第2話 備中兵乱の経緯(いざ高松城へ)

常山城つねやまじょう陥落は、2年間の備中兵乱の終焉を象徴する出来事であった。




備中兵乱とは、もともと備中の国の大半を治めていた三村家の当主だった鶴姫の父、家親いえちかの死が発端であった。


1556年当時、家親を中心に全盛期を築いていた三村家だったが、当主家親が宇喜多直家の手の者によって短銃によって暗殺されたのである。


日本の歴史の中で、短銃を使った初めての暗殺事件であったとも言われるこの出来事が、正にその銃弾が三村家の命運を変えたのであった。




もともと、三村家は毛利家とは昵懇じっこんであり、毛利家とはお互いに助けあい、領土を広げる中でお互いに良いパートナー同士であった。


しかし、三村家を継いだ家親の子、三村元親みむらもとちかが1567年に兵2万を率いて宇喜多家兵5千に仕掛けた弔い合戦で、まさかの大惨敗をしてしまった。


その結果、三村家の力は落ち、宇喜多家の勢力が強くなった。




三村家の力が落ちても、滅亡せずある一定の勢力を保てたのは、毛利家が三村家を支持し助けたからなのであるが、備前の国の宇喜多家が備中の国でも力を持ち始めてしまった為、毛利家としても、宇喜多家を無視できなくなってしまったのである。




当時毛利家としても信長包囲網と言われた多国間同盟に参加し、勢力が強くなる織田信長に対抗していた時期である。


信長と戦うためにも、備中、備前の大名とは同盟しておきたいという思惑が有り、密かに宇喜多家と同盟を結んだのであった。


毛利家と父の敵である宇喜多家が同盟を結んだ事を知った三村元親は、当然激怒し、事もあろうか腹いせの様に織田家と誼よしみを結んだのである。




これを一大事として、火の手が広まる前に火を消そうと、毛利家は兵八万の大軍を率いて備中の国、三村家の領地へ攻め込んだのである。


毛利家家中でも、三村家に同情する者もおり、毛利元就もうり もとなりの息子であり毛利家の重臣である吉川元春きっかわ もとはるが、義を重んじなかった毛利家の将来は暗いと毛利家の上層部が下した方針を公然と批判する等、一枚岩では無かった。




三村家は、僅か総勢兵八千で、しかも各拠点に別れ、毛利軍の大軍と戦ったのである。勝敗は戦を行う前から明白だったのである。


毛利家の大軍は、三村家だけに向けたのではなく、織田信長、宇喜多家への警告だった。


その警告の為に、三村家は見せしめのように滅ぼされてしまったのである。




このような背景があった為、毛利軍は備中兵乱びっちゅうひょうらんを鎮圧したのであるが、同時に三村家及び、備中の武士たち(国人衆)に後ろめたさを持たざるを得なかったのである。




鶴姫が、歩いていると偶然、最期に戦おうとした乃美宗勝のみ むねかつをみつけた。自分達三村一族を滅ぼした者を恨んでやろうという気持ちで、後ろから着いて行ったのであった。


しかし、残念な事に自分が何を言っても宗勝には、聞こえていないみたいであったし、触ろうとしても、触れない。


『恨んで、相手を後悔させてやろうと思っても、これでは何もできん、無力だわ・・・。』と鶴姫は呟いた。


(私は、今幽霊になったのよね、どうして何もできないのよ。何の為、化けて出たのよ・・・誰か教えて、仏様ほとけさま??)


鶴姫は、もともと無神論者であり、仏を信じていなかった。そんな自分が仏様とよんでも、多分意味がない事に気づいた。




(まあ、なる様になるでしょう、とにかく、此の乃美宗勝という武将についていけば、自分と縁のある人と出会えるでしょう。)




(出会った人が悪い人だったら、呪い殺せばいいし、良い人だったら、・・・どうしようかしら。)


(ただ、自分と同じような幽霊とは出会いたくないわね、嫌よ、怖いし、気持ち悪いは、幽霊なんて・・・あ、私もか・・・)


(隆徳たかのり殿、子供達と会えないという事は、みんなは無事逝けたのね、それだけが救いだわ・・・)と考えながら、毛利軍の武将達と暫く行動を共にしようと決めた鶴姫だった。




『なんか、肩が重いなあ、疲れているのかな。』と乃美宗勝が自分の異変を口に出すと、『風邪ですかね、顔色はいいですけど。戦が終わって疲れが出たんじゃないですか?』と御付きの家来が主人を心配するように言った。


『それより、殿、明日、今回の備中兵乱の論功行賞ろんこうほうしょうが行われるそうです。』と家来が言葉を続ける。


『場所は、高松城だったな、今から行けば、間に合うな、ヨシ兵たちに伝えよ・・いざ高松城へ!』と宗勝が指示をする。




(高松城、あの武勇で有名な清水宗治しみずむねはる殿の居城か、確か、早いうちに毛利家へ寝返ったと聞いたわ・・・)


(どんな男か、確かめてやるわ・・・)と、鶴姫の新しい目的ができた瞬間であった。

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