第16話 甘い匂い

<sideルーファス>


レンからの口付けに幸せを感じていると、


「あっ、そう言えば、後ろのマッサージって……どこでするんですか?」


と尋ねられた。


「んっ? そ、そうだな……普通は、寝室か……風呂、だな……」


「あ、じゃあ……僕、寝室よりお風呂場がいいです」


「な――っ、そ、そうなのか?」


「はい。だって……」


レンは少し恥ずかしそうにしながら私を見上げた。


「寝室で、僕だけ裸になるのは……ちょっと、恥ずかしすぎます……」


「くっ――!!」


なんだ、この可愛い生き物は……。


ほんのりと顔を赤らめ恥じらう姿に、一気に興奮してしまい、もはや隠しようもないほど反応してしまっていた。


「あ、あの……ルー、ファスさん……そ、れ……」


「悪い……つい興奮してしまって……」


「や――っ、あの、そうじゃなくて……辛そう、だなって……」


「えっ?」


「だから、それ……出してあげなくていいのかなって……」



ソレ……ダシテ アゲナクテ イイノカナ……


今、レンはそう言ったのか?


それは私が出すところを見たいということか?

それとも……。


いや、そんな……私にとって夢のようなこと、あるわけがない。


だが……確認せずにはいられない。


「レン……それはどういう、意味なのだ?」


「えっ? あの、えっと……僕のいたところでは、その……ずっと、今のルーファスさんみたいな状態でいると、病気になっちゃうって言われてて……それで、こんなふうになった時はすぐに……出してあげたほうがいいんだそうで……こっちでは、違うんですか?」


「それは、どうしたらいいんだ?」


「えっ? あっ、もしかして……ルーファスさん、知らない、とか……? えー、うそーっ、どうしよう……。これって僕が、教えてあげるべき?」


こちらでも同じだ。

ずっと反応したままにしておくと血の巡りが悪くなる。

すぐに出してあげたほうがいいがレンの前でするのも気が引ける。


そう思っていたのに、レンは私が知らないのだろうと思って悩んでくれている。

このまま隠しておけば、レンが私に教えてくれるのか?


そんな夢みたいなこと現実に起こっていいのか?


