11話:帰還
幸いなことに後遺症は無かった。
ただ、頭髪は真っ白のままで、顔の切り傷はそのまま皺のようになった。そして何より、怒りの感情は異常なほどに残っており、眼光に鋭さを作っていた。歌がそこそこうまければ今なら簡単に人気ロックミュージシャンになれるかもしれない。
「世話になったな。」
「気を付けてくださいね、センさん」
病院の先生と看護婦には本当に世話になった。この国に来て初めて純粋な優しさに触れられたのは皮肉なもんだ。
そして俺はリュウという名前を一度捨てることにした。残りどのくらいの人生になるか分からないが、暗鬱なエネルギーで満ちている。セン、という名前に特に意味は無い。「千」なのか「戦」なのか分からないが、ただ口から漏れてきただけだ。
カネはまだそこそこ残っていた。ヤポンまでの旅費を考えると余裕はないが、節約してつつましく暮らすような考えは毛頭ない。
病院から、最初に出発した街、ロックフォールまではタクシーで1時間ほどだった。表現できない感情が渦巻いているが、そこに向かわないことには何も始まらない。
「おやじ、ロックフォールまで頼む」
「はいよ。はは、最近、ロックフォールは忙しいったらありゃしねえな。旦那さんも商談か何かですかい?」
「・・・まぁな。だが、行くのは久しぶりでな。最近あの街はどうだい?」
「旦那、知らないんですかい?ロックフォールの近くの谷で、またまたクリスタルラッシュですよ!数年前に少し出たのが最後だと思われていたのが、また数か月前にばんばん出て、ウワサによると1億ルピー以上とのことで、羨ましいこっちゃで。見つけた人はそのカネで海沿いの砂漠地帯にリゾートタウンを作るという話ですよ。」
「・・・ふーん」
間違いなく、俺とルカで見つけたやつだろう。それを奪って意気揚々とビジネスにしているヤツがいるということだ。
「もう日も暮れてきたな。おやじ、ロックフォールの一番イケている飲み屋に連れて行ってくれ。いい女もいると嬉しいな。」
「かしこまりました。旦那さんも着いてそうそう好きですね、うへへ。」
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