第49話 噂は巡って大きくなる

「なんだって!? アランのやつが結婚するだと!」

「ああ、相手は勇者様らしい。俺がアランから直接聞いたから間違いない。あんなお綺麗な方と結婚出来るなんてうらやましいぜ! あと、賢者様と一緒に魔族も討伐したらしい」

「ユーファ様の想いが届いたってことだな。無自覚なアランが結婚するとは。ユーファ様のアプローチに気付いてない姿を見るたびに、ぶん殴りたくなったぜ」

「わかる! それな!」


 ジェイクと男性の会話を近くで聞いていた男性から始まった噂は、村の中で徐々に広がりを見せていた。


「おいおい。凄い話を聞いちまったぜ。魔族を討伐した功績で勇者様とアランが結婚するとはな。おい! ちょっと聞いてくれよ」

「なんだよ。酒場はまだ空いてないぞ」

「そんなの待ってられねえよ! アランが結婚するんだぞ!」

「なんだって!」


 さっそく、盗み聞きした話を仲が良い友人を捕まえて話をする。そして二人の話を一緒に聞いた男性が家に帰って妻に話した。


「何やら賢者様と一緒に魔族を討伐した際に賢者様とアランが恋に落ちたらしいぞ。それで勇者様が負けじと告白したとの事だ」

「勇者パーティーの方々とかい?」

「どうやらそうらしいぞ。まずは勇者様と結婚するそうだ」

「親父! その話は本当か!? くー。アランってやつは信じられねえ事をしてくれるぜ! 勇者様の次は賢者様と結婚か。その次は誰だろな?」

「聖騎士様か剣聖様だろう」

「くそー。剣聖様のファンだったのにな!」


 両親の話を聞いた息子は、急いで家を飛び出すと、いつもたむろしている場所へ息せき切って行くと、そこにいた仲間達に話し始めた。


「アランが勇者パーティーの全員と結婚するらしい!」

「マジかよ!」

「ひゅー。そりゃすげえ! 勇者パーティーと言えば王家や貴族の方々からも嫁に欲しと言われているって噂だからなー。それを独り占めとは!」


 そして噂は村長の元に届いた。慌てた村長は真っ蒼な顔でアランの家を訪れる。


「アラン! 魔王が復活だと! それに勇者様と一緒に魔王討伐に行くとはどういうことだ!? それと勇者パーティの方々と聖女様ともまとめて結婚するなんて聞いておらんぞ! なんて節操せっそうない行動をするのじゃ。結婚はそんな軽い物じゃない。第一、相手は勇者様に貴族様で、聖女様も居るんだぞ。結婚式は国を挙げてせんと!」


「いや! どゆこと!? ちょっと待ってよ村長さん!」


 アランに向かって村長が叫ぶように一気に伝えると、アランが飛び上がって驚く。なにをどうやったらそんな話になるんだ? ジェイクさんにはユーファと結婚することになった。魔族を討伐した。その2点しか話してないはず。


『ふむ。噂とは凄いのぅ。それだけ噂が膨らんでおるのに一部あってるんじゃからのぅ』


「やっぱり合っているのか!?」


「一部はあってるけど全然違うから! 村長さんちょっと落ち着いて!」 


 レーヴァの言葉に再び興奮し始めた村長をアランは再びなだめる。そして家に入れるとコーヒーを淹れて、一息つくようにすすめた。


「にがぁ!」


「どう? ちょっとは落ち着いた? はい、牛乳」


「あ、ああ。あまりの苦さに目が覚めた。もう、村中で噂になっておるが、再度アランから話を聞こうじゃないか」


 うわぁ。もう噂が広がり切っているのか。アランはゲンナリしつつも、村を出てから戻るまでの話をする。森の中で魔物化した巨大な猪に出会った事。ユーファに呼ばれて、森を調べる事になった。

 そして森で魔族と出会い、レーヴァとルーイーが討伐したこと。それから城門の前でユーファからプロポーズされ受けたこと。


「それで村に帰る途中に聖女様と出会ったと?」


「そうだよ。錫杖を修繕したら喜んでくれたよ」


「アランじゃなければ嘘にしか思えん出来事ばかりだな」


 村長はアランを村に受け入れた人物であり、勇者ユーファとのやり取りもしているので、彼女の淡い恋心も知っている。あと、勇者パーティーがアランに向ける視線にも気付いていた。


「結婚するのはユーファ様とだけなんだな?」


『いや、それはどうかのぅ。賢者や聖女もアランを狙っておるようじゃったぞ?』


「レーヴァ! そんな噂が広がるような事を言わないで!」


 相手に迷惑がかかるだろう? そう真剣な目で叱責するアランを、レーヴァはカラカラと笑って相手にしない。


『ふははは。自分の持っている壊れた武器。それもアーティファクト級の武器じゃぞ。それをあっさりと直すアランが興味を持たれるのも当然じゃ。時代が時代なら国を挙げて囲い込むじゃろうな』


「そんな大げさな。僕のスキルは大したことないよ。それよりも村長さん。村に変な噂が広がっているから気を付けてよね」


『しっかりと本当の事を皆に話す必要があるのぅ』


「うわぁ、全員に話が必要だよね……」


 頬を膨らませて怒っていたアランだったが、レーヴァからユーファとの結婚話だけだと説明が居ると聞いて天を仰ぐ。だがそんなアランの表情は大変可愛らしく、村長はアランを見ながら、心の中で呟いた。


(鈍感なアランでは気付くことも出来んだろうが、勇者様との結婚が動き出したら、他の勇者パーティーメンバーも黙っておらんだろうな)

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