クリスタルで運命が変わるって本当?工務店4代目の俺物語
はせがわ
第一部:序章1:クリスタル工房を継ぐことになった
父のマルクスが死んだ。67歳だった。
老舗クリスタル工房の三代目社長であった。
父は自由奔放な男でもあった。
若いころはバックパッカーとして世界中を歩き回っていたらしい。とはいえそんな大したものではなく、田舎町に立ち寄っては、釣りをして、風呂に入って、酒を飲み、女を引っかける・・・そんな羨ましい生活とのことだった。
三代目が会社を潰す、とはよく言ったもので、三代目の父は生まれたときからある程度の金があり、特段自分の夢や野望といったものもなく、家を継いだものの売り上げは芳しくなく、一言でいえばごく潰しの楽観的な男であった。
一方で、一見社交的にも見えるが、他人の家では眠れないような繊細さも兼ねていた。俺はと言うと、クラフト系の大学を卒業後、別の工房で働いていたが、2年前に実家に戻って、このクリスタル工房の4代目の跡継ぎを考え始めていたところだった。引きこもり気味の弟のルカとこれからの生活について時折考えてはいたが、父の心臓発作による急死は予想だにしていなかった。
「おう、ルカ。お前も来たか」
葬式もろもろが落ち着き、父の遺品の片付けをしているところであった。人に会うことがあまりないルカは少し緊張した様子で俺を見ている。
「リュウ君…」
弟は優しい性格だが、変な奴だ。
圧倒的に人見知りなくせに、興味がわけば宗教団体だろうが、政治色の強いお笑いライブだろうが何でも見に行くようなやつだった。部屋にそういった危ないDVDが転がっているのを見たこともある。
「元気か・・?バイトは大丈夫なのか?」
「・・・まぁ、何とか。」
「・・・あのさ、やっぱり俺がこの工房を引き継ぐよ。どれだけできるか分からないけど、一応年寄りの職人も2人かかえてるし、なんだかんだ長男だしな」
「うん・・・」
「そこでな、ルカも家を手伝ってくれないか?今まで親父を手伝ってきたけど、なんだかんだ雑務が多くて困りそうなんだよ」
これは本当の話で、父はまったくと言っていいほど事務仕事が苦手であり、請求書処理やら税金やらの書類をすぐにためこんでいた。俺が家に戻る前までいったいどうやってやってこられたのか不思議なほどだ。ここ2年の俺の仕事は事務なのか総務なのか、仕事のための仕事が多かった。ルカは変な奴だが、俺と一緒で細かい人間なので、真面目にやってくれるだろう。
「…うん、わかった」
「!!そうか」
ずいぶんとあっさり言うな、と思ったが、そんなところも弟らしい。
「まぁ、一緒にやっていこうぜ!いわゆる家族経営だな!」
真面目なシチュエーションが苦手な俺はお茶らけてそう言った。
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