第24話 幸せに向かって

<sideレナルド>


「とりあえず、まだこの世界に来られたばかりですし、今だけミノルさまとヤヨイさまとお呼びすることにして、これからゆっくりとお話ししましょう」


私がそういうと、レンくんのご両親は納得してくれた。


「クリフ、すぐにお二人の部屋の準備を。陛下、お部屋はどちらになさいますか?」


「ああ、そうだな。では<あかつきの間>に」


「承知いたしました。それではミノルさま。ヤヨイさま。お部屋にご案内いたします」


ルーファスの言葉にすぐにクリフがレンくんのご両親に声をかける。


「あの、蓮は……?」


レンくんの母上が気にしているようだが、これからルーファスとレンくんには大事な儀式が待っている。

流石にこれ以上ルーファスを待たせると爆発しかねない。


「申し訳ありません。レンさまには今から陛下と共に行う大切な儀式が待っております。そちらが終わりましたら、またゆっくりとお会いできますので、お先にお部屋に行かれてこれからのお話をいたしましょう」


「そう、ですか。わかりました。じゃあ、蓮。母さんたち、行くわね」


「う、うん。じゃあ、あとでね」


レンくんは少し照れながら母上と父上に手を振り、クリフと共に部屋から出て行くのを見送っていた。

私は扉から離れた場所でルーファスとレンくんを見守っていたのだが……


「レン、よかったな。ご両親と会えて……」


「はい。まさかここで会えるなんて思っても見なかったから驚きました」


「レンを大切にするという誓いにも立ち会っていただけたし、これで心置きなくレンと愛し合うことができるな」


「ルーファスさんったら……」


「レン、もう我々は夫夫ふうふなのだぞ。私のことはルーファスと呼んでくれ」


「でも国王さまを呼び捨てになんて……」


「いいか? レンはこの国の王である私が全身全霊をかけて愛するつまなのだぞ。いわば、この国で一番偉いのも同然だ。レンがルーファスと呼んでくれないのなら、私もレンさんというぞ」


「えっ……それは、いや、です……」


「ならば、ルーファスと呼んでくれるな?」


「……はい。ル、ルーファス……」


「く――っ!!!」


「レン、すぐに儀式に入ろう」


「儀式って……」


「初夜の儀式だ。レンと心も身体も繋ぎ合うこの日をどれだけ待ち侘びたことか……」


「じゃあ……抱っこ、してください……」


「ぐ――っ!!!」


「………………」


私の存在など二人の頭からは疾うに消え去っているのだろう。

婚礼衣装を着たレンくんを軽々と抱き上げ、ルーファスは一目散に自室へと駆けていった。


砂糖にたっぷりと蜂蜜をかけたような甘ったるい会話を直に聞いてしまった。

私もオリビアとあれほど甘ったるい会話をしていただろうか?


