になっていたんだと思う。可哀そうにな。まともな判断能力がなかったのかもしれない。そういう意味でも……ユウリっぽいなと思う」


 モリオンは大きな瞳に溢れんばかりの憐れみをたたえて俺をじっと見つめていた。なにか俺たちに落ち度があったら言ってくれとその目は告げていた。


 多分彼らは悪くない。悪いのは俺だ。そうだ、どうかしていたんだよ!頭がおかしくなっていたんだ……犯人は俺なんだ!


「で、これから私たちどうする?世界が滅ぶまで戦うかんじ?」


 一同は項垂れて、深くため息をついた。だが俺はその言葉を聞いて火が付いて、決心を固めた。そうだ、最後まで戦ってやる。殺してしまったものは仕方ない。勇者が死んだ以上、世界が滅ぶのは避けられないだろう。


 だったら最後までこいつらと一緒にいたい。それが俺の本音だった。パーティーをクビになった俺にとって、こいつらと対等に戦える数少ないチャンスが今だろう。今度は仲間ではなく、敵として。犯人として戦って、世界が滅ぶまで逃げ切ってやる!

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