13話:策略の夜

さて、どうしようか。


ビールに口をつけつつ考えるが、これ以上の情報もない以上、悩んでいても無駄だ。



サラを見ると、手持ち無沙汰にしているかのように飲み物に口を少しだけつけてはテーブルに置いている。一人で呑みながら親父のアメンを待っているようだが、あの様子だとしばらくは出てこないだろう。




俺はサラに向かって歩き始める。


「こんばんは、アメンさんの娘さまですよね?」


「あ、、はい、こんばんは。」


突然話しかけたせいか、さすがに少し警戒しているようだ。




「突然話しかけて申し訳ございません。実は少し前にシンメイの国でアメンさんにお会いしたことがあり、娘さまの話をよくしておりまして。この店も彼から教えてもらったんです。」


俺はブラフをかませる。


「そうですか。何も知らず大変失礼いたしました。先月、父はシンメイに行ってましたので、その時でしょうか。あの、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」


頭の悪い金持ちはとりあえずシンメイに行くと相場は決まっている。それが見事にばっちりハマった。


そして、まるで俺がリュウとは気づいていないようだ。この風貌ではそれもそうだろう。




「私はセンと申します。」


「あの、父を呼んでまいりましょうか?」


「いえいえ、少しご挨拶をとだけ思っていたのですが、お忙しそうですのでお構いなく大丈夫です。それにしても素敵なお店ですね。よく来られるんですか?」


「そうですね、父の付き添いでたまにですが、私もお邪魔しています。」


「そうですか、でもアメンさんの娘さまがこんなに美しいとは。驚きましたよ。」


「いえ、そんな・・・」

サラは顔を少し赤らめつつ、謙遜した。


この女はビジネスウーマンとしては優秀なのだろうが、恋人がいた経験は無いだろう。この小さな田舎の町であの親父の庇護のもとで育っている。まともな人間であれば彼女に言い寄る男はまずいない。外から来た人間もお宝目当ての門外漢だ。サラは相手にしないだろう。つまり免疫がまったく無い隔離された部族と同じってことだ。


「よければ一杯、お酒をごちそうさせてくれませんか?」


「えっ、いえ、そんな・・・」


俺は店員に目配せを送り、カクテルを頼む。


「あ、ありがとうございます。」


普通に会っていたら、なんて良い女だろうと思うかもしれない。が、今の俺は普通の状態ではなく、怒りに満ち溢れた狼のようなものだ。どす黒い影がうずまく悪魔の娘にしか見えない。


しばし歓談をした後、わざとワインの瓶をテーブルから落とした。その瞬間、サラが手を伸ばす。それに合わせて俺も手を伸ばす。


2人でワインの瓶を持つ形になり、俺はサラの肩を支える。


「・・・失礼。少し酔っぱらってしまってようだ。」


「いえ、、、大丈夫ですか?」

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