靴と尻尾とイヤーマフ

「そんなことは分かっておった」

 ブブ爺はジョージの肩に手を乗せながらそう言った。

「道具の手入れは狩りの基本じゃ。ワシがアレの正体に気付かないままに使っていたとでも思うのか? ハンマーヘッドの重さや形を整える為に、ちゃんと観察して調整したわい。もちろん、調整ついでに味見もした」

 言ってすぐにブブ爺は豪快に笑う。

「ブブ爺……」

 ジョージの目には少しだけ涙が浮かんでいる。

「美味いな、あのハンマー。アザラシ狩りにも丁度良かったし、それに、全くアザラシが獲れずに吹雪の中で遭難したとしても、アレを齧れば生き延びられるという安心感もあった。今日は持ってきてないのか、イージーハンマー」

「AZハンマー、だ」

 ブブ爺とジョージは目を合わせ、一拍後に大きな笑い声を上げた。


 ―――


「それならこの変なカップも食べ物なのかい?」

「いや、それはここに来る途中に拾ったもので、オレが作ったモノじゃない」

「カイよ、ジョージにはソイツが宇宙人の靴に見えるらしいぞ」

「えー!これをどう見たら靴に見えるんだよ」

「だからな、犬と同じ足の構造をした宇宙人だったらこのカタチのものでも靴になるんじゃないかって」

「ハハハ!犬みたいな足の宇宙人!それならきっと尻尾もあるね!」

「あぁ、そうだな。犬みたいな足の骨格で二足歩行をしているなら、バランスを取るのに尻尾は必須だろうな」

「それならさ、それならさ。こんなのはどう? この変なカップは横に長く耳が突き出ている宇宙人のイヤーマフってのは」

「イヤーマフって、宇宙人が?ハハハ!庶民感がヒデェな!」

 カイとジョージの話はイグルーの中で果てしなく続く。時折挟まれるブブ爺の言葉はいつもカイとジョージを笑顔にさせる。いくらでも音を吸収する雪の世界の中で、彼らの笑い声はずっと生まれ続けている。

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