14話:偽りの夜
そのとき、ちょうどアメンが奥の個室から出てきた。化粧の濃い女の肩に腕を回して、上機嫌だ。
「おっと、サラ。こちらさまは?」
「アメンさん、こんばんは。私はセンと申します。先月、シンメイのパーティで少し挨拶させていただきました。」
「あぁ、あの時の!それは失礼!ところで今回は?」
何が“あの時の”だ。アメンの野郎は東方人の差なんて分かりはしない虫けら並の脳みそだ。まったく記憶にないくせに適当に話を合わせるだけ。そんな男にルカは殺され、俺は瀕死になった。
「実はここだけの話なのですが、父の商社を引き継ぐことになりまして、まだ非公表ではあるのですが、チャンスがありそうな地域を十数か所回っているところなんです。先月はシンメイやラゴスのメガシティをいくつか周っていたのですが、そこでこちらのクリスタルの噂をお伺いしまして、週末の休養がてら見にきたところなんです。」
「そうですか!それは是非お話を伺いたい。実は私もこの何もない海と砂漠の我が故郷にリゾートを作ろうと思ってましてな、わっはっは。」
「なるほど、確かにこの町には好機がありそうだ。実は世界各国への挨拶と合わせて、投資先も検討しているところなんです。」
「はい、ぜひお願いいたします」
何て簡単な男だ。最初はやや慎重、その後は傲慢、そして相手に金があると分かるとこびへつらう糞野郎だ。憎悪の力が表情に出そうなのを注意しながら三文芝居を続ける。
「わかりました。ところですみませんが、本日は移動の疲れもありまして、そろそろ失礼しようかと。」
「おお、それは何と申し訳ございません。早くお休みになったほうが良いですね。」
「そこで、ご相談なのですが、まだこの町にも来たばかりで右も左も分からなくて、近々でこの町の案内をサラさんにお願いしてもよろしいでしょうか。」
一瞬でアメンの表情に雲がかかった。こいつの庇護のもと、サラは苦労したことだろう。だからこそ、この純朴な美しさがあるのかもしれないが、この先の未来に彼女は憂いているはずだ。
「そ、それは、、まぁ、サラが良ければ問題ありませんが・・・」
アメンは横目でサラを見る。
「わ、私は問題ありませんが、しっかり案内できるかどうか。」
「では決まりだ。それでは3日後の9:00に市場の入り口で落ち会いましょう。」
それだけ言って俺は店を後にした。ロックフォールに戻ってきて初日にここまで進むとは予想外であった。
ホテルに戻り、俺はウトウトしながら自分のこれまでの人生を振り返っていた。
幼少期は父の仕事の調子も良く、良い私立学校に通い、算数から体操教室、野外探検隊まで広く習い事をさせられた。その後、世の中の景気悪化に親父も歩調を合わせたが、大学まではぎりぎり通わせてもらった。ただ、その後、家庭の経済環境は悪化し、思春期だった弟のルカは思うこともあっただろう。俺は就職氷河期の中、なんとか町の工務店で職を見つけた。約10年間働いた後、家を継ぐ決意を固め、戻ってきた。そして父が死に、1本の電話からエルムーシアに来ることとなった。そしてクリスタルを掘り当てたが、帰りに俺は半殺しになり、ルカは殺された。
1本の電話。ヨハンと名乗っていた男だ。仕事ができそうなシュッとした男ではあったが、黒目がどこを見ているのか分からない、そんな人間の印象だ。
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