第17話 二人だけの秘密
<side月坂蓮>
「この件はあとでイシュメルに聞いてみよう」
「えっ? 話すんですか?」
「ああ。レンの身体のことはしっかりと話しておかないとな」
確かにルーファスさんの言っていることは正しい。
今までずっと生涯の伴侶さんのことを見てきてくれている由緒正しいお医者さんの家系だと言っていたし、気になることは聞くべきなんだろうと思う。
お互いのそれだけを甘く感じるなんて不思議だもんね。
でも……それって、そういうことをしたって話すのと同じことだよね?
それはちょっと……恥ずかしくない?
うーん、だけど……身体のためにはお医者さんに隠し事はしちゃいけないか……。
僕の主治医だって言ってたし……仕方ないことだよね……。
うん、頑張るしかないか。
「あ、あの……イシュメルさん以外には、話さないでくださいね。クリフさんとか……レナルドさん、とか……」
「んっ? もちろん、レンが嫌がるなら話はしないが……レナルドたちが何か気になるか?」
「いや、そういうんじゃなくて……あの、イシュメルさんはお医者さんだから仕方ないですけど……できたら、ルーファスさんと二人だけの秘密がいいなって思って……」
「――っ、二人だけの、秘密……そうか。レンがそういうならそうしよう」
「わぁ、ほんとですかっ! 嬉しいっ!!」
ルーファスさんが賛同してくれたのが嬉しくて、僕は椅子から下りて、ルーファスさんの真正面から抱きついた。
「話をしにいく前に、解す方に取り掛かろう」
「は、はい……」
そのまま抱きかかえられてお風呂場に連れて行かれる。
お互いに反対側を向いて服を脱ぎ、僕は置いてあった大きなバスタオルに包まれて、ルーファスさんもまた腰にタオルを巻いて、お互いの裸は見えない状態だ。
浴室に入り、抱きかかえられたままルーファスさんが洗い場に置いている椅子に座った。
「あの……どういう体勢で、するんですか?」
「そうだな……レンが辛くない体勢がいいだろう。緊張すると解れにくいだろうしな」
辛くない体勢……は、よくわからないな……。
でも、顔は見られないほうが恥ずかしくなくていいかも……。
「じゃあ……抱っこ、してください……」
「えっ? だ、っこって……」
僕は、椅子に座ったまま驚いているルーファスさんの膝の上に向かい合わせに座った。
これならルーファスさんの身体で顔が隠せるし、いいアイディアじゃない?
「レン……この体勢が、いいのか?」
「はい。これで、お願いします……」
「わかった……」
そういうと、ルーファスさんは目の前の棚に置いていた、イシュメルさんが用意してくれた薬を手に取った。
「これでほぐすからな」
ルーファスさんの手の上に乗せられた薬は、とろとろとした液状の物だった。
特に気になる匂いも何もしない。
それを手のひらに伸ばして、
「レン、優しくするからな」
とルーファスさんがかけてくれる声に頷くと、僕のそこにルーファスさんの大きな手の感触がした。
「――っ、んんっ!!」
自分でも直に触れたことのないような場所に触れられて、身体に力が入ってしまう。
「大丈夫だ、レン。私にもっと抱きついていてくれたらいい」
その言葉にホッとして、目の前のルーファスさんの身体にギュッと抱きつくと、トクトクトクと早い鼓動が伝わってくる。
そうか……ルーファスさんも緊張してるんだ。
それなのに、僕を安心させようとして……。
なんか緊張してた気持ちが、ルーファスさんの鼓動を聞いてると落ち着いてくる。
「もう、大丈夫です……進めてください」
「レン、いい子だ」
ああ、ルーファスさんに褒められると嬉しいな。
<sideルーファス>
レンが怖がらない体勢がいいだろうと思い、どうやってしようかと尋ねた私に返ってきたのは私に抱きつきたいという、夢のような体勢だった。
レンと向かい合わせに座ると、レンの方からぎゅっと抱きついてくる。
