第51話 アランは(強制的に)特訓する
「よっと!」
アランは森で採取をしていた。すでに村に戻って2か月ほど経っており、すでに受けている修繕依頼をこなすために素材集めに来ているのだ。
「よし。今日はこれくらいにしておくかな。思ったよりも素材が採れたから、多めに作業が出来そうだ」
『ふむ。ようやく動けるようになってきたようじゃのぅ』
「ふふふ。もう、慣れたからね」
アランが背負子に採取した鉱石を仕舞い込んでいるのを眺めつつ、レーヴァが人型になってアランの肩に乗る。
『よし、もう一段上げてみようかのぅ』
「ええ! ちょっと待って! やっと慣れてきたんだよ!」
『まだまだ余裕がありそうだのぅ。もう2段上げておこう』
「いや……ちょっ! ぐぉぉぉぉ」
レーヴァがアランの額に手を触れると鈍く光りだす。見た目は何も変わっていないが、それまで快調に動いていたアランの動きが急に鈍くなった。
「ちょっと待って! これは無理!」
『なにを言っておるのじゃ。まだ儂の力を4割ほどしか使えておらんではないか。これに慣れれば5割は使いこなせるわぃ』
アランの悲鳴にレーヴァは笑う。今まではアランの身体を使ってレーヴァの力を振るっていたのだが、今は逆にレーヴァの力をアランに与え使わせている。
アランの身体能力を使っているので、初めてレーヴァに力を与えられた際は全く身動きが取れず、家から一歩も出る事が出来なかった。
風呂と食事以外は常にレーヴァの力を与えられており、寝る時もであり睡眠不足に陥っていた。
「急にどうしたのさ。今までは僕の身体を使ってたじゃないか。なにかあるの?」
『元々、お主を鍛えるつもりではおった。儂が手元になくとも力を使えるようにしてもらわんとのぅ。もうすぐ
「そう言われれば頑張るしかないじゃないか」
『くはは。その通りじゃ! 儂を使わんでも馬鹿
「それは無理だから! ユーファは魔王を倒しているんだよ!」
魔王を討伐した勇者と一騎打ちをして勝て。そんな事が出来るなら、旅の途中でリタイアなんてせずに最後まで一緒に戦った。そう言おうとしたアランだが、レーヴァの言葉に硬直する。
『ほれほれ。そのような泣き言を言っておる場合か? もうすぐオオカミがこっちへやってくるぞぃ』
「にぎゃぁぁぁ! この状態で戦えって!?」
アランは慌ててレーヴァを引き抜くと構える。近くの藪が激しく揺れる。アランとレーヴァの会話に気付いたのか、藪から飛び出してくるとアランに殺気を向け牙をむき出しに
<グルゥゥゥ!>
「ひっ! ちょっと動きづらいから勘弁してほしいんだけどなー」
『ほれ。相手は許してくれそうにないぞ』
オオカミはアランの動きが悪い事に気付いたのか、身体を半身落とすと勢いよく跳躍してアランに襲い掛かった。
「なにくそぉぉ!」
足を狙った攻撃を転がるようにかわすと慌てて立ち上がり、レーヴァをオオカミに向ける。すんでのところで避けられたオオカミは興奮した状態で再び襲い掛かる。
足を狙った噛みつきをかわされたオオカミは次はアランの腕を狙って噛みつこうとする。
「それは見えるよ!」
しかし、アランはオオカミの動きをしっかりと見ていた。レーヴァの力で身体が思うようにならない状態だが、気合を入れて動かすと横なぎにレーヴァを振るった。
<キャイン!>
短い悲鳴を上げるとオオカミは地面に転がる。肩から血を流しており、自身が怪我をしたのを把握すると、じりじりと下がり始め、そして勢いよく
『ふむ。引き際をわきまえた奴じゃのぅ』
走り去るオオカミの背中を眺めながらレーヴァが感心したように呟いていた。
「はぁはぁ! なんとかなったー。レーヴァ!」
一方のアランは息も荒く、オオカミを見るどころではなかった。背負子から布を取り出すと、まず汗を拭き、そしてレーヴァに付いた
『なんじゃ? 先ほどの戦闘の講評をして欲しいのかえ?』
「そうじゃないよ! 分かってるでしょ!」
すっとぼけた様子のレーヴァにアランは怒りの視線を一瞬向けるが、諦めたように背負子から水筒を取り出すと一気に飲み干す。
「危うく怪我するところだったよ」
『しとらんからええじゃろぅ。まあ、及第点じゃな。最後の攻撃は横なぎではなく突きをすべきじゃったな。であれば倒せておったわぃ。それに生死の境で戦った方が伸びがよい』
水を飲んで落ち着いたアランが抗議と言うより、苦情に近い口調で話すとレーヴァが軽い感じで返答する。
「だけどさ――」
『ほれ。動けるようになっておるじゃろぅ?』
さらに話をしようとしたアランだが、レーヴァに
いや、今まではなんだったのかと言いたくなるほど身体が軽くなっている。
「え?」
『うむうむ。やはり戦いの中に身を置くのが一番じゃのぅ。もう使いこなしておるわい』
レーヴァはアランの額に手を当てると満足げに何度も頷く。アランも驚きながらも確認している。そして、レーヴァに視線を向ける。
「なんかレーヴァが僕の身体を使っているみたいな動きが出来る」
『まあ、儂の力を5割も使えるようになっておるのじゃ。それくらいの動きはしてもらわんとのぅ。まあ、動きが出来たとて、戦いの場において瞬間で判断出来るかは別じゃがのぅ。ここまで出来るようじゃったら、もういいじゃろう』
「え? それって特訓は終わりってこと?」
この2か月での特訓が終わった。そう思ったアランは歓喜の声を上げる。それほど地味につらかったのだ。大喜びしているアランにレーヴァも笑顔を向けた。
『うむ。これで次の段階に進めるのぅ』
「嫌だーーーー!」
レーヴァの笑顔とは対照にアランの悲鳴が森に響き渡るのだった。
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