第15話 初めてのキス

<sideルーファス>


一瞬、何を言われたのか頭が追いつかなかった。


何度も何度も繰り返し、レンの言葉だけが頭の中をぐるぐると回っていたけれど理解できるのにかなりの時間がかかった気がする。



――ルーファスさんと、き、キスしたいなって……



まさか、レンの方からキスをねだられるとは思ってもみなかった。


ということは、身体を繋げることは初夜まではお預けだとしても、キスまでは進んでも良いということなのか?


いやいや、初心うぶなレンのことだ。

もしかしたら、キスが私の知っているキスとは違うということも考えられる。


レンたちの世界ではキスといえば、額や頬を意味するだけなのかもしれない。

そうだ、焦ってはだめだ。


まずは確認しないと!


「レン?――その、キスとは……」


「えっ? あっ、こっちじゃキスって言わないのかな? えーっ、なんて言ったらいいんだろう……えっと、接吻じゃ時代劇みたいだし、あの……口、付けとか……? まさかね……えっと、その、唇と唇を重ね合わせるっていうか……」


顔を真っ赤にしながら、一生懸命キスの説明をするレンが可愛くて思わず魅入ってしまった。


だが、今、確かに唇と唇を重ね合わせるといった。

ということは間違いなく、レンは私とのキスを望んでいるということだ。


ならば、もう我慢などいらないな。


「レン……」


「えっ――んんっ!! んっ!!」


私にどうやって伝えようかと悩みながら必死になっているレンの顎に指をかけ、スッとあげて唇を重ね合わせた。


ああ、なんと柔らかく甘い唇だろう。

私のこの興奮しきった体温で溶かしてしまいそうだ。


こんなに柔らかな感触を味わったことがない。

唯一無二の存在だな。


いや、もしかしたら、レンの身体全てがこの唇の如く柔らかで甘い感触なのかもしれない。


初めてのキスなのだから、そんなに長くはしないでおこうと思ったが、唇が離れたがらない。

それでも苦しかったのか、胸を拳でトントンとまるで子猫の戯れのような力で叩かれ、名残惜しく思いながらも唇を離した。


「苦しかったか?」


「ご、めんなさい……初めてだから……」


「何言ってるんだ。レン……初めてだと聞いて私がどれほど嬉しいか……。レンのこの柔らかく甘い唇を私しか知らないと思うだけで天にも昇る心地だよ」


「ルーファスさんったら……」


「本当だぞ。あっ、もちろん私も唇へのキスはレンが初めてだぞ。手の甲には母上に何度かしたことがあるがそれは許してくれるだろう?」


「ふふっ。大丈夫です。僕はそこまで心狭くないですよ。でも……」


「でも、なんだ? 何か気になることでも?」


「これからは僕だけがいいなって……でも、ルーファスさんは国王さまだからそれは難しいですかね」


「そんなことはない! わかった、約束しよう。手の甲だろうがどこだろうか、私のキスは全てレンだけのもの。もう決定だ」


「そんなこと勝手に決めちゃっていいんですか?」


「ああ、もちろんだよ。なんと言っても私はこのリスティア王国の国王だからな」


得意げな顔でそういうと、レンは


「ふふっ。さすが国王さまですね」


と嬉しそうに笑ってくれた。

ああ、この笑顔を私は一生守ってみせる。



「そういえば、どうして急にキスをねだったんだ?」


「あっ、あの……いや、でした?」


「そんな訳ないだろう! 嬉しすぎて神が見せてくれた夢かと思ったくらいだ」


「ふふっ。ルーファスさんったら」


「本当にレンとキスができるなんて私には褒美と一緒だ」


「それならよかったです。あの、僕がルーファスさんに……キス、して欲しいなって言ったのは……その、ルーファスさんに、いろんなところを見られる前に、ルーファスさんとちゃんと恋人になったんだって……感じておきたくて……」


レンが一生懸命、赤い顔で説明してくれるが、それはつまり……


「恋人の私になら、さらけ出せるということか?」


「そう、なのかな……はい、多分そうです。ちゃんとルーファスさんが恋人だと実感したくて……。だって、キスもしてないのに、先に見られるなんて……恥ずかしすぎです……」


