序章3:意外な発見

俺はクリスタル工房の倅(せがれ)ではあるが、クリスタルの価値をよく分かっていない。


金持ちの道楽としての宝石、ということは有名だが、不思議な磁力によって生まれるエネルギーは、某国の軍事技術に使われているだとか、遺伝子変異技術に使われているだとか、怪しい噂が多くある。なんにせよ、まだ一般人にはほぼ落とし込まれていないのが現状だ。


工房にあるクリスタル専用の加工旋盤はやたら重く、数百キロはあるはずだが、あっというまに船で運ばれて行き、俺たちもあっという間に飛空艇でエルムーシアまで運ばれていった。ヨハンが初めてウチに来てから2週間しか経っていない。


エルムーシアに到着したものの、旋盤の到着がトラブルで遅れているらしく、さらに2週間ほど待つように言われた。エルムーシア地方にあるこのロックフォールというこの場所は、町と呼ぶにはぎりぎりの感じだ。ヨハンが拠点としている研究所兼住居があるにはあるが、河の周辺にあるマーケットはほとんどがトタンや薄い木材で作られている。さらにその周りにテントや小屋がまとまっている集落がある。


もう数時間、車で走ればやや大きめの街があるにはあるらしいが、本当かどうか怪しいもんだ。


ロックフォールはその昔、世界中から一攫千金を夢見たクリスタルマイナー(採掘者)が集まってきていたようで、数は少ないが、ラクダ屋があったり、スコップといった工具を売っている店もちらほらと見える。


「ルカ、マーケットでも行ってみようか。暇だしな」


「うん」


ルカの反応はいつもどおり薄いが、興味がわいてたまらないといった顔をしているのが俺には分かった。マーケットをぶらぶらと一周した後、小さな食堂でカレーなんだか、煮物なんだかよく分からないものを食べていると、隣の席でおそらく現地人であろう黒人が話をしているのが聞こえた。


「・・・そうなんだよ、ここからたった100kmだぜ。砂漠からクリスタルとピンクルピーが出たらしい。まだまだあるっていう噂もあるぜ。」


ルピーとはこの国の通貨ともなる貴重な宝石だ。ブルールピーとピンクルピーがあり、ピンクはブルーの1000倍の価値がある。


ついついあっけにとられて見ていると、黒人が話しかけてきた。


「なんだ?兄ちゃんたち、おまえたちも興味があるのか?黄色人種には厳しそうだけどな。ハッハッハ。」


少しムッとしながらも、話を聞いてみる。


「実はな、昔このあたりは南大陸のクリスタルラッシュと言われた場所で、世界中から人が集まってきてたんだよ。」


「それくらいは知ってるよ。」


これは本当で、ヤポンの教科書に載っているほどの有名な話だ。


「ハハハ、それは失礼したな!だが、それももう100年以上前の話で、今となってはガラスのカケラも見つかりゃしねぇってわけさ。」


「ふーん」


「そんなところに、クリスタルラッシュリバイバルときたもんさ。岩みたいなでっかいクリスタルやらピンクルピーがでてきたんだよ。しかも掘り当てたのは、いまだにスコップで掘り続けていた狂った考古学者みたいなマイナー1人だよ。」


「そんなんだったら、もうすでに開発業者が入って、機械で掘削して終わりだろ?」


俺は正論で返す。


「そう思うだろ?ところがその変態マイナーが掘っていた場所は、かなり入り組んだ渓谷で、掘削機はおろか、車両でも近づけないってわけさ。」


「よくそのマイナーは見つけられたな」


「そうなんだよ。嗅覚が鋭いのか何なのか分からないけど、そんなんだから、まだ業者は二の足を踏んでるってわけさ。投資とリターンが割りに合うのかまだ分からないからな。」


「まぁ、ロックフォールというこの町に来たなら、観光がてら渓谷は一度行って損はないと思うぜ。」


「ふーん、どこにあるんだ?」


「おっ?兄ちゃんたち、興味があるのか?これ以上は有料だぜ」


詐欺らしい詐欺だが、こんな阿保な詐欺は今時ないだろう。


「だが、場所を教えてやってもいいぞ。俺はこのあたりの仲介人でな。そこまでのラクダやらスコップやら食料の準備を斡旋させてくれよ。」


「それだけでいいのか?どうせクリスタルが出たら奪うんじゃないのか?」


「ははは、お宝が出たら、そうだな。10%でいいよ。どこかのプラットフォーム手数料より全然安いだろ?」


「まぁな・・・」


なるほど。こうやって外からやってきた客に、モノを売り、宝石が出たら手数料を取るってわけか。実際にクリスタルを掘りに行くより、リスクも無いし、お宝が出たら出たでまぁまぁ儲かるビジネスってわけか。


「ちなみに、2人だと運べる食料や資材を考えると3週間がやっとかな。まぁ、お宝は出る時はすぐ出るし、出ないときは何年掘っても出ないよ。ハッハッハ。」


それにしてもヨハンの話とつながるところがある。ヨハンが言っていた目新しいクリスタルとはこのことなのかもしれない。ヨハンのビジネスを手伝うだけ、もつもりではあったが、大きなチャンスがあるのであればそれに賭けてみたい気持ちもある。


「ルカ、どう思う?」


「リュウ君、・・・俺、やってみたい」


遠方の国に来てまで能天気な俺たちは行くことにした。

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