いや、あそこまでではなかったはずだ。

急に身体がぐったりとして疲れ果ててしまった。


私は重い身体を引き摺りながら、応接室を出てルーファスたちの部屋へと向かった。

駆け出していったから追いつくわけもないが、とりあえず確認だけはしておくか。


部屋の前には騎士たちが二人見張りをしているのが見える。


「おい、陛下は中に入られたか?」


その質問に騎士たちは少し青褪めた様子で、


「は、はい。先ほどお入りになりました」


と報告した。


「何かあったのか?」


「い、いえ。それが……陛下のご伴侶さまのお美しさについ見惚れてしまいまして……それで……」


おそらくレンくんに邪な視線を一瞬でもむけてしまったのだろう。

それでルーファスに睨まれた……と。


はーーっ。

余計なことを。


出てきた時が恐ろしいな。


「お前たちは下がって反省部屋に入っていろ。代わりの見張りの騎士にケヴィンとルースを」


「はっ」


ああ……やはり最初からケヴィンとルースにすべきだったのだ。

運の悪いことに二人は今日早朝訓練日だったからな。

本当に間の悪い……。


<sideルーファス>


レナルドがなんとかレンの両親を納得させ、とりあえず部屋へと誘導してくれた。

本来なら、大切なレンの両親とゆっくりと話をしたいところではあるが、今は初夜が待っている。


初夜を滞りなく済ませて、私たちが心も身体も正式な夫夫となってから、ゆっくりとこれからのことを話しても遅くはないはずだ。


両親の部屋にと案内した<暁の間>は客間の中でも広く、そして我々の部屋から遠い。

我々の部屋の声は絶対に外に漏れ聞こえることはないが、すぐ近くに両親たちがいると思えばレンが少し恥ずかしく思うかもしれない。

そう思ったのだ。


だからこそ、両親の部屋は<暁の間>にしたのだが、きっとその意図はクリフも気づいていることだろう。

なんの異を唱えることなく連れていったのが何よりの証拠だ。


レンはこれから初夜の儀式だというと恥じらっていたが、拒む様子はない。

おそらくあの練習で快感を覚えたからだろう。


私のことをまだ敬称付きで呼ぶレンに夫夫になったのだから呼び捨てにして欲しいというと困っていた様子だったが、私も敬称付きで呼ぶぞというと嫌だと言ってくれた。


私が呼び捨てで呼ぶことを喜んでくれているということだな。

それはそれですごく嬉しいことだ。


レンから初めて、


「……はい。ル、ルーファス……」


と呼ばれた時は身体中の血が沸き上がるような興奮を覚えた。

あまりの嬉しさにすぐに初夜の儀式をしようと誘うと、


「じゃあ……抱っこ、してください……」


と恥じらいながら手を伸ばしてくる。


ああっ、もう!

レンは私を一体どうしたいのだろう!


私は何もかも忘れてレンを抱き上げ、急いで自室へと走った。


部屋の前で見張りをしている騎士が目に入り、


「部屋の扉を開けろ!」


と指示を出すと、騎士たちの視線がレンに向いたのがわかった。

レンの麗しい姿を見てほんのりと頬を染めたのも私は見逃さなかった。


私は部屋に入りながら、騎士たちに睨みを利かせた。

びくついているのがわかったが今はどうでもいい。


私にはこれから幸せな時間が待っているのだから……。



「レン……」


「ルーファス……」


部屋の中に入りレンを腕に抱いたまま、名前を呟くと、甘く蕩けるような声で私の名を呼んでくれた。

レンの訴えかけるような目に、スッと顔を近づけるとレンはほんのり頬を染めながらも嬉しそうに目を閉じた。


チュッと唇が重なる。

正式な夫夫になったからだろうか。


昨日のキスよりもずっと甘く感じる。


しかし、まだまだ夜は長い。

この幸せな時間をゆっくりと味わわないと。

抑えきれない興奮を必死に押し留めながら、ゆっくりと唇を離すと、レンも興奮しているのかさらに頬が上気している。


「レン……可愛いよ」


「んっ……服、脱がせて……」


「いいのか?」


「だって……こんな綺麗な衣装、汚したくない……」


「わかった」


レンをベッドから下ろし、一番上の赤い衣装を肩から外すと、するりと衣装が落ちた。

見慣れない青い衣装に身を包んだレンが現れる。


「おおっ」


清く澄んだ湖の色のような美しい青にレンの色白の肌が映える。


「ルーファス?」


「いや、レンがあまりにも美しくて感動していた」


「本当に?」


「ああ、もちろんだとも。レンの美しさは何度見ても感動するよ」


「あの……前、みたいに手で……しますか?」


「くっ――!! レン……嬉しいが、それは後の楽しみにして、今は早くレンの中に挿入らせてくれ」


「ルーファス……」


「いいか?」


レンは顔を真っ赤にして私に抱きつきながら、


「はやく、いれて……きもち、よくして……」


と囁いた。


「ああ、もう止まれないからな」


一気に婚礼衣装を脱がせてベッドに横たわらせ、私も一糸纏わぬ姿になる。

婚礼衣装を破いてしまいそうになったが、そこだけはなんとか冷静になれた。


レンがゴクリと息を呑む音が耳に入ってきた。

ああ、レンが興奮してくれている。


それがわかった私はもう止めることなどできなかった。

それからどれくらいの時間が経っただろう。


気づいた時にはレンは意識を失っていて、私は慌ててレンを風呂場へと運んだ。


その間にクリフに寝室を片付けてもらっていたが、風呂に入って肌がピンク色になったレンに欲情し、風呂場でもレンと数回愛し合った。


レンがもし女性だったなら、おそらく今日で子ができただろう。

それくらい私は愛を注ぎ込んだ。


だがレンと身も心もつながった今、改めて思う。

レンが子を作れない身体でよかった。

レンの愛を受けるのは私だけでいい。


なぁ、レンもそう思うだろう?


綺麗になった寝室で裸のレンを抱きしめながら、また愛を確かめ合った。



<sideクリフ>


レンさまを想い、この世界で生きられることを決断されたレンさまのお父上とお母上。

お二人がこちらにきてくださったおかげで、レンさまのお心にあった元の世界への憂いも失くなった。


元に帰る方法がまだ見つかっていないとはいえ、レンさまがこちらに来られた時のように、いつかまたここから消えてしまうのではないかという不安は消えたわけではなかった。

それはルーファスさまも密かに思われていたことだろう。

だが、これでルーファスさまは、いつかレンさまを失うかもしれないという恐怖に怯えることは無くなったのだ。


お二人の婚礼の儀当日に本当に素晴らしいことが起こったのだな。

これは後でゆっくりとエルヴィスさまとクレアさまにご報告しなければ!


