序章2:エルムーシアの呼び声

葬式の1か月後、親父の知り合いだという男から電話がかかってきた。

話があるとウチに来るらしい。お得意さんが少なくなった今の俺と弟にとって、仕事の話ならありがたい。



そして1か月後、ヨハンと名乗る男がやってきて、矢継ぎ早にこう言った。


「マルクスの息子さんのリュウさんですね?・・・実はリュウさんには、エルムーシアで手伝ってほしいことがあるんです。」


「エルムーシア?・・・南にあるクリスタルで有名なエルムーシアですか?」


「はい、そのとおりです。」



説明によると、ヨハンと名乗るその男と親父は、20代の頃、エルムーシアでバックパッカーをしているときに出会ったらしい。そんな話は初めて聞いた。


ウチの工房にはクリスタルを加工する古い旋盤があるが、どうやらそれがなかなかの機能らしい。さらにその旋盤を操作するには、どの家庭にも何かしらある“血筋系のスキル”が必要とのことだ。これまでは何の役にも立たない価値の無いスキルと思っていた。


このスキルは、この旋盤を動かすために油をさすようなものだ。仕事上、役立つといえば役立つスキルだが、そんな大したものではない。テレビをリモコン無しでザッピングできるスキルとか、洗濯モノの乾いた時間が分かるスキルとか、そういったものの方がありがたいと思っていた。


話を聞くと、エルムーシアで目新しいクリスタルが発見されたらしい。それがとにかく特殊な素材であり加工が難しく、それがウチの旋盤で削れる可能性があるらしい。ヨハンはエルムーシアで採掘事業をやっているとのことであった。



「その採掘プロジェクトの一員になってほしいんです」


「ふーん・・・冗談では、、ないですよね?」




ヨハンが帰った後、俺は弟のルカと話をする。


「なぁ、どうするよ、ルカ」


「うん、僕はやってみたいけど…」


「あはは、まじかよ!じゃあ行くか!」


という10秒にも満たない会話で、エルムーシア行きが決まった。

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