第7話:盗賊団アジトにgogo!
「まあ結局こうなるよな」
ダミ子とマースの二人は軽トラに乗せられ揺られていた。
のんびり砂利道を走るそれに日が暮れる前に
向かうのは盗賊団のアジト。
爪の垢を得るには捕らわれたナマケモノたちを救出するしかない。
「もうすぐ着くぞ~」
のほほんとハンドルを握る長老の言葉によりとりあえず先程抱えた一抹の不安は除去される。
盗賊団の住むアジトはナマケモノの町から近くの元鉱山の洞窟にあった。
昔はよく鉱石が採れ頻繁に人が訪れる鉱山だったが、発掘しすぎで鉱石が採れなくなり閉山。現在は盗賊団の住み処となっている。
せっかく(楽)なので長老に盗賊団のアジトまで送ってもらうことにした。
アジト前に到着。
盗賊たちにバレないようにアジトから少し離れた地点に降ろしてもらう。
「じゃあワシはここで待っとるから」
「ああ。住人たちを連れてくるまで待機しててくれ」
長老には救出した住民の確認(ナマケモノ個々の顔の区別がつかないため)と運搬を頼んである。
「長老さんも安全に気をつけてくださいね」
運転席に座るナマケモノに安全を呼び掛ける心優しき助手に長老はほほほ、と軽やかに笑った。
「ああ。もしも奴らに襲われそうになったらコレで轢いてやる」
「物騒なこと言わないでください!」
「……」
「ダミ子さん? もしかしていいなって思ってます!?」
茶番を後に長老と別れダミ子たちは洞窟前の草の茂みに隠れる。
洞窟の前には盗賊らしきバンダナを巻いた男が二人。
「当然だが入口に門番がいるな」
「ここからじゃないと入れないですし」
やっぱアレでいきますか。
マースくんが耳もとで囁く。
「そうだな。アレを使うか」
長老の情報によると盗賊は全員で四十人程。
普通に考えて二人(しかも片方は薬剤師)しかいないダミ子たちが不利だ。
もしかしたら魔法使いのマースなら盗賊団を魔法でぶっ放せば余裕かもしれない。
だが最優先事項はナマケモノたちの救出。
大きな魔法を使い人質を傷つけるわけにいかない。
穏便に。かつ速やかに。
「アレの出番だな」
そこでダミ子が取り出したのが我が開発品【ネムクナール】だ。
胡椒瓶のような容器に中身も胡椒のような粉末が入っているがこれは胡椒ではない。いわゆる眠り薬だ。
不眠気味の人用にダミ子が開発した薬の一つ。需要なし。
「これをふりかければ相手は半日眠りこむ」
「よく持ってましたねそんなもの」
「そんなもの言うな。私は旅先で枕が変わるとよく眠れなくてね。繊細だから。だから旅のお供として持ち歩いてるんだ」
「旅先で半日眠らないでください!」
「それ行くぞ」
「あっダミ子さんちょ、早っ!」
ダミ子は胡椒瓶片手に茂みから飛び出し門番の盗賊二人にネムクナールをふりかける。
「うわッなんだ!? 侵入者か……ぐう」
「ここから先は通さ……ぐう」
「な? 効果抜群だろ」
「凄い、本当に瞬眠してる……」
「今のうちに行こう」
あっさり眠る門番たちを脇にずらし侵入スタート。
アジトの洞窟は狭い入口から予想できないほど広かった。
湿度が高く薄暗い洞窟内には一定間隔ごとにランプが横の岩壁に設置され淡い橙の炎が揺れている。
天井は高くないものの奥行きが深く細い道がいくつも枝分かれし部屋数も多い。
等身大蟻の巣というかんじだ。
洞窟内にはランプを持った盗賊がうろうろしているため思ったように捜索できない。
「意外と広いな。人質がどこにいるのやら」
「そうですね……こっち覗いてみましょう」
入口近くの部屋を二、三室覗くとそれぞれ部屋に盗賊たちが数人たむろしている。
「一つ一つ部屋を覗き回ってたら盗賊たちに見つかるリスクも増えるな。目星がつくものでもあればいいんだけど」
「あっ」
「なんだマースくん」
「人質だから逃げられないように遠くの部屋に閉じ込めるんじゃないですか」
「なるほど奥の方探してみるか」
手前にある部屋を後にし、奥の部屋から攻めることにした。
ダミ子とマースは洞窟内を忍び足で時に走り時に分かれ道に身を隠し盗賊たちに見つからないよう慎重に進んでいく。
そして幾らか奥に進んでいくと数メートル先に一人の太っちょ盗賊が歩いているのを発見。腰元で何か光るものが揺れている。
「あれ鍵ですよ! 近くに牢屋があるんだ」