そんな感動に震えつつ私はルーファスさまのご指示通り、ミノルさまとヤヨイさまを<暁の間>へとお連れした。


レナルドさまが


「お部屋はどちらになさいますか?」


とルーファスさまにお尋ねになった時から、きっと<暁の間>をお選びになることはわかっていた。


この部屋はこの城の客間の中でも特に広く豪華で、そして何よりルーファスさまとレンさまのお部屋から一番遠い場所にある。


本来ならば、すぐ近くにご両親がいらっしゃった方がレンさまも安心なさると思うが、なんせ今日はこれからお二人は初夜の儀式に入られる。


いや、もうすでにお入りになったはずだ。


すぐにベルを鳴らされることはないだろうが、何が起こってもいいように全ての準備を整えておかなければ。


その前にミノルさまとヤヨイさまにはしっかりとお話をしておくべきだろうな。



「こんなに広い部屋を私たちが? もっと小さな部屋で大丈夫ですよ」


「いいえ、このリスティア王国の王妃になられたレンさまの御両親でいらっしゃるのですからこれくらいのお部屋は必要でございます。それに陛下直々のお達しでございます。こちらのお部屋をお使いいただけると幸いでございます。ご入用のものがございましたらなんなりとお申し付けください」


「はい。ありがとうございます」


「何か御質問などございますか?」


「あ、あの……蓮とはいつ頃会えますか?」


「――っ!」


やはり、一番気になさるのはレンさまのことでございますね。

ですが……おそらくレンさまにお会いできるのは、3日後……いや、5日後でしょうか……。

もしかしたら1週間後ということも十分に有り得る。


初夜の儀式が無事に済んだとしても、ルーファスさまがすぐにレンさまを外にはお出しにならないだろう。


「結婚式の後は色々な儀式や行事が立て込んでおりまして、ゆっくりお話しいただけるのはおそらく来週になるかと存じます」


「えっ……そんなに?」


「申し訳ございません」


「そ、そんな。頭を上げてください。弥生、こちらにはこちらの常識があるのだ。受け入れるしかないだろう? それを覚悟の上でここまできたんだろう?」


「それはわかっているけど……蓮と久しぶりに会えたばかりですぐ離れちゃったから寂しくて……」


「大丈夫、寂しいなんて思う暇はないぞ。この国に骨を埋める覚悟で来たのだから我々もこの国について勉強しなければな。クリフさま。どうかこの国のことを我々に教えてください」


「ミノルさま……。このリスティア王国をそこまで思っていただき有り難く存じます。それではルーファスさまにその旨お伝えいたします。お食事は毎日朝は7時、お昼は12時、夜は19時にこちらのお部屋にお持ちいたします。こちらのお部屋はお好きにお使いくださいませ。何かございましたら、こちらのベルを鳴らしていただくと、この部屋の専属の係のものが参ります。一度鳴らしていただけますか?」


そういうと、ミノルさまは緊張した様子でベルをお持ちになった。

そして、小さくベルを鳴らすとすぐに部屋の扉が叩かれ、とても驚いている様子だった。


この部屋の専属となった、執事見習いであるジェフリーはレンさまと歳も近い。

きっとミノルさまとヤヨイさまにとっても気を遣わず良いだろう。


ジェフリーに後は任せ、私は急いでイシュメルさまが待機なさっている部屋へと急いだ。



「クリフ殿、何やら驚くことがあったようですね」


「もうご存知でいらっしゃるのですか?」


「いや、神に教えていただいたのですよ。レンさまのご両親がこの世界を選ばれたと……」


「はい。その通りでございます。今御二方は<暁の間>にいらっしゃいます」


「そうか。ならば、一度診察した方が良いでしょうね。きっと御二方もレンさまと同じく身体は小さくていらっしゃるのでしょう?」


確かにそうだ。

レンさまのご両親だけあって、ミノルさまもヤヨイさまも童顔で身長も低くていらっしゃる。

本当にあちらの世界ではそんな方がたくさんいらっしゃるのだろうか。


「はい。イシュメルさまに御診察いただいたら御安心なさいますよ」


「陛下とレンさまの初夜の儀式が無事にお済みになったらすぐに致しましょう。さぁ、クリフ殿。これからの長い時間に耐えるためにこちらのお薬をどうぞお飲みください」


「イシュメルさまがお作りくださったのですか?」


「3日になるか、5日になるか……時間との戦いですからね。必需品でしょう?」


「ありがとうございます」


イシュメルさまが特別に作ってくださったお薬のおかげで、初めてバッジが震えるまでの3日間。

余裕で待ち続けることができた。


そして、ルーファスさまとレンさまが無事に初夜を終え、寝室からお二人揃って出てこられたのは寝室に入られて8日目の朝だった。

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