第54話 実はいい人? 強い騎士団長
「ダメですぞ! 早く離れてくだされ!」
勢いよく部屋へ入ってきた騎士はアランとユーファに近き、力任せに2人を引き離す。ユーファは勢いよく飛ばされ、アランは騎士によって優しく保護されていた。
「何するんですかー。それに私を吹き飛ばすなんて酷いですー」
「当然ですぞ。姫が力任せに少年を拘束していたのでしょう。困っている者を救うのは騎士ならば当然です」
1メートルほど飛ばされたユーファが
『ほう。よくわかっておるではないか』
今度は騎士の腕で拘束され逃げられないアラン。そんな状況を面白そうに眺めるレーヴァ。
「それで、この少年がアラン殿でよろしいので?」
「もちろんですー。私がアラン様以外に抱きつくはずがありませんー」
「それはそうなのでしょうが、正式な婚約はまだなっておりませんぞ。もっと節度を持って行動していただかないとダメですぞ姫」
騎士はそう言ってユーファを諭す。そして視線をアランに向けた。その目は厳しく、値踏みをしているようである。
「あの。もう大丈夫ですので離していただけると」
「ふむ。このような細腕で姫を守れる伴侶となれると思っておられるのか!」
突然、騎士が大声を出す。その声量にアランは驚き首をすくめる。しかし、強い意志を込めて騎士を睨み返す。
「もちろんです。生半可な気持ちでユーファの申し込みを受けたつもりはありません!」
「アラン様……」
アランの言葉にユーファの顔に朱が混じる。モジモジしているが嬉しそうに表情を緩ませニマニマしているユーファ。その言葉を聞いて騎士は大きく息を吸った。
「それは申し訳ないことを申した。その意気やよし! ならば実力を見せてもらいましょうぞ。表に出るが良い」
アランの腕を引っ張り外に出ようとする騎士にユーファが呆れた表情を浮かべる。
「何を勝手に話を進めようとしているのですー。まだ調教が足りないようですー。名乗りもせずに振る舞う態度は相変わらず自分勝手なのですー」
ユーファの言葉に騎士はハッとするとアランに向かって頭を下げると名乗りをあげた。
「失礼した。アラン殿。儂は王国騎士団長のフローリアン・ベーアと申しますですぞ。挨拶も終わったので外へ参りましょうぞ」
『ふん。ちょうど良いわぃ。アランの実力を存分に知るが良ぃ』
「ん? なんと!? 妖精がおる!」
『誰が妖精じゃ! 魔剣たる我を妖精など小物と一緒にするでない!』
「なんと魔剣の所持者ですと?」
初めてレーヴァに気付いたのかフローリアンが驚いて視線を向ける。珍しい物を見たと、目を見開くフローリアンだが、見当違いの発言をされたレーヴァは激怒する。
『いいじゃろぅ。アラン。コテンパンにしてしまうのじゃ』
「ほう。具現化できる魔剣とは素晴らしい。先ほどの発言は取り下げて謝罪しますぞ。レーヴァ殿。これは楽しめそうですな」
「何か勝手に決めて行っちゃいましたですー。相手にしなくてもいいのですー」
はっはっは。そう大笑いしながら外に出るフローリアンを呆れた表情で見送るユーファだが、レーヴァはアランに話しかける。
『いや、相手をしてやれ。今のお主の力がどれほどになっているのかユーファに見せてやるのじゃ』
「そうだね。ユーファに僕の成長を見せないと」
「しかし、フローリアンは強いですよ?」
レーヴァの言葉にやる気になっているアランを心配そうに見るユーファ。アランの身体を使ってレーヴァが戦うのであれば問題ない。しかし、今の会話を聞く限りではアラン自身が相手をすると言っている。
今までのアランを知っているユーファからすれば、一撃で勝負が決まると思っても仕方なかった。
「アラン様。改めてですが、私が叩きのめしたとは言え、フローリアンは王国最強と呼び名も高い騎士です。レーヴァさんに戦ってもらった方がいいのですー」
「大丈夫だよ。僕もこの2ヶ月で強くなったからね」
アランは大きく伸びをして気合を入れると外へと向かうのだった。
◇□◇□◇□
「準備は良さそうですな」
「もちろんです」
フローリアンはすでに抜剣しており準備万端であった。アランもレーヴァを抜いて対峙する。そして遅れて外に出てきたユーファに視線を向ける。心配そうに両手を組み合わせて自分を見るユーファにアランは軽く手を振って見せる。
「ほう。すでに威圧を放っているのに余裕がありますな」
「ええ。この2ヶ月は特訓の日々でしたので」
「その魔剣を使いこなすためですかな?」
王国最強の騎士団長として長年勤めてきた自負がある。現在進行形で放っている威圧も新人騎士ならば萎縮して震えるであろう。
なのに目の前の少年。勇者であり王家の至宝と呼ばれている少女が婚約者として紹介した少年は平然としている。
「これは楽しみですな」
突然のユーファの婚約話に隣国や高位貴族との結婚を模索していた王家はパニックとなった。そしてなんとか諦めさせようとする。
あえてきつい言葉を発した宮廷魔術師長は王都に張られた結界を維持するため縛り付けられ、自分もエリクサーが必要なほどの怪我をさせられた。
「それほど想いがあるならば、致し方あるまい」
ため息混じりに王は許可を出す。しかしアランと名乗る少年の実力と人柄は確認しておきたい。そんな王の意向で自分が派遣された。
「ふむ。人柄は先ほどの会話で問題ない。姫様への愛情も申し分なし。あとは実力だけですな」
そう呟き、威圧をさらに高めると一歩踏み出す。それに呼応するようにアランも剣を構え腰を落とす。隙のない動きにフローリアンは歓喜の表情を浮かべる。そして笑顔のままで上段からアランに向かって振り下ろしを行った。
「なんと!」
てっきりかわすと思っていたアランはフローリアンの剣を受けたのだ。大剣使いの自分の一撃を受け止める。胆力と実力がなければ出来ない行動だと知るフローリアンは驚きの表情を浮かべた。
「はっ!」
力勝負では負けると判断したアランはフローリアンの剣を流して間合いを開ける。そして一息つくかと思わせ、一気に間合いを詰め
「ぬうぅん!」
受け流された大剣を戻そうとするが間に合わないと判断したフローリアンは右腕でアランの剣を受ける。金属鎧とレーヴァがぶつかりあり激しく火花を散らす。
『ほう。右腕を捨てる覚悟での受けか。中々やるようじゃのぅ』
「やぁぁぁ!」
感心した声を上げるレーヴァ。片腕で押し込まれるのを避けるようと回り込んだアランだが、勢いよく吹っ飛ばされてしまう。体勢を崩し転げたアランにフローリアンの大剣が迫った。
「アラン様!」
ユーファが悲鳴を上げる。これが模擬戦なのを忘れたように、エクスを引き抜いて思わず駆け寄ろうとする。
『終わりじゃ』
レーヴァの声にユーファの動きが止まる。フローリアンの剣はアランの頭上で止まっており、アランの切先はフローリアンの喉元に突きつけられていた。
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