マースが小さく叫ぶ。
「かもな。追ってみよう」
太っちょ盗賊を追う。
右へ左へ奥へ奥へ、薄暗い洞窟を進んでいくと突き当たりに一番広い部屋が見えた。
そこにあったのは大きな牢屋。
牢屋手前にあった岩に身を潜め様子を伺う。
牢の中にはナマケモノが数十匹入っていた。
「間違いない町の住人のナマケモノたちだ」
「数からしてたぶん全員いますね。あんな一ヶ所に可哀想に」
牢屋に閉じ込められたナマケモノたちはぐったり檻の中で寝そべっていた。もともとそういう種族かもしれないが心なしか表情もやつれて見える。
「あの太っちょから鍵を取り上げたいところだけど」
「牢番が他にもいるのが厄介ですね」
牢屋には太っちょ盗賊の他に二人盗賊仲間がいた。三人は牢屋の前でたむろしていてこの場から退きそうにない。
さてどうやって鍵を手に入れるか……なんて迷う暇もなくダミ子は近くの助手に笑いかける。
「“こういう時”のためのマースくんだよな」
「やっぱ僕の出番ですよね」
隠密作戦は彼の十八番だ。
……失敗例あるけど。
ネズミに変身したマースは隙を見て牢番の足元を潜り抜け、ナマケモノたちが捕まる牢屋まで辿り着く。
「ふー、セーフ」
「むあ?」
檻の中のナマケモノたちがマースを見つめる。
「むあむあ」「むーあー」
「しー、今助けますからね。いやぁ久々のミッション緊張するなぁ」
ネズミ態のマースはツルツルと牢屋の檻を上る。
天井付近まで上ったところで胴体に巻きつけられた胡椒瓶の紐を解きそれを抱き締めるように両腕いっぱいに抱える。
狙いは鍵を持つ太っちょ盗賊とそのサイドの牢番二人。
「では、おやすみなされ~……」
ふりふりと。
マースくんは
盗賊たちの上から純白の粉が鱗粉のように牢番たちに降り注ぐ。
「な、なんだ?」
「ふぁ……なんか眠くなってきた」
「おやすみなさい~……」
牢番はあくびをすると、たちまち眠りの世界へ誘われた。
「今のうちに、」
「とやっ」牢番たちが眠ったのを確認し天井付近からダイブと同時に変身を解く。
着地した人間態のマースは轟々とイビキをかく太っちょ盗賊に駆け寄る。
「よし、鍵ゲット!」
鍵を握り牢屋の向こう側に向けて両腕で大きなマルのサインを送る。
「(ダミ子さーん、鍵ゲットです)」
「おお、よくやった」
洞窟の岩場の陰で隠れていたダミ子がひょっこり顔を覗かせた。
「これで捕まったナマケモノたちを解放できるな」
ダミ子はナマケモノたちが捕まる牢屋へ駆けつける。
「はい。この鍵で開くはずです」
「すぐ住人たちを出口へ誘導させるぞ」
後ろ護衛頼む、そう言うとダミ子はマースから受け取った鍵を錠に差し込む。
くるりと鍵は滑らかに一回転した。
「あれ?」
しかし錠前はカチャンと小気味良い音を立てるものの牢屋の扉は開かない。
「な、なんでだ。この鍵が牢屋の鍵じゃないのか」
「あーっ!?」
マースが叫んだ。
「な、なに」
「ダミ子さんこれよく見たらダイヤルがついてます! 暗証番号があるんです!」
錠の隣には別のダイヤルのついた錠がぶら下がっていた。
「まさかの二重ロック!」
思わぬ厳重警備にダミ子とマースはだばだばと汗が出る。
「とととにかく適当に番号を回す!」
「適当にってA~Zまであるんですよ! ダイヤル三つ揃えるまで日が暮れますよ!」
ダイヤルは縦に三つ並びそれぞれアルファベット二十六文字が用意されている。勘で当たるものではない。
「ええとええと」
「ダミ子さんファイト!」
「な、なんだお前は!!」「侵入者か!?」「怪しい奴がいるぞ!」
「あ! 通りがかりの盗賊が五人!」
「わーッ!? ふりふりふりふり」
ダイヤル錠に苦戦する最中盗賊五人に見つかるも
『ぐぅ』
「ってなんで私が撃退してんだ! 護衛しろよマースくん」
「ダミ子さん早く早く!」
「えーいヤケクソ!!」
鼻提灯を浮かべ眠る盗賊を見てダミ子はダイヤルを合わせた。
【Z・Z・Z】
ピンポーン。
軽快な音が鳴ると檻はガチャンと開いた。
「えー!? 開いちゃった!」
「頭隠して尻隠さずとはこのことだな。つめが甘い連中で助かった。救出するぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます