16話:時の交差点
ある日、俺は一人で町はずれのバーにいた。
初めて行った場所ではあったが、遅めの時間に男が絡んでくる。
「おぅおぅ、マスター、この店に東方人は出入り禁止じゃなかったかい?それともミルクでも飲んでいるのかい?はっはっは。」
マスターは苦笑いをしている。どこの国でも人種差別というのは存在するものだ。というより文化が違う以上、相手の何かが理解できないなんて当たり前のことだ。それを語彙力が無い者が言葉で表現できない場合、このように乱暴な言い回しになるだけとも言える。
「そうか、すまなかったな。別のところに呑みに行くことにするよ。それとも一緒に外で呑むかい?」
俺は少しばかり侮蔑も含めて言った。
「はっはっは、誰が行くか。って、てめぇ、馬鹿にしているのか?!」
「・・・そうかもな。」
するとテーブルに座っていた別の男が近寄ってきた。
「やぁ、じいさん、また会ったな。その辺でやめときな。お、ケガも治って少し若返ったかい?」
「ん・・・?」
「兄さんも勘弁してやってくれ。一杯おごるよ」
絡んできた男はぶつぶつ言いつつも、おごられることに満足したのか、別のグループのテーブルに向かっていった。
「ありがとう・・・・・・ん?お前は・・・?」
「やぁ、砂漠では大変だったな。ケガもすっかり良くなったようで何よりだよ。」
その男は、砂漠で俺がワシに喰われそうになる時に助けてくれた人であった。
「また、助けられちまったな・・・」
「な~に、気にするなよ。お互いさまだ。」
「お互いさま?」
エボと名乗る男に話をよく聞くと、同じくアメンに恨みがあることが分かった。アメンはこの町で何度か小さな事業をしては失敗を繰り返しているらしい。こんな小さな町でもギャングはおり、それを裏で仕切っているとのことだ。
「あいつ、俺の妹を強姦した上に薬漬けにして殺しやがった…!それでヤツの部下を追っていたんだよ。大した作戦も無く、着の身着のままで向かっていたから、もしも戦っていたら俺もヤツらにやられていたかもな。」
「エボ、アメンのクリスタルの保管場所について何か知っているか?」
「・・・ああ、当然だよ。と言ってもこの町の裏じゃすでにまぁまぁ有名な話だ。あいつが自分で夜の女に自慢しているからな。」
その手の話は外部の人間にはつかみにくい。
「・・・どこにあるのか、教えてくれないか?」
エボに俺とルカのこれまでの話を正直にした。どちらにせよ俺の命はルカと共に一度死んでいる。助けてくれたエボに裏切られたとしてもそれならそれまでだ。俺はエボを信じることにした。いや、ただ信じる人間が欲しかっただけなのかもしれない。
「そうだったんだな。ちなみにアメンの話はそんな大それたものじゃないよ。裏の人間なら誰でも知っている有名な話さ。」
そう言って嘲笑うかのようにエボは話し始めた。
「アメンの野郎はな、知ってのとおり、強欲で見栄っ張りな野郎だ。それでいてケチくさくて、疑い深い小心者でな、当然、銀行さえ信じていなくてクリスタルやピンクルピーを屋敷の敷地内に埋めてるってわけさ」
「敷地内に?どうやって?」
「どうやっても何もこの国の大部分は砂だぞ?つまりアメンの巨大な敷地の半分はただの砂漠ってことさ。」
「さすがに盗まれるリスクのほうが大きくないか?警備の数だって少なくないだろう」
「まぁな。それがやつの小心者なところで、使用人も信じられないから、敷地内はアメンだけが場所を知っている地雷があちこちに埋まっているとのことだよ。それに敷地の正面入り口は赤外線センサーが張り巡らされていて、もちろん警備員もいて、庭には飼いならされたブラックドッグが放し飼いとのことだよ。まぁペットとはいえ野生味あるやつだがな。」
・・・ブラックドッグ、別名ヘルハウンド。ベヒーモスのよう大型の四本足モンスターではないが、気味の悪い黒い犬だ。燃えるような赤色の目をしている、いわゆる人食いドッグでもある。
「何か裏口のようなものはないのか?」
「そうだな。裏手は塀では囲まれていないものの、断崖絶壁の海だよ。海はいつも荒れていて、崖の高さも10メートルはあるだろうね。」
「ふ~ん」
「どうする、セン?」
「当然やるだろ?銀行に預けられているよりよっぽど楽な仕事だよ」
「そうこなくっちゃな。」
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