正直に伝えるべきか悩んでいると、レンが意を決した表情で私を見上げた。


「ルーファスさんが僕の後ろを解してくれるんですから、ルーファスさんのは僕が出します!!」


「えっ? それは……レンっ」


「大丈夫ですっ! 僕に任せてください!!!」


そういうと、レンは私を椅子に座らせて目の前にしゃがみこんだ。


「あの、レン……その」


やり方を知らないわけではないんだ。

だから、自分でできる。


そう言いたかったが、何から話していいのかわからない。

おそらく今の状況に頭が混乱してしまっているのだろう。


悩んでいる間に、レンはゴクリと息を呑みながら、私のそれを握った。


「ん――っ!」


「あっ、ごめんなさい。痛かった、ですか?」


「い、いや。驚いただけだ。大丈夫」


大丈夫どころか、レンの握る力がちょうどいい。

レンの握力だと今みたいにちょっと強めの方が私には心地良い。


レンの片手では指の長さがわずかに足りないのか、両手を使って上下に動かし始めた。

それのなんと気持ちの良いことか……。


握り方も動かし方も何もかも拙いはずなのに言葉に言い表せないほど気持ちがいい。


「あっ、レンっ! だ、めだっ……レンっ!」


あまりの気持ちよさにあっという間に限界まで達して出そうになる。

必死に抑えながら、レンを離そうとしたのだがレンは離れる気配がない。

それどころか手の動きをどんどん早めていく。


「くっ――ああ……っ、だ、めだっ!」


もうとっくに限界を超えていたのだ。

我慢できるはずもない。

私はそのまま刺激に勝てず、出してしまった。


「ルーファスさん、これで大丈夫ですね」


とレンは嬉しそうに笑うレンの顔に、ほんの少しかかってしまっている。


「――っ! レンっ!! 申し訳ない! かけるつもりではなかったのだが……」


焦って湯をかけて洗い流そうとする私にレンが笑顔で


「気にしないでいいですよ。ルーファスさんのものなら汚くないです」


と言ってくれた。


ああ、レンはやはり神が遣わしてくれた天使なのだな。

もう間違いない。



<side月坂蓮>



ルーファスさんのがほんの少し顔にかかってしまったのは想定外だったけれど、不思議と全く嫌な気はしなかった。


だって、ルーファスさんが出したのは、なんとも甘い匂いのする美味しそうな匂いがしたから。。


見た目は僕が知っているのと同じなのに、匂いだけ不思議な甘い匂いがする。

アイスやチョコのような甘ったるい甘さじゃなく、果物のような自然な甘い匂い。


その匂いにものすごく惹かれた。


ルーファスさんは慌ててお湯で流してくれようとしたけれど、なぜかもったいないと思える。

だって、あんなに甘くて美味しそうな匂いがするんだもん。


ちょっと興味はあるよね。


僕はほっぺたについたそれをそっと指で掬うと、匂いを嗅いでみた。

ふわりと鼻腔をくすぐるのは苺のような甘い匂い。


うわぁ、なんかこれやっぱり美味しそう!


すごい!!

こんなに美味しそうな匂いしてるとちょっと興味あるよね。


「――っ! レンっ!!」


ルーファスさんの声が聞こえたのと、僕が舌を出してそれを舐めたのはほぼ同時だった気がする。

舐めとった舌が僕の口の中に戻ってきた途端、今まで味わったことのないような美味しい味が口全体に広がった。


「――っ、何、これっ! すっごく美味しいっ!!」


思わず大声で叫んでしまった。


<sideルーファス>


「――っ、何、これっ! すっごく美味しいっ!!」


レンの嬉しそうな声が響く。

驚きながら、レンの顔を見ると目を輝かせて満面の笑みを見せている。

どうやら美味しいと言っているのは本当のようだ。


「レン、本当に美味しいのか?」


「えっ? こっちの人のはみんな美味しいわけじゃないんですか?」


「いや、そんな話は初めて聞いたが……美味しいとは具体的にどんな味がするんだ?」


「えっと、甘い果物、みたいな? 優しい甘さです」


「なるほどな……」


レンが嘘をついているとは到底思えないが、流石に自分のを舐めるのは抵抗がある。

それに私の鼻にはそんな匂いは一ミリも届いていないのだから。


となれば、確認する方法はただ一つ。

私もレンのを舐めてみればいい。


「レン……確かめてみたいことがあるんだ」


「確かめたいこと、ですか?」


「ああ、私にもレンのをなめさせてくれないか?」


「――っ、そ、それはちょっと……」


「頼む! どうしても確認しておきたいんだ。これからの私たちにとってこれはかなり重要なことなんだ」


「重要……わ、かりました……」


私の必死な願いが通じたのか、レンは真っ赤な顔をしながらも了承してくれた。


大きなタオルでレンの身体を覆い、服を脱いでもらって後ろから抱きしめる。

そして、さっと握り刺激を与えると、レンは私の手の中にあっけなく出してくれた。


人に触れられたのも初めてのなのだから当然だろう。


バスタオルの中から手を出した瞬間、本当にふわりと甘い匂いが漂ってくる。

レンが言っていた通りの優しい匂いがする。


「はぁっ、はぁっ」


と息も絶え絶えに私の身体に寄りかかってくるレンを抱きしめながら、私は手の中のそれを口へと近づけた。


甘い匂いに我慢できずに舌で舐めとると、本当に美味しい!


「レンっ!! 本当だ! こんなに美味しいものを私は今まで口にしたことがないぞ!」


感動しながらレンにそれを見せたのだが、それに顔を近づけたレンは眉を顰めながら


「うーん、僕にはいつもと同じ変な匂いがする……」


と言っていた。


ということは……お互いのだけを美味しく感じるということだろうか?

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