第50話 気分転換
アランは説明した。
それはそれは懸命に説明をした。人生で1番だと自負できるほど真剣に身振り手振りも交えて村人たちへと必死に説明した。
「ダメだった……」
自宅に戻り、崩れ落ちるように打ちひしがれるアラン。そんなアランの肩に乗ったレーヴァが笑いながら頭を撫でていた。
『まあ、そんなもんじゃろぅ。お主の言い方が悪いわい。言い訳にしか聞こえん』
「い、言い訳じゃないから! ちゃんと説明したんだからね!」
『あれが説明とはのぅ』
レーヴァの言葉にアランがガバッと頭を上げ力説する。しかしレーヴァによって一刀両断される。実際、説明を受けた村人たちの反応はアランが単に恥ずかしがっているだけだと勘違いしていた。
また、村人たちが勇者との結婚を祝福すると、アランは素直に受けて感謝を述べる。そして村人たちの勘違いを交えた会話が続いたのだ。
『勇者様だけじゃなくて、賢者様をはじめとする勇者パーティーメンバーに聖女様とも結婚するんだって?』
『いやいや! ルーイーさんとヘロイーゼさんと結婚はしないよ!』
賢者や聖女との婚約どころか、結婚する話になっている状況にアランが焦って否定したのも
『もう名前で呼び合う仲になっているのか。やるなアラン』
『いや、そうじゃなくてね!』
村人からすれば、気楽に名前を呼び合う間柄。そう思っても不思議ではなかった。慌てるのはまだ結婚が具体的に進んでいないからだ。そう認識し、うんうん分かる。
「どうしよう。このままじゃ奥さんが5人だと勘違いされちゃう」
『人の噂なんぞ、放っておけばその内なくなるわい。気にする必要なんぞない。そう思う事じゃな』
心底困っているアランだが、レーヴァは軽い感じで考えている。勇者、聖女とは確実に結婚するであろう。勇者は王家を動かしており、聖女は教皇に直談判するといっていた。また、賢者ルーイーもアランを狙うために自国に書簡を送っていると聞いている。
今は別行動をしている勇者パーティーの聖騎士や剣聖も、この話を聞けば、あれほどアランに熱い視線を送っていたのだ。実家の派閥を使って動き出すであろう。
ただ、レーヴァはそれを現時点でアランに伝えるつもりはなかった。放っておいても話はくるであろうし、これ以上余計な心配をアランにさせるつもりはない。
『まあ、なるようにしかならんじゃろぅ。それよりもしばらく家を空けておったのじゃ。掃除をして気分転換でもすればいい』
「そうだね……。気分転換は必要だね。よし! 気合を入れてピカピカにするか! まずは背負子がいる納屋からだね」
話をそらすためにレーヴァが掃除の提案をすると、アランは大きくなずき気合を入れ
◇□◇□◇□
「おお、思ったよりきれいに整頓してくれている。背負子、ありがとう」
『おで、がんばった』
アランとレーヴァが納屋に入る。納屋は区画がキッチリと決められており、修繕に必要な素材が大量に置かれているばしょ。食材や果物が大量に積まれている区画もあった。
アランは果物や肉や香辛料がある区画に足を運ぶと、大量に積み上げられているのを見上げる。
「おお、思ったよりも果物を買ってたんだな。ブドウは干して、他のはジュースにして凍らせておこうかな。あと、肉も凍らせておかないと痛んじゃうね」
『なんじゃ。干しブドウを作るのか? じゃったら、その前に食べておこうかのぅ』
『これが一番粒が大きい』
干しブドウにする前に食べたいとのレーヴァの発言に、大量に積まれたブドウの中から、ひと房が空中に浮いてレーヴァの元にやってくる。
『すまんのぅ』
『いい。おで、レーヴァだいすきだから』
「ふふ。本当に背負子はレーヴァが好きだねー」
『アランもすき』
「ありがとう!」
背負子からブドウを受け取ったレーヴァは頬を緩めて美味しそうに食べ始める。アランは背負子が居るであろう場所に視線を向ける。
姿は見えておらず、気配だけは感じる事ができていた。アランは背負子の本来の姿を知らず、納屋にいるのに気付いた後、話をしていくうちに仲良くなった。
背負子は自分を認識してくれたアランに懐き、自然と手伝いをしてくれるようになったのだ。ちなみに名も無き存在に、背負子と名前を付けたのはレーヴァである。
「それにしても背負子の正体って何だろうな」
『ん? 知らんのか?』
アランの呟きにレーヴァが首を傾げる。てっきり知っていると思っていた。そう表情で語るレーヴァにアランが驚く。
「え? レーヴァは背負子が何者なのか知っているの?」
『ああ、背負子は低位精霊じゃのぅ』
「え!? 精霊だったの!」
あっさりと答えるレーヴァにアランは目を見開く。精霊はこの世界に無数にいるが、目にする事はないと言われている存在だ。
有名な精霊としては過去の勇者が使役していたとされる火の精霊がいる。またエルフは風の精霊を使役する事で有名である。
「背負子はなんの精霊なの?」
じゃあ、納屋に住んでいる背負子はなんの精霊なのだろうか? そう思い、気配がしている方へ向かってアランが話しかける。
『おで? なんのはなしかわからない』
『こ奴の場合はなんじゃろうな? 4大精霊じゃないのは確かなようじゃが。そこまでは儂も分からん』
「背負子が精霊ってのはびっくりだけど、手伝ってくれるのは本当にありがたいよね。背負子が何者でいいや。ちょっと気になったけど、正体が分かったらもうこれ以上はいいや」
『軽いのぅ。本来なら精霊に好かれるだけで
アランとしては背負子がいるからこそ、気楽に素材集めが出来ており、何者であろうとも気にする必要はないと思うことにする。
「背負子は背負子だからね」
『おでがんばる』
精霊を使役しているのと同じことをしているアラン。それは快挙と言っていいことであり、国に報告すれば爵位がもらえるほどの出来事なのだが、アランは気にすることなく納屋の掃除に取り掛かるのだった。
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