第48話 アランが村に到着する
満足げな表情でアランが淹れたコーヒーを飲むレーヴァ。苦いのが目覚めにいいと何も入れずにブラックのままで飲んでいる。それに対してアランはミルクをたっぷり入れ、さらにはハチミツを足して甘々にしていた。
満足げにはちみつミルク入りコーヒーを飲んでいるアランを、信じられないとの表情でレーヴァは見ている。そして呆れたように呟いた。
『毎回思うんじゃが、そんな甘ったるいのをよく飲めるのぅ』
「なにを言っているんだよ。甘いは正義なんだよ! それに甘いコーヒーを飲むと朝の活力になるからね! ちゃっと補充しておかないと」
『この苦さが目覚めに良いのにのぅ。全く理解できんわい。おい、まだ足すのか?』
さらに追いハチミツをしようとするアランに、レーヴァは驚愕の表情を浮かべたが、幸せそうなアランの表情に苦笑すると、残りのコーヒーを一気に飲み切った。
『うむ。美味かった。今日は昼に村に戻る感じかのぅ』
「後は一本道だし、寄り道する場所もないからね。出発準備はゆっくりとして、のんびりと村に戻ろうよ」
高低差もなく平坦な道であり数時間もあれば村に到着する。昼過ぎに到着となれば、村のみんなも仕事が終わっているだろうから邪魔にならない。
そう判断してのアランは巨木の休憩所での宿泊を決めたのであった。
「じゃあ、ちゃちゃっと片付けますか」
アランはタープ型テントを折り畳んで背負子へ収納し、調理道具や食器類を洗ってキレにする。そして焚火の始末も行い周囲を見渡した。来た時よりも綺麗にする。これはアランが休憩所を利用した際の信条であり、周りの者にも伝えている。
その考えが浸透しているのか、アランが利用する街道は清潔に保たれており、利用者から好評であった。
「よし、きれいになったね。じゃあ村に向かって出発だ」
問題ないと軽く頷くとアランはレーヴァへ声をかける。村からミングウィンの街へ来て、帰路に着いている今までの日程は1週間程度だ。それほど村から離れていたわけではないのだが、レーヴァが感慨深そうに呟いた。
『久しぶりに家に帰る気がするのぅ』
「本当だね。濃い出来事が多かったからね」
『まさかお主が婚約するとは思わなかったぞ』
「それはそうなんだけどね。僕が一番びっくりしているから」
レーヴァの言葉にアランが返答する。
『まあ、なるべくしてなったと思うしかあるまい。
そうなるために頑張っておったからのぅ』
「全然気づかなかったよ。気に入られているとは思ったけどさ」
『お主はもっと女心を勉強すべきじゃのぅ』
からからと笑っているレーヴァにアランは何も言わずに顔をしかめると村に向かって歩き始めるのだった。
◇□◇□◇□
「そろそろ村に到着だね」
『なにも起こらんかったのぅ。実につまらん』
「なにも起こらないのが一番だからね」
レーヴァの言葉にアランが苦笑する。巨木の休憩所から村までなにも起こらず到着したのが不満なのか口を尖らせているレーヴ。
『いかなる時もお主の特訓になるように考えておる』
「つまらんって言ってたよね?」
『そんな昔の話など覚えておらん』
「今さっきの話だからね!」
アランとレーヴァがワイワイと言い合いながら村の入り口に近付くと、門番をしている中年の男性が声をかけてきた。
「おお、アランじゃないか。今回は早めに戻ってきたんだな」
「ジェイクさん! ただいま」
槍を片手に暇そうにしていたジェイクが嬉しそうにアランを眺める。いつものように背負子を背負っており、腰には剣を差している。そしてレーヴァが肩に乗っている。
変わらない格好だが、少し表情が違う事に気付く。
「なにかあったのか?」
『ふふ。色々あったぞ。後でアランから聞くとよい。なんせ婚約までして、魔族も討伐して返ってきたんじゃからのぅ』
「魔族を討伐したのはレーヴァだよね!」
「おい、ちょっと待て! 婚約ってアランがか? マジかよ。その話を詳しく聞かせてくれ」
レーヴァの言葉に驚きの声すら出ないジェイク。なにがあったのか? 魔族も討伐したとの言葉も気になるが、それよりも婚約話が気になるジェイクは根掘り葉掘り確認する。
「……との感じでユーファと婚約するかもしれないんだよ」
「ああ、ユーファ様ってミングウィンの街で領主をされている勇者様だよな?」
「そうだよ」
ジェイクは念のために相手を再度確認する。返ってきたのは間違いないとの回答であった。
「ジェイクさん?」
「ああー。その、なんだ。アラン様? と呼べばいいのか?」
もじもじしながら、恐る恐る話しているジェイクにアランが慌てる。そんな他人行儀な言葉遣いなんて求めていなかった。
「いやいや! 今まで通りでお願い! なにも変わらないから!」
『なにも変わらんことはないじゃろう。勇者で貴族と結婚するんじゃからのぅ』
「レーヴァは黙って! 面白がってるだけだろ!」
ニヤニヤと笑っているレーヴァをアランは止める。これ以上かき回されてはたまらないとの態度にレーヴァは肩をすくめると背負子からブドウを取り出して食べ始める。
「レーヴァさんの言う通りだぞ。アランがそう言ってくれると助かるんだが、結婚したらアランも貴族になるだろう。村長に伝えておいた方がいいな。後で村長の家に行ってくれよな。俺の方が連絡は入れておくから」
「むー。分かったよ。それはジェイクさんに任せるよ。とりあえず自宅に戻るね」
「ああ。また後で魔族の件も聞かせてくれ」
ジェイクは魔族の話も気になるが、それよりもアランの結婚話を一刻でも早く村長に伝えなければと思っていた。
「こんな面白い話を独り占めしたらみんなに恨まれちまう。くくく。それにしてもアランが勇者様と結婚ねえ。やっと勇者様の気持ちに気付いたのか。あれほどあからさまにアピールしているのに気づかなかったのになあ」
自分との会話を終わらせ自宅に向かったアランの背を見ながらじぇくは楽しそうに呟くと、村長の家に向かいつつ出会う村民たちへ片っ端から嬉しそうにアランの婚約話を伝えていくのだった。
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