ああ、本当になんて可愛いんだろうな。



<side月坂蓮>



「ふふっ。キスをして、私たちが恋人だと実感できたか?」


ルーファスさんの問いかけに、僕はなんと答えていいか分からなかった。

だってあまりにも突然で……実感するよりも何よりも、ルーファスさんとのキスが気持ちよかったということしか覚えてないんだもん。


「あの……まだ、実感……できなくて……」


「じゃあ、どうすれば実感できる?」


どうすれば……。

そうだなぁ……。

あ、いいアイディア思いついた!!


「あの……僕、から……僕から、ルーファスさんにキス、してもいいですか?」


そうだよ!

僕からしたら、あんなにぐずぐずにならずに恋人としてもキスを実感できるんじゃない?

うわー、僕って賢いっ!!


「――っ! もちろんだ!」


僕のお願いをルーファスさんはこころよくオッケーしてくれた。

ああ、やっぱりルーファスさんって優しいな。


「レン、私はどうしていたらいい? レンの言う通りにしよう」


「えっ、あの……」


わぁ、どうしよう……っ。

そこまで考えてなかった。


「あの、じゃあ……そこに座ってください」


そう言って僕は二人がけのソファーを指さした。


「わかった」


ルーファスさんはてっきり自分一人で座りに行くのかと思ったら、僕を抱きかかえたままそのソファーに腰を下ろした。


「えっ、あの……どうして?」


「んっ? キスをするのだろう? 一緒に座った方がしやすいのではないか?」


そ、れはそうなのかな?

僕の考えでは座っているルーファスさんに近づいて、チュッてキスするつもりだったんだけど……最初っからこんなにガッツリと目の前にいたら、僕からチューするのかなり恥ずかしい気がするんだけど……。


これ、かなりの上級者レベルのキスじゃない?


僕にできるかな……。


「あの、じゃあ……ルーファスさん、目を……瞑っててください」


「ふふっ。わかったよ。レンの可愛い顔が見えないのは辛いが、レンからキスをしてもらえるのだからな」


嬉しそうに僕に顔を向けながら目を瞑るルーファスさんがあまりにも綺麗な顔立ちで、思わずキスをするのを忘れて魅入ってしまった。


本当に綺麗な顔立ち……。

こんな素敵な人が僕の恋人だなんて、いまだに信じられないんだけど……。


だって、こんなにまつ毛も長くて……。

そういえば髭とか生えないのかな。

すごく綺麗な肌をしてる。


ルーファスさんの肌に触れたい……。


そんな思いが不意に込み上げてきて、僕はたまらずルーファスさんの頬を指先で撫でてしまった。


「――っ!」


ルーファスさんは驚いたのか、ビクッと身体を震わせて目を見開いた。


「あ、ごめんなさい……っ」


「いや、いいんだが……どうした? キスをしてくれると思っていたのだが……」


「こんなに、間近でルーファスさんの顔を見たの初めてで……それでつい」


「私の顔はキスしたくなくなる程、レンの好みではなかったか?」


あからさまにがっかりするルーファスさんに誤解させちゃったらいやだと思って、


「ちが――っ! そうじゃないですっ!! ルーファスさんの顔があまりにも綺麗で……こんなに素敵な人が僕の恋人だと思ったら、なんかブワーッと思いが込み上げてきて……目の前の綺麗なほっぺたに触りたくなっちゃって……つい、触っちゃったんです……ごめんなさいっ――わぁっ!!」


必死に理由を言いながら謝ると、突然ルーファスさんに抱きしめられた。


「あの、怒ってますか?」


「ふふっ。自分に触れたいだなんて恋人から言われて、怒るわけがないだろう?」


「本当に?」


「ああ、いくらでも触ってくれていいんだよ」


笑顔でそう言ってくれて、僕は嬉しかった。

そうして、僕はルーファスさんの頬に触れながら、ちゅっと唇を重ね合わせた。

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