第4話 戻ってきた日常(3人が初めて出会った日)

論功行賞が終了すると、小早川隆景とその他毛利軍の者は速やかに本国へ撤退していった。




『疲れがとれたのか、なんか肩が軽くなったぞ。』『安芸の国へ帰れる事が嬉しくて、疲れが何処かに飛んでいったようですね。』と乃美宗勝と家来の会話が物語る様に、凱旋帰国する兵士達の気持ちは明るい。一時の平和を享受できる喜び、この時代の誰もが理解していた事だが、平和とは貴重で非常に尊いものであった。誰もが心の奥底で、戦の無い平和の時代を待ち望んでいた。




毛利軍が撤退し、何時もの日常が戻って来た高松城の人々も、戦争を回避できた喜びを噛みしめていた。戦争が回避できたお蔭で、いつもの日常が戻ってきたのである。何時もの様に家族皆で食事をして、いつものように部屋を掃除できるだけで嬉しかったのである。




そんな、城内の喜びの雰囲気とは裏腹に、清水宗治は独り自室で、突然襲ってきた肩の重みと闘っていたのである。




宗治の肩が重い原因は、鶴姫が宗治の両肩に両手を乗せ、体重をかけているのが原因であった。


論功行賞が終わった後、鶴姫は宗治に興味を持ち、彼と行動を共にする事を決めたのである。


しかし、鶴姫の声は当然宗治には届かない、触る事も出来ない。その為、鶴姫は宗治に何かできないかと試行錯誤しながら、色々な事を試したのである。




その中で、一つだけ分かった事が有る。それは、宗治の身体の部分に鶴姫の手を添え、相手に与えたい事をイメージする、その念が強ければ強いほど、その念は先ず鶴姫自身に具現化され、その具現化された事が宗治に同じだけ伝わるのであった。




鶴姫は、先ず自分の両肩に重い漬物石が乗っている事をイメージする。


重いと思えば思う程、自分の両肩が痛くなるのだが、その同じ痛みが宗治に伝わっているかのように宗治が苦しみだす。




もし、二人を同時に見る事が出来る人がいると、今の二人は我慢比べをしている様に見えただろう。『ウォッ肩オモ、痛ェ』と宗治が唸ると、『フフフ、我が一族の怨み、イテッテ テ 痛い、肩オモ、死ぬほど痛いわ・・・負けてたまるか。』と鶴姫も苦しむ。そんな状況であった。




鶴姫にとっても、諸刃の剣ではあったが、自分が生身の人間に影響を与える事が出来る事が嬉しく、彼女は宗治と自分への攻撃を続けていたのである。




そんな時、宗治家来の竹井久之助が、宗治の自室へ訪れたのである。


『殿、小早川隆景殿から、一通の書状が届きましたので、お持ち致しました。』




『ウゥウ~ その声は久之助だな、入れ』と宗治が入室の許可をする。


許可を得た、久之助が襖を開けると、其処には宗治と一人の女性がいた為、久之助は驚いて、直ぐに開けた襖を又閉める。


『これは、失礼いたしました。女性の方と御一緒でしたか・・。』と久之助は畏まった物言いで謝罪をし、宗治の反応に耳を傾ける。




『何を言っておる、ワシは一人じゃ、何寝ぼけておる、早く、入って来い。』と宗治に促され、久之助も、仕方なく、再度襖を開けたのであった。




襖を再度開けた久之助は、『殿、殿、やっぱり、妙齢のキレイな女性がおられますが・・・。』と混乱しながら、低い声で、自分が見ている情景を宗治に報告する久之助であった。




『いやぁ、昨日の論功行賞の後から、急に肩が重くなってのぅ。そう言えば、聞いた事が有る、幽霊に憑りつかれると肩が重くなると・・・ナンチャッテ!!』と最後は笑い、お道化た表情で再度久之助を見る宗治であった。しかし、宗治の見た久之助の表情は固まったままであり、自分がフザケて言った事が、現実に起きている事を伝えていた。


『エッウソ、本当、本気、マジッ。』と顔面蒼白になる宗治であった。暫く沈黙の時間が過ぎる。


沈黙の後、突然、宗治は気迫のこもった顔をして、『ナンミョウホウレン ケ~イキョウ キェーイ ナムアミダブツ キェーイ』と拝み、拝み終わった後にドウだと言わんばかりに久之助の顔を見る宗治に、無慈悲に久之助からは、『全く、効いてないみたいです・・・殿ぅ。』と報告される。




『まさか・・・其方そなた・・私が見えるのか?』と鶴姫は、一連の二人の行動及び、まるで自分が見えているような視線をする久之助に、話しかけたのであった。




久之助が恐る恐るコックリと頷いたのを見て、鶴姫は歓喜の表情をした。




二人の、いや、三人が初めて出会った日になったのである。


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