ああ、もう本当に可愛い。
イシュメルの用意した薬を手に馴染ませ、レンの小さなその場所に触れるとレンは可愛らしい声をあげた。
私の背中に回した手に力が入っているのに気づき、
「もっと抱きついていてくれたらいい」
と言葉をかけた。
優しくほぐしていくと、薬のおかげかそれとも相性が良かったのか、あっという間に驚くほどほぐれていく。
これならひと月も時間などいらないじゃないか。
これも報告だな。
たっぷりとほぐし切ってから指を引き抜き、レンの顔を覗き込むと、どうやらあまりの快感に意識を失っているようだ。
私は急いでその場所を清め、お互いのバスタオルを取り去って一度湯船に入りレンの身体を温めた。
湯の中でもレンは意識を取り戻すことなく、身体を温めてすぐに風呂場を出た。
レンを大きくて暖かなおくるみに包み、そっとベッドに寝かせてから自分の夜着を羽織った。
ベルを鳴らし、クリフを呼ぼうとして目に入ったのは、レンのためのシロップ薬と水。
「クリフ……さすがだな」
そう感心しつつ、レンを起こさないように抱き起こしシロップ薬に飲みやすいように少し水を混ぜ口移しで飲ませた。
咽せないようにゆっくりと飲ませると、レンの喉がゴクリと嚥下する。
薬を上手に飲めたことにホッとしながら、レンを抱きしめる。
私の腕の中に愛しいレンがいる。
ああ、本当にこれが現実なのか……。
幸せすぎておかしくなりそうだ。
レン……私は一生お前を離したりしない。
一生私のそばで笑っていてくれ。
レンを抱きしめたまま私も眠りにつき、それからどれくらいの時間が経っただろうか。
きゅるるっと可愛らしい音が聞こえて目を覚ました。
今の音はなんだ? と思っていると、もう一度きゅるるっとレンのお腹から聞こえてきた。
ふふっ。
今の音はレンの可愛いお腹が鳴ったのだ。
可愛いレンはお腹の音も実に可愛らしいな。
すぐにでも食事を用意してやろうと思ったが、レンを見るとまだ眠っている。
うーん、どうしてやるのが一番良いか……。
そういえばイシュメルが言っていたな。
レンは食事の時間に関わらず、腹の空いた時に食べたいだけ食べさせてあげたほうがよいと。
ならば、起こしてでも食べさせてあげたほうがいいかもしれない。
少し可哀想だと思いながらも、名前を呼びかけるとレンは
「うーん」
と可愛い声をあげながら、私に擦り寄ってきた。
すんすんと嬉しそうに私の匂いを嗅いで安心したように微笑む。
朝からこんな幸せな光景が見られるとは……。
今日はいつにも増していいことがありそうだ
しばらく寝顔を堪能していると、腕の中のレンが身動いだ。
ぱちっと大きな目が開き、大きな漆黒の瞳に私が写っているのが見える。
ふふっ。
レンが朝目覚めて一番最初に見たものが私か……。
本当に幸せだな。
レンは一瞬何事かと考えたのちに、一気に顔を赤らめたのは昨夜の風呂場での出来事を思い出したからだろう。
「あ、あの……ルーファスさん、僕……」
「レン、おはよう。身体にどこか辛いところはないか?」
「えっ? あ、おはよう、ございます……特に、何も……」
「そうか、それならよかった。昨夜は意識を失ったから心配していたんだ」
「あの、すっごく……その、気持ちよくて……だから、大丈夫です」
真っ赤な顔でそう教えてくれるレンの優しさが嬉しい。
「身体が大丈夫そうなら、食事にしようか」
レンが頷くのを確認してベルを振ろうとした瞬間、レンが
「あっ!!!」
と大きな声をあげた。
「レン? 一体どうしたんだ?」
「あっ、ごめんなさい……。あの、ちょっと聞いておきたいことがあって……」
「んっ? なんだ? 気になることがあるならなんでも聞いてくれ」
そう聞き返した私に、レンが真剣な表情で尋ねたのは思いもかけない言葉だった。
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