第53話 アランとユーファの甘酸っぱい会話?

「アラン様! ちゃんと了承もらってきました!」


 遅れてくる者達への軽食を用意し、一息ついたアランがコーヒーを飲んでいると、ユーファは嬉しそうに満面の笑みで告げる。


「了承? え? 婚約の話であってるよね? うん。合ってるのか。すぐに婚約許可ってもらえるものなの? いや、嬉しいけどさ。2ヶ月で許可がもらえるのかと驚いてるんだよ」


 ユーファの言葉にアランが驚く。了承は婚約であるのを確認するが満面の笑みが再び返ってくる。そんな笑顔も可愛らしいな。そう思いながらもアランは首を傾げる。王家に連なるユーファの婚約である。そんな簡単に許可が得られるとは思ってもいなかった。


「違いますー。2か月もかかったのですー。」


 そんなアランの顔にユーファは少し不服そうな顔になる。頬を膨らませ、むーと口を尖らせていた。


「もっとおじ様が素直に頷いてくれたのなら1週間で終わったのですー。なのに騎士団長や宮廷魔術師長が出しゃばって余計なことを言い出してくるから説得するのに時間がかかったのですー。お陰でエクスも疲労困憊こんぱいなのですー」


『ほう、説得とな? 騎士団長や魔術師長なる者をどうやって説得したのじゃ?』


 ユーファの言いように興味を持ったレーヴァが紅茶を飲みつつ質問してくる。アランも興味があるようで視線をユーファに向けた。

 2人からの視線を受けたユーファは貴族令嬢がしないであろう獰猛な笑顔で答える。


「アラン様を『どこの馬の骨とも分からない上に、魔王討伐に着いて行けなかった軟弱者』と言いやがった騎士団長は向こう半年は動けないほど叩きの――説得したのですー! 『彼の血筋は平民であり相応ふさわしくない』なんて意味の分からない事を言った宮廷魔術師長は結界魔法陣にくくりつけて魔力タンクにしてきたのですー」


『なんじゃと? 馬鹿剣聖エクスに守護結界を張らせたのか?』


「その通りなのですー」


 レーヴァが思わず確認する。その通りと自信満々のユーファの言葉に、流石のレーヴァも目をつむって沈黙をする。そして聖剣に視線を向け少し同情した表情を浮かべた。


『さすがにやりすぎじゃ。そ奴はしばらく具現化できんぞ?』


「エクスもそう言ってましたー。でも、アラン様と私のためならばと頑張ってくれたのですー」


『まあ、本人が了承しておるならええわい。これで王都は魔力が切れん限りは安泰あんたいじゃな』


「私も安心してここに来れるのですー」


 呆れた表情のレーヴァに対して、ユーファは嬉しそうな顔であった。そして会話を続ける。


「エクスのお陰でおじ様も『問題ない』と笑顔で頷いてくれましたー。まあ、断ったらおじ様も結界解除にくくりつけて出奔しゅっぽんしますけどねー」


「いや、そんなことをしたら国家規模の大騒動だよ」


 レーヴァとユーファを聞いたアランが思わずツッコむ。国の象徴である国王を魔力タンクにするなんて聞いたこともなかった。


「出奔はしないので大丈夫なのですよー。なのでアラン様は気にせずに王都に来てくださればいいのですー」


「え? 王都に行くの? 僕が?」


 ユーファの何気ない一言にアランがキョトンとした顔になる。そんな顔も可愛らしいと思いながらユーファはうっとりとしている。そしてレーヴァは当然だとばかりにうなずいていた。


『なにを当たり前のことを言っておるのじゃ? こ奴は勇者であり貴族令嬢でもあるのだぞ? その辺りも分かった上で、覚悟を決めて返事したと思っておったわぃ』


「え? いや? その。そこまでは思ってなかったんだ」


「え? アラン様?」


 アランの何気ない言葉にユーファが泣きそうな顔になる。勘違いをさせたとアランは慌ててかぶりを振って否定する。


「違うんだよ! ユーファとの婚約を思ってなかったとかじゃなくてさ! 冷静に考えれば当然なんだよね。だってユーファは貴族様なんだから。でも、勘違いしないでよね! 僕はユーファが貴族や勇者だからって好きになった訳じゃないし、婚約話を受けたわけでもない。ユーファって女の子だから惹かれたんだよ」


「アラン様!」


 少しそっぽを向いて早口で言い切ったアランの顔は真っ赤にさなっていた。それを見たユーファはうるませた目を輝かせ椅子から立ち上がると一気に距離を詰めアランに抱きついた。


 アランも優しく抱き返す。


『ひゅーひゅーじゃのぅ。儂は席を外した方が良いか?』


「茶化さないの!」


 抱き合うアランとユーファを見て、ニヤニヤとレーヴァがからかってくる。レーヴァに見られるのを忘れ抱き合っている事に気付いたアランとユーファは茹蛸のようになっていた。

 そしてユーファは真っ赤な顔のまま、レーヴァに向かって真剣な目を向ける。


「レーヴァさん。ちょっと席を離してもらっていいでしょうか?」


「ちょっ! ユーファさん!?」


 ユーファの発言にアランが思わず叫ぶ。まだ早いと慌てて距離を取ろうとするアランだが、勇者スペックでがっちりと押さえこまれ身動きすら出来なかった。


「あの、ユーファさん?」


「大丈夫ですわよー。なにもしませんから安心くてださいましー」


『カッカッカ。それは絶対に何かする奴の言い分じゃのぅ』


「ちょっとからかわないで! 駄目だからね!」


「酷いですー。もう婚約者同士なのですから遠慮は必要ないのですー」


 カラカラと笑いながらレーヴァが楽しそうにしている。完全におもちゃにされている状態のアランが、この場をどうやって切り抜けようかと悩んでいると、突然玄関扉が勢いよく開いた。


「ちょっと待ったー! それ以上はならんぞ!」


「ちっ。もう復活したのですかー。いいところなのに邪魔しないで欲しいですー」


 勢いよく飛び込んできたのは誰が見ても一目で分かる立派なフルプレートを着込だ騎士であった。王国所属騎士だとはっきりと分かる王家の紋章が胸で輝いている。


「姫! 淑女としての行動をお願いします。もう、婚約に関しては何も言いません。ですが、何事にも順序があるのですぞ!」


「姫じゃないですー。今は子爵なのですー」


「そういった問題ではありませんぞ!」


 ぷいとそっぽを向くユーファに騎士は怒りを滲ませているようだ。彼は誰なんだろう。ユーファにがっちりと抱きしめられ、逃げられない状態でアランは騎士に視線を向けていた。

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